NTTグループのソリューションガイド

ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション

2年間の成果が、着実に売上貢献の形で
出始めた新規パイプライン(i3ファンド)施策

1兆円企業の実現に向け、NTTデータでは平成16年度より、年間15億円の社内基金(i3ファンド)を設け、新商品・サービスの創造に向けた全社推進施策「新規パイプライン施策」を展開している。施策の運用管理を担当しているビジネスイノベーション本部ビジネス推進部の田中学シニアエキスパートに、2年間のi3ファンド活用状況と今後の展開についてうかがった。

「新商品・サービスの創造」に向けた全社推進施策

まず最初に、平成16年度から開始された新規事業の全社推進施策「新規パイプライン施策」のポイントからお聞かせください。

(株)NTTデータ ビジネスイノベーション本部 ビジネス推進部 ビジネス推進担当 シニア・エキスパート 田中 学氏
(株)NTTデータ
ビジネスイノベーション本部
ビジネス推進部
ビジネス推進担当
シニア・エキスパート
田中 学氏

田中ご存じのようにNTTデータグループは、平成18年度(2007年3月期)に売上1兆円を達成することを中期経営目標にしています。そのための重点方針の一つが、「積極的な新商品・サービスの創造」への取組みです。新しいアイデアが毎年でてきて、毎年事業化するといったように、山谷のない収益モデル定常化の流れを作ることが重要ということから、社長方針として、新商品・サービスの創出に向けた取組みを全社で推進することとしました。そして平成16年度から、新商品・サービスの創出を加速するための社内基金として、年間15億円程度の新規事業支援ファンド「i3(アイキューブ)ファンド」を設けています。私どもビジネスイノベーション本部(BI本部)がこのファンドを預かり、有望アイデアに対して資金提供しています。新しいビジネスアイデアの審査から事業性の検証、事業トライアルの支援、さらには売上状況のモニタリングまで、定常的な収益モデル作りに向け、一貫して運営するということから「新規パイプライン施策」と称しています。施策のポイントとしては、大きく2つあげられます。一つは、新しいビジネスの種について迅速な事業化判断を行うために、年度途中に発生した当初計画外のビジネスアイデアに対するオンデマンドでの資金提供です。もう一つは、第一線における事業スタートアップへの取組み(事業性検証や事業トライアル)を支援することです。

「i3」の由来は…。

田中“I”→「私(たち)」が最後までやり遂げる、“Innovation”→新商品・サービスにより、世の中に「変革」を生み出す、“Insight”→お客様の声に基づいて深い「洞察力」を働かせる、の3つを意味しています。

不確実性の高い事業のスタートアップ段階を手厚くサポート

新規パイプライン(i3ファンド)施策の適用対象についてお聞かせください。

田中アイデア源は、社内外を問いませんが、次の3つの条件を満たす新商品・サービスのビジネスアイデアを対象にしています。

  • 期中発生・原資なし:事業計画に計上されておらず、推進のための原資が確保されていないアイデア
  • 新商品・サービス:NTTデータグループが開発・販売していない商品・サービス
  • 事業の成長性:大きな顧客ニーズが存在していると予測されるもの(年商10億円程度の事業規模)

また、i3ファンドの活用は、前述したように新商品・サービスの事業性を迅速に見極めるのが主目的であるため、不確実性の高い事業スタートアップ段階での事業性検証や事業トライアルまでを対象にしています。事業トライアル結果を踏まえた事業化は、各本部の事業計画予算で推進することとなっています。

従来の社内ベンチャー制度との関係をお聞かせください。

田中平成8年度からアントレプレナー養成も兼ね、会社設立を目指した社内ベンチャー制度を実施してきましたし、個人発案のアイデアを受け入れるアイデアマーケットという仕組みもありました。しかしこれらの施策は統一的に展開されていませんでしたので、個人発案のアイデアと事業計画外の組織発案のアイデアとを統一して管理するようにしています。従来の社内ベンチャー制度は、社内の他事業とのシナジーで会社を興すというよりは、シナジーの有無にかかわらず発案者自身が会社を興し事業展開することに軸足を置いていました。しかし現在は、会社を興すのが最適なのか、会社の中で事業拡大を図るのが最適なのかを判断し、決めています。

図1 新規パイプライン(i3ファンド)施策運用の全体像(クリックして拡大)
図1 新規パイプライン
(i3ファンド)
施策運用の全体像

(クリックして拡大)

