(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎
前回、Jacobsonらによる理論に裏打ちされた実践的なソフトウェア開発方式SEMAT(Software Engineering Method and Theory)[1][2][3][4]の概要を紹介した。前回の記事の後、4月12日にSEMAT Japan Chapter[5]が設立された。本稿では、前回紹介したSEMATの書籍[1]に基づいて、SEMATに関するPlan、Do、Check、AdaptからなるPDCAサイクル、ガバナンスフレームワーク、拡張次元などについて紹介する。
活動の具体化手順
SEMATでは、カーネル上に複数のプラクティスを組合せることによって、メソッドを構築する。
SEMATでは、プラクティスの意味を「何について作業するか」という作業対象(Things to work with)と「何をするか」という作業内容(Things to do)によって明確に定義することができる。このため、まずアルファと成果物によって作業対象を定義する。次いで活動空間と活動によって作業内容を定義する。さらに活動によってアルファ状態を達成することを確認する。
表1に示すように、まずアルファを選択することが重要である。この理由はアルファがメソッドを統一的に定義するための基礎となるからであるとしている[1, p188]。
表1 メソッドの構築手順
プラクティスの定義
SEMATの書籍では、要求抽出と受入試験に対するプラクティスを説明している。以下では、アルファカーネルに相当する表形式を用いてこれらのプラクティスの構成を紹介する。プラクティスでは、作業対象と作業内容を、それぞれアルファと成果物、活動空間と活動で定義することから、アルファカーネルに対応するプラクティスを定義する表でも同じ項目を記述する必要がある。この表をプラクティス定義表と呼ぶことにする(図1)。プラクティス定義表では、アルファごとに対応する成果物を記述する。同様に、活動空間ごとに対応する活動を記述する。なお、アルファカーネルによるプラクティス定義の一覧性と理解性を容易化するために、プラクティス定義表を筆者が考案した。
図1 プラクティス定義表の構成
たとえば、要求抽出プラクティスをプラクティス定義表で記述すると、表2のようになる。図を使うことなく、プラクティスの構成をまとめて一覧できるので便利である。要求抽出プラクティスのアルファには、機会、ステークホルダと要求があり、成果物は要求アルファのフィーチャリストだけである。また要求抽出プラクティスの作業空間は、可能性探索、要求理解、ステークホルダニーズ理解であり、対応する活動は、それぞれ顧客価値合意、システム操作調査、顧客デモ実施である。
表2 要求抽出プラクティス
同様にして、受入試験プラクティスは表3に示すように定義できる。
表3 受入試験プラクティス
プラクティスの合成
要求抽出プラクティスと受入試験プラクティスを結合して合成プラクティスを作成できる。たとえば、表2と表3を作業対象と作業内容ごとに重ね合せることにより、表4に示すような合成プラクティスを容易に定義できる。
この例では2個のプラクティスを合成しただけなので分かりやすい。しかし、より多くのプラクティスを合成するとなると、表が複雑化する可能性がある。
表4 合成されたプラクティス
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- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要