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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第26回:組織とコミュニケーション
NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎
NTTデータ 
技術開発本部
副本部長 
山本修一郎

情報の質と量とコミュニケーションの関係

情報には、量の大小と客観的か主観的かという質の側面がある。図2では、この2つの側面から、コミュニケーションのあり方を次の4つに分類してみた。

図2 情報の質と量によるコミュニケーションの分類
図2 情報の質と量によるコミュニケーションの分類

◆対面型コミュニケーション

小量の主観的情報に対するコミュニケーションである。この場合、経験に基づく対面コミュニケーションとなるであろう。最も完璧なコミュニケーションは経験の共有である。以心伝心というように、客観的な言葉によって意思を伝えなくても受け手が行動してくれるようなコミュニケーションが最も効率的である。しかし、あらゆることを多くの人との間でこのような主観的な方法で理解しあうことは難しい。

◆手順型コミュニケーション

小量の客観的情報に対するコミュニケーションである。この場合、情報に対する行為を限定してマニュアル化するなどの手順化することにより、効率的なコミュニケーションが可能である。

◆価値共有型コミュニケーション

大量の主観的情報に関するコミュニケーションである。多様な価値観に基づく主観的な情報が多くなり、断絶が増加するので、相互理解のためにより多くのコミュニケーションが必要となる。

◆目的展開型コミュニケーション

大量の客観的情報に関するコミュニケーションである。情報が客観的に定義されればされるほど、その目的と意味を理解するために、より多くのコミュニケーションが必要となる。たとえば、専門知識の増加とそれにともなう専門家の増加と、専門家同士のコミュニケーションや連携が必要になることはその例である。

また大きな組織になればなるほど、組織の構成単位間でのコミュニケーションは客観的でなくては連携できない。組織の構成要素には全体の目的に応じたそれぞれの目的が必要になる。

前述した4種類のコミュニケーション型の組合せも考えられる。たとえば価値共有型コミュニケーションは、目的展開型コミュニケーションの結果として提供されるサービスに対する要望を具体化するしくみとして利用できるかもしれない。たとえば、同じ価値を共有するコミュニティの中でのコミュニケーションから、新しいサービスに対する要求が明確化できるだろう。また、目的展開型コミュニケーションでは組織の壁を越えるコミュニケーションも必要になるだろう。この場合、コミュニケーションには必ずしも十分に客観的な情報ではなく、主観的な価値を共有するコミュニケーションも必要になると思われる。

また、目的展開が限定された範囲の情報と組織に対して具体化されれば、手順化できるだろう。対面型コミュニケーションも特定のサービスのような場面を限定することで、やはり手順化できるようになる。最近、丸の内オアゾにある丸善に行った。端末があったので、探していた本のキーワードを入れて検索したら、その本が、何階のどの書架にあるかを印刷できるようになっていた。非常に便利である。すべての書籍の名前やそれがどこにあるかを記憶して、たちどころに答えるえことのできる書店員は極めて優秀な本のソムリエであろう。しかし、「私が探している本がどこにあるか教えてほしい」という限定されたコミュニケーションなら、このように客観的に記号化できるわけだし、顧客としても満足度が高いのである。

断絶の解消

コミュニケーションの断絶を解消するための手法には次のような方法が考えられる[3]

  • (1)送り手が知覚や期待の差異を認識する
  • (2)受け手に対して、送り手の置かれた状況の複雑さや責任を理解させる
  • (3)受け手の期待や価値観などに対して、送り手がどう対処するか意思決定する

この方法の留意点は、受け手に対して送り手とコミュニケーションする気にさせるという点であろう。送り手は一方的に伝えたいことを受け手に強制するのではなく、受け手の知覚範囲がどうなっているのか、送り手はどんな意味を持つ情報をなんの目的で受け手に伝えようとしているのかなどについてのお互いの背景を理解するためのコミュニケーションの準備としてのコミュニケーションの必要性を説くべきである。もしこのようなコミュニケーションが実施されれば、コミュニケーションの断絶を解消できる可能性は高まるだろう。少なくともお互いのコミュニケーションの断絶の理由を知ることができるはずである。