施策運用のプロセスについてお聞かせください。

田中図1に施策運用の全体像を示します。まず、個人発案及び期中に発生する組織発案の有望アイデアを随時受け付け、1次審査(ビジネスアイデア審査)を行います。これを「90審査」と呼んでいます。90審査をパスしたビジネスアイデアには、数百万円の資金が提供されます。そして、3カ月以内を目安に市場調査やビジネスモデル策定などの事業性検証を経て作成されたビジネスプランをスクリーニングする2次審査(ビジネスプラン審査)を行います。これを「27審査」と呼んでいます。この27審査をパスしたビジネスプランには、数千万円の資金が提供され、これを用いてプロトタイプ構築や実証実験等の事業トライアルを実施します。私ども運営事務局は、各案件を単に管理するだけではなく、ビジネスプラン作成や事業トライアル段階での各種活動において、手厚いサポートを行うよう努めています。

何故、90審査、27審査と称しているのですか。

田中数値目標を設定することで本施策を社内に定着させて、継続的な流れを作るという基本方針のもと、私どもは当初、新しいアイデアが年間90件でてきて、その内の3割が事業トライアルに進むものとシミュレーションしていました。この結果を基に、1次審査を90審査、2次審査を27審査と呼んでいるのです。

制度が定着し、着実に売上貢献の形で成果が出始めている

この3月で丸2年が経過しますが、2年間のi3ファンドの活用状況をお聞かせください。

田中施策1年目の平成16年度は、この制度の普及期間と位置づけ、周知活動を積極的に行いました。その結果、ビジネスアイデアの発案が124件、事業トライアル段階に進んだ案件が48件あり、当初の目標を大幅に上回りました(図2参照)。特に、ビジネスアイデアの発案件数は、多くの社員がi3ファンドのような全社施策を待ち望んでいたこともあって、上期で年間目標の90件を超えました。そして施策2年目の平成17年度は、普及した本施策を活用して結果(売上)をだす定着の年となりつつあります。ビジネスアイデア発案件数は、2年目ということもあって、激減するのではと心配していましたが、鈍化に留まりほぼ年間目標の90件に近い件数になるとみています(図3参照)。アイデアの質が高まってきていることから、施策2年目としては悪くないと思っています。

図2 平成16年度(施策1年目)の実績
図2 平成16年度(施策1年目)の実績
図3 平成17年度(施策2年目)の実績
図3 平成17年度(施策2年目)の実績

i3ファンドを活用された方々の応募のきっかけ、満足度などについて、調査はされていますか。

田中本ファンド利用者に対するアンケート調査を定期的に行っています。応募のきっかけの多くは、ポスターやWebなどを見て応募したというよりは、上司からの紹介が大半です。このことは、新商品・サービスの創出に向けた取組みを組織ぐるみで行うようになってきたことの現れであり、本施策が着実に定着してきていると感じています。また、満足度については、「あって良かったi3ファンド」ということで、金額面でも高い評価が得られています。

年間90件のビジネスアイデアがコンスタントにでてくるというのは驚異的であり、ある意味貴社の底力を感じますが、その秘訣はどこにあるとお考えですか。またそれだけの案件を審査されるのは、なかなか大変ですね。

田中組織ぐるみの取り組みが定着してきているのに加え、私ども事務局も発案者のサポーターとして、ビジネスプランのレビューやブラッシュアップなど、きめ細かな支援活動を行っています。また、審査については、案件が多数集中することも確かにあります。これまで、最高で丸1日で計10件の2次審査を行ったことがあります。また、非常に多くの案件が一つのパイプラインを通っていますので、滞留は常に発生します。そのような滞留を解消して、パイプラインをスムーズに流れるようにするのが、私ども事務局の重要な役目だと考えています。

1年目で、27審査をパスした案件が48件ありますが、これらの売上貢献についてはいかがですか。

田中平成18年度にi3ファンドを活用した新商品・サービスで約200億円の増収を目指すということで、本施策をスタートしてから丸2年が経過しようとしています。新規ビジネスは変動要素が多いため、当初の目標は半年程度の遅れで達成できると思います。事業性の迅速な判断に加えて、いかに実売上に貢献させるかが重要ですが、すでに売上貢献を達成している案件がいくつも出ています。グループ会社(地域会社)からも数多く発案され、グループ会社自身で事業化した事例もあります。

