◆IP電話サービスとは
IP電話サービスとは、IP(Internet Protocol)技術を利用して提供される音声電話サービスをいいます。中継部分にインターネットを利用して提供されるサービスと、専用のIP網を構築して提供されるサービスの2つに大別されます。
前者はISPの競争戦略として主に個人ユーザーをターゲットにしており、Yahooグループの「BBフォン」が先行しています。後者は電話事業として主に企業ユーザーをターゲットにしており、最近では導入を検討する企業が急速に増えつつあります。
企業ユーザー向けのIP電話には、0AB〜J番号が利用できること、高い音声品質であること、低廉な料金で利用できること等、競争力のあるサービスが求められています。
NTT東日本でも、企業ユーザーをターゲットとした「法人向けIP 電話サービス」を2003年10月より提供しておりますが、本サービスの概要と今後の展望について、技術的な内容を含めてご紹介致します。
◆サービス概要
■主な特徴
法人向けIP電話サービスは、0AB〜J番号を利用した固定電話相当の音声を低廉な料金でご利用いただけるサービスです。電話番号については、NTT東日本の加入電話等をご利用いただいているお客様が本サービスを同一設置場所でご利用いただく場合は、現在ご利用中の電話番号をそのままご利用いただけます。ユーザーには本サービス専用に使用する100Mbpsの帯域保証型のアクセス回線をご用意いただきます。PBXについては、お客様所有の既存のアナログPBXやIP-PBXをそのままご利用いただくタイプ(別途、ゲートウェイ機器等が必要)と、本サービスで提供するIP セントレックスをご利用いただくタイプの双方に対応できます。
本サービスはNTTの加入電話のほか、他社直収電話、携帯電話、PHS、他社IP 電話との発着信が可能です。また、各社のフリーフォンサービスへの発信も可能です。また、法人向けの電話に必須とされる機能をほぼ網羅しております。詳細は次のとおりです。
図1 「法人向けIP電話サービス」の主な特徴
■基本サービス
●発信電話番号通知、表示
電話番号単位に通常通知または通常非通知の選択が可能です。また、通話毎に「184」「186」をダイヤルして選択することもできます。発信者から電話番号が通知された場合は、電話番号の表示も可能です。
●一般代表機能
0AB〜J番号を親番号、子番号とする一般番号代表を組むことができます。代表選択方式は、順次サーチ方式(代表に属する電話番号にあらかじめ着信順位を付与しておき、その選択順位に従って空き番号を検索する方式)かラウンドロビン方式(順次サーチ方式同様に着信順位を付与するが、選択順位を着信毎にシフトしていく方式)のどちらかを選択できます。
●転送機能
電話番号単位に、無条件転送、無応答時転送、話中時転送、応答後転送、発信者識別転送(発信者の番号が登録された番号の場合に無条件で行う転送)のいずれかを提供します。
●着信拒否系サービス
着信拒否系サービスとして、指定着信許可/拒否(登録した電話番号からの着信のみ許可/拒否)と非通知着信拒否(発信電話番号が非通知の場合、着信を拒否)を提供します。
●同一契約者間通話
本サービスの同一契約者間で、音声VPN通話を提供します。
●カスタマーコントロール機能
カスタマーコントロール機能は、お客様ご自身で発信電話番号通知の設定、転送先の設定等をweb からリアルタイムに行うことができる機能です。これにより、変更の都度お申し込みをいただく必要がなくなります。
■オプションサービス
●IPセントレックス機能
お客様設備であるPBXの各種機能を本サービスの付加機能として提供することができます。
IPセントレックスの主な機能としては、次のようなものがあります。
・IPセントレックス内線
内線番号による内線電話機同士の発着信を提供します。
・IPセントレックス内線代表
0AB〜J番号を親番号、内線番号を子番号とする代表を組むことができます。代表選択方式は一斉着信方式(IPセントレックス内線代表に属する内線番号全てに着信し、最初に応答した端末を着信先として接続する方式)かラウンドロビン方式のどちらかを選択できます。
・内線転送
IPセントレックス内線番号単位に、無条件転送及び応答後転送を提供します。
・発信接続規制
内線電話機単位に、発信接続規制を提供します。規制クラスは、「同一拠点の内線通話のみ可能」「異拠点を含む内線通話のみ可能」「発信規制地域番号以外への通話が可能」の3クラスになります。
図2 「法人向けIP電話サービス」概要
図3 カスタマーコントロール機能
図4 IPセントレックス機能
◆料 金
従来、NTT東日本は県内通信に係わる事業を展開しておりましたが、一方で法人ユーザー市場においては、県内、県間、国際及び移動体通信といった通信の区分に関わらず、一つの事業者に一元的なサービス提供を求めるお客様ニーズがあります。こうしたニーズに応えるため、本サービスからの発信において、NTT東日本が県間通話、国際通話、携帯通話及びPHS通話にかかる料金設定を行うことにより、低廉な料金を実現しお客様の音声通信コストの大幅削減を可能にしています。また、IPセントレックス機能をご利用いただく場合は、従来のPBXが不要になり、設置や保守運用等にかかるコスト削減も可能になります。
