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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション

”もう失敗しない”
プロジェクトマネジメント講座

失敗プロジェクトからの脱出

第1回:ごまかしだらけのシステム開発

アクセンチュア株式会社 通信・ハイテク産業本部パートナー 冨永 孝
アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部
パートナー
冨永 孝

失敗プロジェクトが減らないのは なぜだろうか。プロジェクトの成功 に向けて、本来、創造的な場である システム開発の現場で、日々繰り返 される後ろ向きの作業にうんざりさ れている方が多いのではないだろう か。

図1 ごまかしだらけのシステム開発

システム開発の現場で

(1)企画段階のシステムA の企画担当者

「今回のシステム構築は現行シス テムの償却期間が終了したことに伴 うリプレースだから、投資対効果を 示せといわれても算出しようがない よ。ベンダーから提示された見積額 から効果額を逆算して帳尻合わせの 報告書を作るしかないなあ。部長もそこまで内容は理解していないから 会議さえ乗り切れればいいか。」

「既存システムと調整した方がい いけどあの厄介な部署との調整は大 変だからなあ。二重投資になるけど 調整の手間を考えるとこっちで作っ た方が早いか。」

(2)構築中のシステムB の仕様調整担当者

「これだけ仕様調整が必要な部署 があるとコンセンサスなんて取れな いよ。あとは、開発ベンダーに投げ れば状況を汲んで何とかやってくれ るだろう。」

(3)構築中のシステムB の開発ベンダー

「要求仕様を全く文書化しないで、 イメージ図だけを渡されて、あとは 一般的に必要な機能は盛り込んでお いてねって 言われても、 見積りよう がないなあ。 要求漏れの リスク分は 大目に積ん でおいて、 それも超え たら追加請 求すればい いか。」

「単純な要求と思っていたら、ユ ーザーに聞けば聞くほど新たな仕様 が出てくる。既に見積の2倍に膨ら んでしまった。まあ、品質を犠牲に して、残業で頑張れば何とかなるだ ろう。」

(4)商用運用中のシステムC の保守担当者

「またユーザーがバグだって言って騒いでいるよ。そんな要求は言ってなかったのだからこの仕様でいいはずなのに、どうして、ユーザーは 言ってもいない機能が阿吽の呼吸で作られると思うのだろう。言い訳資料でも作っておくか。」

ごまかしだらけのシステム開発

このような状況に最近遭遇した人 はいないだろうか?日々ごまかしの 後ろ向きの作業に貴重な時間を浪費 してはいないだろうか?一体、IT投資額の何割が浪費され続けていく のであろうか。

これでは、一人歩きした制御不能なITがむしろ経営の足かせになっているかの様である。

この時間と予算をもっと前向きな システム開発に向けることが出来る ならば、ユーザー満足度の向上、シ ステム部門の高度化、開発ベンダーのモチベーション向上などが期待で きるだけではなく、経営へのITの 寄与は大幅に改善されるだろう。

あなたのプロジェクトの危険度

プロジェクトが陥りがちな状況の ごく一部を表1に挙げる。

これが普通なことだと思われた場 合は要注意である。あなたの常識が、 会社の業績を悪化させる元凶になっ ているかもしれない。

責任不在のプロジェクト体制が結 局はコストとなって、IT投資削減 を妨げているのだ。

日本の常識が世界の常識とは限らない。

表1 こんな経験ありませんか?(一部例示)

あなたは完璧なプロジェクト管理ができるだろうか?

危険度の高かったプロジェクトの マネージャーの方々、何から着手す ればいいのだろうか。

「そうは言っても、うちの会社に はSIのスキルがある人はいないし、 ユーザーもシステムのことは何も分 かっていないから要求もまともに特 定できない。」

「開発ベンダーに問題がありそう なことは分かるけど、何が悪いのか 指摘も出来ないから、開発ベンダー に丸投げして一蓮托生だ。」

「時間も予算も限られているのだ から管理にこれ以上時間を割くわけ にはいかない。とにかく動くプログ ラムを作ることが重要だ。」

全てのプロジェクトで十分な時間 と予算がある訳ではないだろう。ユ ーザーもシステム部門も開発ベンダ ーもスキルが十分であることの方が むしろ稀な事である。

NASAのように、予算もスキルも 十分あるように思えるプロジェクト でも、先日のようなスペースシャト ルにおける想定外の断熱材落下事故 が起きてしまい、担当者は「もっと よく対策を検討すべ きだった」と述べて いる。このような組 織においても根拠な き楽観主義がはびこ ってしまうのに、ど うしたら私たちのプ ロジェクトで完璧な プロジェクト管理が 出来るのであろう か。

確かにあなたのプ ロジェクトはスペー スシャトル打ち上げ ほど難易度が高くな いかもしれない。しかし、どんなに 容易に見えるプロジェクトでも困難 が立ちはだかり、とんでもない赤字 プロジェクトになり得るのである。

図2 理想のプロジェクトに向けた第3の道

落とし所はある

完璧なプロジェクト管理への道の りは果てしなく長いものに感じられ るかもしれない。しかし、完璧なプ ロジェクトには至らないとしても、 改善に向けた確実な一歩は踏み出せ るはずである。バランスのとれた現 実的な落とし所ともいうべき「第3 の道」を進み、完璧とは言えないま でも大きなリスクが顕在化すること を回避することは可能である。

次回は、まずは現実的な落とし所 を探るためのヒントとして最も基本 的な「スコーピング」について考え ていく。

お問い合わせ先

アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部パートナー
冨永 孝
takashi.tominaga@accenture.com

同マネージャー
田畑 紀和
norikazu.tabata@accenture.com