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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第17回:ゴール分析 応用編
NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎
NTTデータ 
技術開発本部
副本部長 
山本修一郎

ゴール分析の事例

それでは、実際に電子タグプライバシー保護ガイドラインの第1規則から順番にゴール図を記述してみよう。

RPPG-1(ガイドラインの目的)

【記述】

本ガイドラインは、電子タグの有用性を利活用しつつ、消費者の利益を確保し、電子タグが円滑に社会に受け入れられるようにするため、電子タグに関する消費者のプライバシー保護について業種間に共通する基本的事項を明らかにすることを目的とする。

【分析のポイント】

まず、「目的」という単語に着目する。その前にある「業種間に共通する基本的事項を明らかにすること」までが、RPPG全体の目的であることが分かる。注意するのは、「目的」という用語があるからといって、この節がRPPG-1の親ゴールにはならないことだ。この理由は、中ほどに「するため」というが言葉があるからだ。つまり「前半に記述してあること」を実現するために、「後半に記述してあること」が手段として必要になるということだ。したがって、真の親ゴールは「電子タグが円滑に社会に受け入れられるようにする」ことである。また、この記述の前にある「電子タグの有用性を利活用しつつ、消費者の利益を確保し」という記述については、「しつつ」と「し」の解釈が重要だ。ここでは、「し」を「することにより」と考える。そうすると、実はこれらの記述はやはり「電子タグが円滑に社会に受け入れられるようにする」を実現するための手段ということになる。

「電子タグに関する消費者のプライバシー保護について業種間に共通する基本的事項を明らかにする」のところはどうなるだろうか?これをまとめてひとつのサブゴールにすることもできる。ここでは「について」の前半と後半に分けて、「電子タグに関する消費者のプライバシーを保護する」と「業種間に共通する基本的事項を明らかにする」との2つのサブゴールに分けて、後者を前者のサブゴールとした。この理由は、業種ごとの約束事としてのサブゴールがあるかもしれないと考えたからである。

【ゴール図】

ガイドラインの目的に対するゴール図を図2に示す。親ゴールは「電子タグが円滑に社会に受け入れられるようにする」とした。そのサブゴールは「電子タグの有用性を利活用する」ことと「消者の利益を確保する」ことである。これらは「電子タグに関する消費者のプライバシーを保護する」ことによって実現される。そのためには「業種間に共通する基本的事項を明らかにする」ことが必要である。

図2 第1(ガイドラインの目的)
図2 第1(ガイドラインの目的)

RPPG-2(ガイドラインの対象範囲)

【記述】

本ガイドラインは、消費者に物品が手交された後も当該物品に電子タグを装着しておく場合に、当該電子タグ及び当該電子タグが装着された物品を取り扱う事業者が、対応することが望ましい規則について定めるものである。

【分析のポイント】

この記述では、RPPGが対象とする事業者を指定しているので、ゴールとして記述するよりも、ゴールを遵守する責任を持つステークホルダを規定していると考えるほうがいいかもしれない。ステークホルダは、「電子タグ及び当該電子タグが装着された物品を取り扱う事業者」である。この記述の意味としては、「電子タグを取り扱う事業者」と「電子タグが装着された物品を取り扱う事業者」なのか、「電子タグと電子タグが装着された物品の両方を取り扱う事業者」なのかという2通りが考えられると思うが、いかがだろうか?その解釈の仕方によって事業者の範囲が変わり得るだろう。

【ゴール図】

ガイドラインの対象範囲に対するゴール図をあえて記述すると図3に示すようになるだろう。ここでは、電子タグそのものを扱う事業者と電子タグを装着する物品を扱う事業者を分けている。

図3 第2(ガイドラインの対象範囲)
図3 第2(ガイドラインの対象範囲)

RPPG-3(電子タグが装着されていることの表示等)

【記述】

消費者に物品が手交された後も当該物品に電子タグを装着しておく場合には、事業者は消費者に対して、当該物品に電子タグが装着されている事実、装着箇所、その性質及び当該電子タグに記録されている情報(以下「電子タグ情報」という)についてあらかじめ説明し、もしくは掲示し、又は電子タグ情報の内容を消費者が認識できるよう、当該物品又はその包装上に表示を行う必要がある。

当該説明又は掲示は、店舗において行うなど消費者が認識できるように努める必要がある。

【分析のポイント】

この記述では、まず第1文の末尾の「必要がある」に着目する。何のために必要なのかと文をさかのぼって読み直してみると、「電子タグ情報の内容を消費者が認識できるよう」という記述に気づく。これが親ゴールになる。次いで、その前の2つの動詞「説明し」「掲示し」について見てみると、何のためにこれらを実施するかについての記述がないことが分かる。しかし、次の文で「消費者が認識できるように努める必要がある」といっているので、「電子タグの装着されている事実、装着箇所、性質、電子タグ情報を消費者が認識できること」がRPPG-3全体としての目的であると想像できるだろう。

また、RPPG-3のタイトルが「電子タグが装着されていることの表示等」となっているので親ゴールとして「物品に電子タグが装着されていることを消費者が認識できる」を採用する。

【ゴール図】

RPPG-3に対するゴール図を図4に示す。

図4 第3(電子タグが装着されていることの表示等)
図4 第3(電子タグが装着されていることの表示等)

親ゴール「物品に電子タグが装着されていることを消費者が認識できる」のサブゴールは、「電子タグ情報の内容を消費者に説明する」「電子タグ情報の内容を店舗で掲示する」「電子タグ情報の内容を消費者が認識できる」の3つである。これらは必ずしも同時に必要になるわけではないので、OR関係であるとした。ゴール図ではOR関係を2重線で示している。また「電子タグ情報の内容を消費者が認識できる」ためには「電子タグ情報の内容を物品の包装上に表示する」ことか「電子タグ情報の内容を物品に表示する」ことが必要である。

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