次世代移動診療車のコンセプト

現在の日本では、「働き方改革」の推進、「地域格差」の解消、「大規模災害」への対応などが社会課題となっているが、これらの課題の解決にも寄与する医療分野のソリューションとして、5Gを活用した次世代移動診療車による遠隔診療の実現が期待される。

総合診療・各種健診へ対応する医療機器を搭載し、超高速・低遅延で通信可能な5Gを介してネットワーク接続された次世代移動診療車(図1)が、職場や各種施設、無医地区、災害現場などに赴き、総合病院との間で高精細の診断映像とテレビ会議映像を同時に用いた遠隔診療を行うことが出来れば、より広いエリアでタイムリーに高度な医療を提供することが可能となる。

図1 次世代移動診療車

今回、NTT東日本関東病院とドコモは共同で、この5Gを応用した次世代移動診療車の具体的な利用シーンの一例として、移動診療車の総合診療科ドクターと病院の産婦人科ドクターがテレビ会議を介してリアルタイムにコミュニケーションしながら移動診療車に搭載された各種医療機器を用いて遠隔妊婦健診することを想定した模擬試験の実施を通して、5Gを用いる次世代移動診療車による遠隔診療の実用性を検証した。

「遠隔妊婦健診」の実証試験

遠隔妊婦健診を模擬する形で実施した今回の実証試験では、実際の産婦人科医師の監修のもと、移動診療車を模擬したスペースに4Dエコー、4Kカメラ、乾式臨床化学分析装置、ベッドサイドモニタ等の医療機器を、総合病院の診察室に医用画像管理システムPACS(Picture Archiving and Communication System)をそれぞれ配置し、さらに双方を接続する4Kテレビ会議システムを設置した上で、4Dエコー、4K接写カメラの各診断映像と4Kテレビ会議映像を、移動診療車と総合病院間で実際に5Gおよび光ファイバを介して一括してリアルタイム伝送した(図2)(注1)

図2 次世代移動診療車による遠隔妊婦健診

実証試験では、実際に起こり得る妊婦健診を想定した3つのシーンを実行し、健診をサポートするツールとしてスマートフォン向け「母子健康手帳アプリ」(注2)も活用した。

【シーン①】 移動診療車に「赤ちゃんの動きが少ない」と訴える妊婦が到着し、移動診療車の総合診療科医師(以下、診療車医師)が総合病院の産婦人科医師(以下、病院医師)に声をかけて健診を開始。最初に、妊婦がスマホアプリに普段入力していた健診結果を4Kカメラで撮影しながら病院へ伝送し、内容の確認を依頼。病院医師が週数と母親の体重の増加状況から、胎児の順調な発育を確認。

【シーン②】 現在の胎児の様子を2D及び4Dエコーにより撮影した検査映像をリアルタイムに移動診療車から病院へ伝送し、病院医師によりBPD(胎児頭大横径)が週数相当であること、心臓の正常な鼓動、頭部・腕・足にかけて順調に発育している様子等を確認し、胎児に問題の無いことを確認。さらに、PACSに記録されていた過去の妊婦健診の際の検査映像と比較しても発育状況が順調であることを確認。

【シーン③】 妊婦の診療車到着時に試行した採血検査の結果を診療車医師が確認し、ヘモグロビン値が若干の貧血を示していることを報告しつつ、4Kカメラでライブ撮影した妊婦の顔色を病院医師に伝送。確かに貧血気味であることを確認した病院医師から、貧血が原因で胎児に栄養が回らずに胎動が弱まった可能性を指摘し、分食により栄養をしっかり摂れるようにすることなどを指導して、健診を完了。

実証試験で得られた意見と考察

【医師】

① 5Gは、4Gに比べて鮮明なエコー検査映像とカメラ映像(図3)が専門医に伝送され、同時に4Kテレビ電話会議により同時に総合病院の専門医と相談しながら診察が可能。

図3 エコー検査映像とカメラ映像

② 鮮明なカメラ映像により、妊婦(患者)の顔色や皮膚の状態、そして怪我の状態も一緒に確認することができ、非常に有用性が高い。

③ 遠隔診療の場合、普段の胎児の状態が分からない。母子健康手帳スマホアプリで母体と胎児の経過が一緒に見られることで、胎児の現在の状態と普段の状態を比較しながら健診することができる。産婦人科医に非常に有用である。

【看護師】

④ 離島や過疎地における妊産婦のケアを助産師がする場合、専門医へのアクセスが課題である。5G遠隔診療車により専門医へのアクセスが可能であり、安心してタイムリーに助産を提供しケアができる。助産の現場で有用である。

【妊婦】

⑤ 妊婦健診は、最初4週に1回から、その後2週に1回行われる。妊婦にとって、定期的に休みをとって受診するのは負担がかかる。さらに、追加的な受診はなかなか難しい。地方に行くと産婦人科のクリニックや病院は少なくなる。移動診療・遠隔妊婦健診のニーズは高い。

5Gを活用した次世代移動診療車による遠隔健診や遠隔診療の実現は、必要な医療や高度な医療を受けられる場所と機会を拡大し、医師不足、地方と都市部での医療格差、災害現場での医療の提供といった各種社会課題の解決へ繋がることが期待される。

将来的には、遠隔診療中に病院へ送られPACSに記録された診断映像をスマートフォンやタブレットなどへ転送して表示すること(図4)も可能であり、家族が胎児の元気な様子をリアルタイムに確認する等の応用も考えられる。

図4 診断映像の記録と表示

(注1)各医療機器の一部は、ドコモ5Gオープンパートナープログラム※1のメンバである富士フイルムメディカル様、日本光電様に提供いただきました。

※1: https://www.nttdocomo.co.jp/biz/pecial/5g/index.html

(注2)「母子健康手帳アプリ」※2はNPO法人ひまわりの会が主催し、ドコモ他が企画・開発・運営を行っています。

※2: https://www.boshitecho.com/service/img/logo.png

●5G関連動画https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/rd/tech/5g/5g_movie/index.html

<ドコモの5Gのことなら下記へ>

https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/rd/tech/5g/index.html