NFRフレームワークの構成要素
非機能要求を表現する基本単位がソフトゴールである。ソフトゴールには表2に示すように、次の3種類がある。ソフトゴールと相互依存関係はソフトゴール依存関係グラフ(SIG,Softgoal Interdependency Graph)を用いて表現する。
- ・NFRソフトゴール:
- 満足化の対象となる非機能要求を表現する。
- ・操作ソフトゴール:
- 満足化を達成する技術を表現する。操作ソフトゴールを対応付けることを操作化という。操作ソフトゴールが機能ゴールに対応付けられる。
- ・理由ソフトゴール:
- 意志決定や相互依存関係の根拠を表現する。
またソフトゴールを定義する場合、優先順位とNFR型名と話題名を次のようにして記述する。
優先順位記号 NFR型名[話題]{優先順位}
ここで、優先順位がcriticalの場合、優先順位記号!を付ける。
たとえば、次のようにして記述する。ここで、会員の属性としての個人情報を記号「.」を用いて記述している。
!信頼性[会員.個人情報]{critical}
ソフトゴール間の関係には洗練関係と貢献関係がある。
洗練関係(Refinements)
親ソフトゴールをサブゴールとしての子ソフトゴールに展開することを表す。洗練関係には次の3種類がある。
・分解(Decomposition)関係
同じ種類のソフトゴールに分解する。つまりNFRソフトゴール分解、操作ソフトゴール分解、理由ソフトゴール分解がある。
・操作(Operationalization)関係
NFRソフトゴールを操作ソフトゴールに対応付ける。
・理由(Argumentation)関係
対象とするソフトゴールが必要となる理由をソフトゴールに対応付ける。
貢献関係(Contributions)
親ソフトゴールの満足化に子ソフトゴールが貢献することを表す。AND関係とOR関係もSIGでは貢献関係であると考える。
SIGにおける関係の構成要素を表3にまとめる。
人馬一体に対するSIGの記述例
NFRフレームワークを用いて「人馬一体」特性要因図を記述した例を図4に示す。
主なポイントを列挙すると次のようになる。
ソフトゴール名
NFRソフトゴールでは、何についてのソフトゴールなのかを「話題」で明記する必要があるので、ここでは話題として[ロードスター]を用いた。
AND関係
大骨から中骨、中骨から小骨への展開に対する関係は、すべて人馬一体を実現する上で必要な課題を導いていると考えられるので、AND分解とした。
話題の構成要素
ロードスターの構成要素として、デザイン処理、全体レイアウト、パワープラントおよびシャーシなどがあると考えて、[ロードスター.全体レイアウト]などとした。
また、居住空間、乗降空間、視界空間などを全体レイアウトの構成要素と考えて、[ロードスター.全体レイアウト.乗降空間]などの話題として詳細化した。
理由ソフトゴール
「あえて狭い居住空間」「スポーツカーとしての乗降性」「運転席からの視界検討」などは意志決定に関する制約条件を与えていると考えることにより、それぞれ居住空間、乗降空間、視界空間に対する理由ソフトゴールとした。
操作ソフトゴール
詳細な記述が入手できなかったので、今回は操作ソフトゴールの内容は省略した。
このように、NFRフレームワークを用いることで、特性要因図よりも論理的な分析が可能になることが分かる。
■参考文献- [1] 石井康雄、ソフトウェアの検査と品質保証、日科技連、1986
- [2]野中郁次郎、勝見明著、イノベーションの作法-リーダーに学ぶ革新の人間学、日経新聞出版社、2007
- [3]ALL-NEW MAZDA MX-5(日本名:マツダ ロードスター)
http://www.media.mazda.com/product_info/jn/index1_j.html - [4]L. Chung, B. Nixon, E. Yu, and J. Mylopoulos. Non- Functional Requirements in Software Engineering. Academic Publishers, 1999.
- [5] John Mylopoulos, Lawrence Chung, and Eric Yu, From Object-Oriented to Goal-Oriented Requirements Analysis, COMMUNICATIONS OF THE ACM, Vol. 42, No. 1, pp.31-37, 1999.
- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
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- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
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- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要