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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション

これだけは知って欲しいSOA

第2回:事例に見るSOA導入のビジネスインパクト

前回はイントロダクションとして、企業システムの変遷におけるSOA登場の背景および目指す方向性につき概説した。

今回は、SOAの技術特性に触れながら、ビジネスにどう活かせるのかというポイントについて、幾つかの事例を参照しながら説明したい。

SOAの技術特性とビジネスメリット

SOA(サービス指向アーキテクチャ)とは、システムを実現する上での設計思想の一つであり、その点CRMやSCM等の業務系ソリューションとは異なり、単体ではどういうビジネスインパクトを持つのかわかりにくい。そこで、SOAの技術特性とビジネス上の価値を大まかに整理したのが図1である。

図1 SOA の技術特性と得られるメリット
図1 SOA の技術特性と得られるメリット (クリックして拡大)

詳しくは図表に譲るが、「サービス」を「部品」や「モジュール」と読み替えると、考え方自体は決して目新しいものではないことがわかる。実際のところシステム横断的なアプリケーション機能の連携やプロセス制御など、SOAの目指すところは従来EAIと呼ばれてきたソリューションの延長線上にあるように見える。しかしながら、適用技術の標準化レベルにおいて前者は後者を大きく上回っており、それによりビジネスにおける適用可能性/メリットも飛躍的に向上しているのである。

具体的に、SOAがEAIに優る技術特性とはその「サービス」の接続性の高さと「サービス」「業務プロセス」間の分離(疎結合)である。EAIはコネクタや独自プロトコルでの接続を要求し、プロセス連携に関しても特定ツールの利用を前提とするため、接続/連携対象となりうるシステムは適用するEAI製品の対応範囲に自ずと限定される。それに対しSOAでは、「Webサービス」「BPEL」に代表される、特定の製品に依存しない標準的な公開方法/プロセス連携方法をとるため、社内システムはもちろん、パートナー企業やインターネット上の顧客との接続/連携もはるかに容易に実現可能である。こうした特性を活かしていち早くビジネス上の競争優位を確保したり、バリューチェーン全体での「サービス」配置を最適化することでIT投資を適正化することが可能となろう。

以下、SOAを活かしたビジネス上の取組みを具体的に紹介していく。

ビジネスにおけるSOA 適用の具体例

図2 SOA事例システム概要
図2 SOA事例システム概要 (クリックして拡大)

(1)レガシーシステムの統合

1つ目の例は北米の固定/携帯通信事業者である。

同事業者においては法人向け請求書送付及び費用回収業務のコストが高く、生産性向上が求められていた。

生産性の阻害要因は顧客が契約しているサービス毎に、主管となる組織/システムが異なり、顧客単位での取り纏めに手間を要していたこと。

そこへSOAにより10以上のレガシーシステムの機能を「サービス」として公開、それらにシームレスにアクセスできるよう、シングルサインオンの基盤を構築した。

効果としては20%以上の請求関連業務量の削減のみならず、情報をシームレスに他組織へ引き継ぐことで、処理リードタイムも短縮している。

(2)カスタマーセルフケアの促進

2つ目の例は欧州の通信事業者である。顧客応対をコールセンタに依存しており、オペレータが複数のバックエンドシステムの操作をしながらの応対となるため業務が煩雑であり、その運営コストが問題となっていた。

そこへSOAによりバックエンドシステムの持つ機能を「サービス」化、顧客毎に必要な「サービス」をパーソナライズできるカスタマーポータルサイトを構築した。

効果としては、コールセンタの呼数を10-20%削減でき、現在ではコールセンタ以上のアクセスに対応している。また、SOAのアーキテクチャを採用したシステム開発では、従来の半分の期間での短期リリースを実現した。

(3)M&A

3つ目の例は欧州の航空会社である。

顧客サービスの向上や、運用コスト削減の観点から、他社に先駆けてインターネット上でのセルフチェックインシステムの構築を計画していたが、他のエアラインとの合併予定もあり、合併に伴う組織/バックエンドシステムの整理統合も課題となっていた。

SOA取り組みへのスパイラル

チェックインシステム自体は合併前に稼働を迎え、合併後、SOAによる共通のチェックイン関連「サービス」層を開発し、旧来のいずれのフライトも顧客が意識することなくチェックイン可能な形態へと統合した。

以上3つの例を見てきたが、いずれもシステム間の連携を梃子にして、既存のシステム資産を有効に活用している。また、いずれの例も特定の業務領域での課題解決にSOAを適用しているが、SOAの価値はこれだけにとどまらない。こうしたプロジェクトで「サービス」化された機能はもはやレガシーではなく、新たなシステム資産となって以後のシステム投資の際には再利用が可能である。たとえば航空会社の例では、インターネットでの基本的なチェックイン機能を提供している現在、その機能を空港のキオスク端末にも展開を予定している上、マイレージや決済の情報と連携し、座席のアップグレードや乗り継ぎに関してもセルフ化機能の提供を予定している。

このように、ひとたび「サービス」という標準的な技術基盤上にのれば、それは再利用可能なシステム資産となり、そうした資産の蓄積が進むと、さらに効率的なIT投資が可能となるという連鎖的効果が期待できるのである。

あなたの会社でも、SOAの特性を活かせそうな領域はおありだろうか。

今後SOAプロジェクトに着手する場合に備え、次回は、SOA導入にあたっての既存システムからの移行/アプローチについて論じてみたい。

お問い合わせ先

アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部パートナー
立花 良範
yoshinori.tachibana@accenture.com

同シニアマネージャー
松本 晋一
shinichi.matsumoto@accenture.com

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