屋内・屋外シームレスな高精度測位環境の実現へ

屋外における測位は、準天頂衛星システム「みちびき」のサービスが開始されたこと、また、米国のGPS、ロシアのGLONASS、中国のBeidou、さらにはEUのGalileoといったグローバルをカバーする複数の測位システムによるMulti-GNSSの環境整備が加速し、地上にて捕捉できる衛星数が増えることで、測位精度の向上や可用性が高まっている。

一方で、位置情報サービスを構築・提供するためには、都市部において多くの人々が行動する屋内空間であっても位置情報が活用できることがポイントとなってくる。屋内における位置情報取得手法については長年、様々な技術が開発されてきたが、設置機器のコストやメンテナンスにかかる課題など、導入にはハードルが高いものであった。そんな中、公共空間等におけるWiFiのアクセスポイントの増大や、Apple社のiBEACON搭載を起因とするBLE(Bluetooth Low Energy)技術を活用した安価なビーコンが流通し、それらの電波を有効活用することによる測位技術の開発の推進が加速してきており、公共的な空間においても導入が進められている。

今回は、屋内測位環境の現状とその活用について、政府で推進されているプロジェクトや当社での取組を中心に解説する。

屋内測位環境の普及に向けた「高精度測位社会プロジェクト」

屋内測位環境の普及に向けた取組みとして、国土交通省が推進する「高精度測位社会プロジェクト」がある。このプロジェクトは、世界に先駆けて高精度な測位環境を実現し、外国人や高齢者をはじめ誰もがストレスを感じることなくオリンピック・パラリンピックを楽しむための、きめ細かなおもてなしサービスを実現することを目指すプロジェクトであり、公共交通機関、商業施設などの施設管理者やサービス事業者といった様々な関係者が参画し推進されている。

図1 「屋内空間における高精度測位環境づくりの推進」(引用元:第三期 地理空間情報活用推進基本計画)

具体的な活動としては、屋内地図と測位環境を活用したサービス実証が実施されており、屋内地図は、これまで東京駅周辺、新宿駅周辺、横浜国際総合競技場、成田国際空港の高精度な屋内地図を整備、オープンデータ化に取り組んでいる。また測位環境を活用した実証では、バリアフリーをテーマにした実証、実際にサービスを検討される方と協力した実証、アイデアソン・ハッカソンなど、普及に向けた取組みが多岐にわたり継続的に実施されている。

地磁気測位と2.5D表現による「NariNAVI」のサービス開始

弊社では屋内測位を活用したサービスとして、地磁気を活用した測位技術と、屋内地図を視覚的に伝える2.5D表現技術を活用した、屋内位置情報サービスを提供している。

地磁気測位は、電波を発生するBLE等の機器を最小限に抑え、施設管理者の負担を軽減しながら、数mレベルの高精度測位を実現するもので、イタリアのGiPStech社と連携し提供しているものである。また、2.5D立体表現は、NTTの研究所技術を活用し、屋内施設特有の階層にまたがる複雑な経路を、2次元地図を組み合わせ“軽い”データで構成する3次元的な地図で表現することで、スマートフォン上であっても高度かつ視覚的でわかりやすい情報をスムーズに提供できる。

弊社では増大する訪日外国人に対応し、より魅力的かつ便利な空港を目指した「スマートエアポート構想」を推進している成田国際空港株式会社様に、本技術を活用したサイネージシステムである「Infotouch」やスマートフォン向けのナビゲーションアプリである「NariNAVI」に、本技術を活用したサービスを提供している。

図2 成田国際空港株式会社様の事例 (引用元:弊社IR資料)

 

屋内地図や屋内測位からなる位置情報サービス基盤は、一般の方へのサービスのみならず、例えば設備管理における、ロボット・AI等を組み合わせた効率化や高度化など、業務のデジタルトランスフォーメーションを実現するツールとしての活用が期待できる。

位置情報を活用した新たな取組み(人流情報の活用)

高精度に取得される位置情報は、今後、IoT、AI技術の進展や社会実装がさらに進む中で、様々な革新的なサービスが創出されるためのキーとなる情報となるであろう。

具体的には、NTTドコモ社では、人の流れがリアルタイムにわかる携帯電話ネットワークの仕組みを利用して作成される人口統計データと、タクシーの運行データなどを用い、タクシーの需要を予測する技術を開発し、サービス化してタクシー運行の効率化に役立てるなど、人流を活用した具体的なサービスが提供されている。

こうした人流情報は、先の施設管理者等の業務における活用はもとより、オリンピック・パラリンピックのような大規模イベント時における安心安全の確保といった面で、非常に有用な情報になってくる。そのためには、カメラ等のセンシング技術や端末の移動情報などから人の流れを把握し、その人流情報から未来を予測、最適化を図るべく制御をかけていくことで、移動の円滑化や効率的な警備対応を促せるような技術開発を、今後進めていくことがポイントとなる。

2020東京大会を契機とする多様なサービスの創出に期待

2020のオリンピック・パラリンピック東京大会開催においては、大会関係者や観客の方など、多くの訪日外国人が東京のみならず日本国内を訪れることが想定されており、位置情報を活用したサービスとして多くのエリアで多様なサービスが提供されることを楽しみにしたい。

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清水 邦彦 shimizuknh@nttdata.co.jp

礒 尚樹 ison@nttdata.co.jp

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