機械(AI)と人間の対話の難しさ

AIによる自動対話は様々な用途で実装が進んでおり、実際にロボットやチャットボットと音声やテキストで会話をした経験をお持ちの方も多いと思う。反面、AIと会話をして、「うまく通じないな」とか「会話が噛み合わないな」という感想を持たれた方も多いのではないだろうか。

実際のところ、人間と同じように言葉の意味を理解して会話ができるAIは、自然言語処理の分野では『究極の目標』とも言われており、現在はまだ実現はされていない。

まずは、どのような形で現在のAIによる自動対話が動いているか、簡単にその仕組みをまとめてみる。

機械学習によるAI対話エンジン

代表的な仕組みとして、大量の会話例や質問への回答例を機械学習でAIに学習させる方法がある。コンピュータ(AI)は言葉の意味は理解することなく、「こう言われたらこう答える」という大量の情報の集積をもとに、会話モデル(人間の言葉を入力値として、出力値であるAIからの返答を生成する関数)に則ってAIが返答する文字列を出力する。

この仕組みの実用例として、主にコンシューマ向けのサービスで、特定の性格を持ったAIキャラクターとの会話を行うサービスや、AIと雑談を行うようなサービスが展開されている。

この方式の課題としては、会話の返答はその時々の状況によって変化することもあり、全ての起こりうる会話をあらかじめ学習することは現実的に不可能であるため、AIが予期せぬ返答を行うことがある。また、思い通りにAIに回答させようとするチューニング(追加学習)の結果がなかなか狙い通りにはいかないことや、学習する会話例が不適切であるとAIの発話も不適切になりかねない、といった課題もある。

実用性を追求したAI対話エンジン

AIが予期せぬ返答をしてしまったり、的確な返答を行うためのチューニングに困難さがあったりすると、実用的なビジネスでの利用には大きなハードルとなる。

この課題を解決するために、AIが答えられる範囲を限定する、というアプローチがある。答えられる範囲を明示的に決めておけば、機械学習のバリエーションも少なくなり、人間からの質問の内容が不明瞭であれば、「この中にご質問したい内容に合う項目はありますか?」といった形でAIが質問の内容を絞り込んでいくような対応も可能になる。

FAQベースのAI対話エンジンCOTOHA Chat & FAQ

NTT Comが提供するCOTOHA Chat & FAQは、AIが回答する内容をあらかじめ作成されたFAQの回答に限定して、定型的な質問に答える人的稼働のAIによる代替を実現している(図1)。

図1 FAQの回答に特化したCOTOHA Chat & FAQ

このサービスは、類義語の判断も含めて機械学習をベースとした質問と回答の適切なマッチングを行う「意味検索」を特長としている。また、AIによる回答結果への満足度のフィードバックをエンドユーザから得ることで、AIが答えられなかった質問への回答をFAQに拡充していく継続的な精度向上が簡単にできるようにメンテナンス機能を充実させている。

実際に社内からの総務系の問合せ業務に活用している出張・経費管理クラウド大手の株式会社コンカー様の事例では、年間で社員10名分の業務がAIで代行可能と試算されており、実業務での成果を上げている。

シナリオフローと連動したAI対話エンジン

上記のようなFAQに対応する一問一答型のAI対話エンジンだけでなく、より複雑な業務処理をAIが代替する対話エンジンもある。

AIが機械学習によって自由に会話する方式では、決められた業務をAIに行わせるコントロールが難しい。そのため、集めるべき情報や、応対する業務フロー(シナリオ)をあらかじめ人間が規定しておき、AIがそのシナリオフローに則って必要な質問や会話を行い、業務を遂行するアプローチである。

対話型AIエンジン COTOHA Virtual Assistant

シナリオ型の自動応答は、あらかじめ想定される会話フローをすべて設定しておく“ルールベース方式”で実現されていることが多いが、この方式は、人間がすべてのシナリオを準備する必要があるので、AIによる対話とは言い難い側面もある。

NTT Comが提供するCOTOHA Virtual Assistantでは、AIを活用した“ゴールマッチ方式”も用意している。例えばホテルの宿泊予約の場合、「氏名、宿泊日、希望価格帯、部屋タイプの確認が必要」ということを設定しておけば、ユーザがどのような順序で回答するかは関係なく、必要な情報をすべてAIが聞き出した上で情報を整理してサービス申込みのシステム処理に自動で繋げていくことができる(図2)。

図2 COTOHA Virtual Assistantの“ゴールマッチ方式”イメージ

実際の活用事例として、金融系の企業で、サービスや手続きに関するユーザの質問に対して、COTOHAがLINEのチャット上で24時間365日ベースで社内システム等を参照しながら自動応答するユースケースや、COTOHAがユーザから収集した情報をRPAシステムが受けて、システムの自動登録を行う業務自動化に取り組んでいる事例もある。

対話型AIの将来

上記のようなシナリオ型のAI自動応答サービスの課題として、人間が行うシナリオメンテナンスの手間と稼働があげられる。その課題を解決する取り組みの一つとして、AIがマニュアルやWebページ等の内容を自律的に知識化して、その内容に対する自動応答を行うAI知識読解の研究が進んでいる。

このような研究が進んでいけば、AIに知識源となるドキュメントをインプットすることで、その内容に沿った応対を自動的に行う次世代型のAI対話エンジンの実用化が期待できる。

また、近未来においては、AIが広範な情報を自律的に整理・知識化して、汎用的な応対が行えるようなAI対話エンジンの技術革新が進んでいくことにも期待したい。

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