では、このようなコミュニケーションを実際にはどうすればできるだろうか?たとえば、組織のミッションを社員に理解して実践してもらうという状況を考えよう。ミッションが、社員の具体的な日々の行動とどういう関係にあるのかについて議論してもらうのである。その中で、様々な疑問や課題が発生することだろう。これらの課題についてミッションの送り手の立場で社員が考えることが重要だというわけである。このような議論の過程で相互理解の準備が醸成されていく。一方、送り手は、この議論の内容を知ることで、社員の知覚範囲や組織への期待を知ることができる。送り手としては、断絶を解消できないとしても、より適切な指示をより多くの情報に基づいて判断できるようになる。

コミュニケーションに対して、このような取り組みができている組織は、そうでない組織に比べてより緊密なコミュニケーションを実践できているといえるのではないだろうか?

「コミュニケーションとは組織のあり方そのものなのである。」(ドラッカー[3]

情報システムとコミュニケーション

情報システムとコミュニケーションの関係には、2つの側面がある。まず情報システムをコミュニケーションの送り手、情報システムの利用者を受け手と考えることができる。

情報システムが有効に機能するためには、情報システムを使う立場に立って情報の意味についての十分なコミュニケーションが必要になる。情報の意味は、情報システムの利用者にとって明確に定義されたものでなくてはならないからである。もし情報システムの操作が難解であるとすれば、情報システムの利用者としての受け手の知覚の範囲を考慮しないで、情報の送り手としての情報システムが実現されているからである。逆に利用者の期待通りの入出力動作を情報システムがしてくれれば、操作性の良い情報システムであるといえよう。先のドラッカーの言葉を拝借すれば、次のように言えるのではないだろうか?

「コミュニケーションとは情報システムのあり方である」


また情報とコミュニケーションの関係で明らかなように、情報の質と量に従ってコミュニケーションのあり方が異なるから、情報システムがどのようなコミュニケーションの型を対象とするかを理解しておくことも重要である。すなわち、コミュニケーションの型に依存して情報システムのあり方が変化するのである。

さて、もう一つの側面としては、情報システムの発注者と開発者との間のコミュニケーションが考えられる。この場合、開発者の提案は、発注者が想定する範囲内で、発注者の期待に応えることで、発注者からの開発依頼として、コミュニケーションが完結する。このようなコミュニケーションのあり方を観察することで得られる要求分析に対する知見としては、発注者のスコープ、期待としてのゴールを明らかにすることで具体的なシステム要求を明確化できるということではないだろうか?

まとめ

今回はドラッカーによる情報とコミュニケーションについての考察に基づいて、前回紹介した言語行為展望論と対比しながら、組織におけるコミュニケーションのあり方について述べた。コミュニケーションの断絶を解消するには、新たなコミュニケーションによって人間関係を再構築していく必要がある。

ドラッカーに従ってまとめれば、次のようになる。

  • コミュニケーションとは受け手の行為である
  • 受け手に耳を傾けるだけではコミュニケーションは機能しない
  • 情報を集めるだけではコミュニケーションの断絶を埋めることはできない

参考文献
  • [1] Winograd, T. and Flores, F. Understanding Computers and Cognition: A New Foundation for Design. Ablex, Norwood, NJ, 1986. (平賀譲訳、コンピュータと認知を理解する-人工知能の限界と新しい設計理念-、産業図書, 1989.)
  • [2] Terry Winograd., A language/action perspective on the design of cooperative work. Journal Of Human-Computer Interaction, vol.3, No.1, pp.3-30,1987.
  • [3]P.F.ドラッカー、すでに起こった未来、10章 情報とコミュニケーション、ダイヤモンド社,1994
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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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