図5 低廉な通話料金
図6 IPセントレックス導入時のコスト比較
◆サービスを実現するしくみ
■ネットワーク構成
法人向けIP電話サービスの専用IP網(以下、専用IP網)へは、専用アクセス回線から接続します。ユーザーからの呼制御信号と音声通話は専用IP 網を経由してPSTN(Public Switched Telephone Networks)網へ伝送され、PSTN網からの着信も同様です。
SIP(Session Initiation Protocol)サーバはユーザー管理、及び電話番号管理、専用IP網内の呼制御を行い、また、オプションサービスのIPセントレックスのサービス提供を実施します。
CA(Call Agent)は専用IP網とPSTN網とのインターワークをつかさどり、SG(Signaling Gateway)とMG(Media Gateway)を制御します。
またSIPサーバ及びCAは課金情報の管理を行い、情報を顧客管理システムへ転送します。
図7 「法人向けIP 電話サービス」ネットワーク構成
■プロトコル等
呼制御信号はSIP、音声符号化方式はG.711を採用しています。
■通信手順
ユーザーが0AB〜J番号をダイヤルすると、呼制御信号がSIPサーバに飛び、SIPサーバではダイヤルされた番号が専用IP 網内の番号かどうかの判定を実施し、専用IP網内の番号の場合はSIP サーバ、専用IP網内以外の番号の場合はSIP サーバとCAで呼制御を実施します。
専用IP網内の呼制御を実施する場合、発側端末がSIPサーバを経由して着側端末と呼制御信号をやり取りし、発側端末から着側端末へのRTPセッションが確立されます。
専用IP網内以外の場合、発側端末はCA/SG〜着側交換機へと呼制御信号を流通させ、通話路を確立します。具体的に呼制御信号はCA/SGにおいて専用IP 網側のSIPとPSTN 網側のISUP(ISDN UserPart)を相互変換します。
音声の流れは、発側端末から提供エリアのIGS 交換機に接続されたMGにおいて専用IP 網側のRTP(Real-timeTransportProtocol)とPSTN網側の音声信号を相互変換し、通信を成立させます。
■セキュリティ
専用IP網はメトロイーサ等のイーサ系サービスやフレッツサービスの地域IP網とは別に構築された音声専用の閉域網を構築することにより、網自体のセキュリティを高めています。固定電話相当の音声品質確保は専用IP網における同時接続数管理及びアクセス回線におけるチャネル数管理を行うことにより実現しています。
また、電話番号等のお客様情報とアクセス回線を関連付けて地理的識別性を確保し、0AB〜J番号の利用を可能にしています。
さらに、契約者が専用IP網へアクセスする毎に発信電話番号等の認証を実施することにより、悪意のある第三者のなりすましや契約者側へ不正侵入を防いでいます。
そして、専用IP網とPSTN網との接続ポイントの二重化、専用IP網内のルート二重化、SIPサーバ・CAの冗長化を実施することで故障等の障害に対する耐障害性を高めています。
今後、ご希望されるお客様用にオプションサービスとして収容装置の二重化も検討していく予定です
図8 セキュリティその1
図9 セキュリティその2
◆今後の展望
IP電話は、従来の固定電話に比べて安価な通話料金に注目が集まっていましたが、今やコスト削減効果を狙ったオプション機能としてのIP セントレックスサービスや、現在お客様にご利用いただいている0AB〜J番号をそのまま利用できることなど、IP電話の持つ付加価値の部分に競争フィールドがシフトしてきています。
NTT東日本が提供を開始しました法人向けIP電話サービスは、前述のIPセントレックスサービスについて、今後はご要望される機能を短期間で開発するカスタマイズ性を高めたり、アクセス回線の多様化に対応することにより、お客様のニーズに応じたサービス機能の積極的拡充を進めたいと考えています。また、0AB〜J番号の利用は可能となっているものの、固定電話が実現している緊急通報については、サービス開始当初は提供いたしません。今後は停電時や電話輻輳時においても確実に接続できることを念頭に、ユーザーシステムも考慮した停電対策や、緊急通報の優先的な接続の実現に向けた取り組みを進め、検証等により実績を作った上で提供していく予定です。
このようにIP電話はクリアすべき課題こそあるものの、今後も大いに発展しうる可能性を秘めており、NTT東日本としても市場動向やユーザーニーズを的確に把握しながら対応していきたいと考えております。
お問い合せ先
東日本電信電話株式会社
サービス開発部
ネットワークサービス部門
TEL:03-5353-4041
FAX:03-5302-8092
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