NTTデータ
技術開発本部
副本部長
山本修一郎
SDモデルによる組織構造の分析
図2 組織構造のSDM
典型的な企業に対する組織構造をSDモデルで示すと図2に示すようになる。この図では、次のような依存関係を記述している。ここでアクタは、経営層、技術部門、管理部門、支援部門、運用部門である。
- 経営層は技術部門、管理部門、支援部門に対する経営戦略を担う。
- 管理部門は技術部門を管理し、支援部門のロジスティクスを供給する必要がある。
- 支援部門は運用部門に対して資源としての支援サービスを提供する。
- 運用部門は管理部門によって監督される。
- 運用部門は技術部門によって作業が標準化される。
図2に示した組織構造は従来型の組織の例である。これに対して、パートナー企業と連携して業務内容をアウトソーシングする場合のベンチャ型の組織構造をSDモデルで示すと、図3のようになるだろう。
図3 ベンチャ組織のSDMの例
図3では、ベンチャ管理部門が、連携管理パートナ、戦略パートナ、業務パートナ、運用パートナを活用して業務を遂行する。このときのこれらのアクタ間の依存関係は次のようになる。
- ベンチャ管理部門は、業務プロセスを業務パートナに依存している。
- ベンチャ管理部門は、戦略的意思決定を戦略パートナに依存している。
- ベンチャ管理部門は、業務運用を運用パートナに依存している。
- ベンチャ管理部門は、パートナ間の連携協調を連携管理パートナに依存している。
また、連携管理パートナ、戦略パートナ、業務パートナ、運用パートナ間にも依存関係があるだろう。たとえば、運用パートナは連携管理パートナに対して知識共有するというソフトゴールについての依存関係を持つ。
これらの例は企業組織に関する構造の例を示しているが、利害関係者をアクタとすることで多様な社会組織の構造をSDモデルで表現できることが分かるだろう。
SRモデルによる組織構造の比較
表5 組織構造の比較例
図4 組織構造のSRMによる評価例
次にSRモデルで前述したSDモデルの比較ができることを示そう。これまでのやり方だと、表5に示すように、従来組織とベンチャ組織に関する比較項目を列挙して、各組織が評価項目に関して○と×で評価するだろう。表5では、○の代わりに+、×の代わりに-で示している。ここでは、協調連携性と失敗許容性を大項目として評価する。協調連携性としては、分散性、参画性、共通性がともに必要だとする。また失敗許容性については、信頼性、冗長性、完全性が必要だとしている。表5をSRモデルで表現すると図4のようになる。このSRモデルでは、ベンチャ組織と従来組織をソフトゴールで表現した。
このようにソフトゴール間の関係の肯定性や否定性を矢印のラベルで表現することで、組織構造に関する代替案の検討を分かりやすく表現できる。
iスター・フレームワークの適用性
SDモデルではアクタ間の関係を表現できるので、組織構造やビジネスプロセスを分析するのに役立つと思われる。これに対してSRモデルでは、手段と目的の関係を分析して最適な手法を選択するための根拠を説明するのに役立てることができる。たとえばゴールとしての経営課題を実現する情報システムの機能をタスクで表現することで、経営課題と情報システムとの最適な関係を明らかにすることもできるだろう。
またビジネスプロセスだけでなく、ソフトウェア開発プロセスや工場での生産プロセスの分析にもiスター・フレームワークを適用することができると思われる。