すでに商品化された事例として、どのようなものがありますか。

田中このインタビューに続くi3ファンド活用事例で紹介する「電子公告調査・証明サービス」や、携帯電話のカメラを活用した新データ認識システム「パッとび」はすでに商用化しています。前者は、期中に発生したビジネスアイデアを、i3ファンドを活用してスピーディに事業化したもので、後者はNTT研究所の研究開発成果を商用展開した事例です。また、近々サービス開始する複数メディアへの一斉連絡サービスである「FairCastTM」は、i3ファンドを活用して地域会社発のビジネスアイデアを全国展開に拡げようと取り組んでいる事例です。さらに、介護請求ASPサービス「かがやきぷらんⅡ」のオプションサービスとして提供予定の「介護報酬ファクタリング」は、i3ファンドを活用することで、第三公共システム事業本部と金融システム事業本部の組織間連携を図った格好の事例です。この他、日本語意味理解製品「なずきTM」は、i3ファンド活用の第1号であり、実売上に確実に貢献しています。

2年間で見え始めた課題を解決し、新規事業創出の流れを作る

2年間の施策展開を踏まえて見えてきた課題、さらには今後の展開についてお聞かせください。

田中1案件の潜在的な事業規模として年間10億円程度の売上規模を目安にしていますが、1件当たりの事業規模が比較的小さく、分野も分散しているという点があげられます。今後、ビジネスアイデアの分野を集中させて、事業化を図る方法をとる必要があるのではないかとも考えています。また、これは想定の範囲内でしたが、期中に発生した新しいビジネスアイデアを推進するための体制を構築・維持するのが難しいのと、新規事業そのものに対する優先度がまだまだ低いという点です。これらの課題を解決しつつこの施策を継続して、新規事業創出の定常的な流れを作っていきたいと考えています。

非常に筋の良いビジネスプランでも、先程の潜在的な事業規模の関係もあり、推進する事業部がない場合は、どうされるのですか。

田中セイフティネット的にはBI本部がきちんとサポートし、最終的にはBI本部が預かります。

本日は有り難うございました。

(聞き手・構成:編集長 河西義人)

アイデアの検討・具現化をタイムリーに行うのに最適な施策。i3ファンドを複数案件で活用、内3件を事業化しており、今後も積極的に活用していきたい。

(株)NTTデータ 第三公共システム事業本部 医療福祉事業部長 星 久光氏
(株)NTTデータ
第三公共システム事業本部
医療福祉事業部長
星 久光氏

医療福祉分野のIT化は大きな期待が寄せられていると共に厳しい競争の中にあります。将来に向けての投資が必須なのですが私どもの事業規模では限定して実施せざるを得ず、特に年度途中でのアイデアについては容易に着手することが出来ませんでした。このような私どもにとって、i3ファンドは待ち望んでいた施策で、早速活用させて頂いたところヘビーユーザーと言われているそうです。昨年度は、組織的に沢山のビジネスアイデアを出したということで「組織賞」を受賞しました。すでに3件を事業化し、受注売上に貢献し始めています。今後は、自分達の領域から少し外れたアイデアにもチャレンジして、成功事例を重ねていきたいと考えています。


暖めていたアイデアを具現化し、事業本部のビジネスに結びつける。i3ファンドは、アイデア創出の活性化につながる格好の施策。

(株)NTTデータ 金融ビジネス事業本部 都銀ビジネスユニット銀行営業企画担当部長 安田 有志氏
(株)NTTデータ
金融ビジネス事業本部
都銀ビジネスユニット
銀行営業企画担当部長
安田 有志氏

私は以前より技術開発本部の技術である「Air Messenger®」がお客様のビジネスに活かせるのではないかと目をつけていましたが、当時の都銀マーケットでは適用シーンが限定的であったため、アイデアを暖めるに留まっていました。このような時に、i3ファンドの話を聞き「これだ!」と飛びつきました。i3ファンドを有効活用してアイデアを具現化し、さらに総合金融サービス化の流れを受けて、Air Messenger®を活用したインタラクティブサービス(編集部注:弊誌06年2月号P22-23)として、提案活動を開始しています。今後は、私どもが頑張って成功事例として結実させたいと考えています。i3ファンドは、アイデア創出の活性化につながる格好の施策といえます。


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