5Gを活用した新たなスポーツ観戦

昨今、スポーツ観戦の新たな視聴スタイルに高い関心が集まっている。国内では2019年のラグビーワールドカップや2020年の東京オリンピック・パラリンピック等、国際的な大イベントが控えており、それらイベントに向け、新たな視聴スタイルにより、その場にいるような臨場感やこれまでに体験できなかったスポーツ視聴を実現することが期待されている。そのためには、複数の高解像度のカメラによりスポーツを撮影し、映像合成による3D映像化や、ユーザの好みにより映像を切り替える多視点映像化等が検討されている。スポーツイベントでは、カメラ映像を伝送するために、有線でいちいち配線するより無線で柔軟に伝送を確保することが求められている。しかし現状の4Gシステムの性能では、複数のカメラが撮影した4Kや8K映像をテレビ局に伝送するには伝送容量が充分ではない。そこで、カメラからテレビ局へ5Gの高速大容量性を活用したスポーツ映像伝送に大きな期待が集まっている。以下に、弊社の取組を紹介する。

5Gジオスタ

エリアの広いスポーツのテレビ観戦では、特定のエリアのみの映像が主に伝送されている。しかし特定エリアの映像だけでなく、広いエリアを俯瞰的に見つつ、どの方向からでも見ることを可能とすることで、新たなスポーツ観戦の楽しみ方を提供できる。

そこで弊社はフジテレビと協力し、5Gジオラマスタジオ(5Gジオスタ)を開発した。5GジオスタはAR技術を用い、特定マーカーを置いたテーブル上にスポーツのフィールドを創り出す。ユーザはスマホやタブレットを持ちながらテーブルの周りを移動して、好きな方向からフィールドを見ることができる。スマホやタブレットをテーブルに近づければ、特定エリアの詳細映像を見ることができ、テーブルから離せばフィールドを俯瞰的に見て楽しむことができる。撮影映像そのものだけでなく、選手のプロフィールや心拍などの身体的な情報といった付加的な情報も表示することができる。ゴルフに加え、フォーミュラ・ジャパン(図1)、サッカーを対象とした3種のデモシステムを開発している。

図1 5Gジオスタ デモ模様

本システムでの映像コンテンツ開発は、スタジアムのフィールド映像を360度カバーする必要があるため、スタジアムに設置した複数のカメラの映像が必要となる。映像が高精細映像であれば、よりよく選手の位置や振る舞いを再現することができる。映像伝送に高速な5Gの上り回線を使うことで、これら複数の高精細なカメラ映像を映像処理サーバーに安定して伝送することができる。また本システムはサーバー側で全ての映像処理を行い、スマホやタブレットに対しては通常のビデオストリーミングとしてサービス提供することが可能である。5Gを搭載したスマホやタブレットを使うことで、より多くのユーザが同時に新体感のスポーツ観戦を楽しむことができる。

ウィンドサーフィンライブ中継

海上スポーツやイベントを間近のカメラでダイナミックな映像として捉えるライブ映像中継として、5Gを用いることでより簡単に実現することが期待されている。

2018年5月に、神奈川県津久井浜沖でウィンドサーフィンのワールドカップが開催された際に、レースエリア近くに停泊した船上に5G移動機を設置し、船上から撮影したレース映像を5G移動機から津久井浜最寄りのホテル屋上に設置した基地局に伝送し、基地局から海岸に設置したパブリックビューイングに映像を伝送し上映した。従来、観客は海岸からウィンドサーフィンのレース状況を眺めるしかなかったが、5G上り回線の高速性を用いた本システムにより、船上から撮影した高精細でダイナミックな映像をリアルタイムで楽しめた。このようなソリューションは、他の多くのスポーツ中継で活用可能である。

映像は、船上のカメラ映像とドローンを用いた上空からの映像を含め4K品質の約80Mbpsの情報量であり、船と海岸の基地局間の距離は最長1.1kmであった。無線伝搬減衰が大きい28GHz帯を用いたが、常に数百Mbpsの伝送速度を維持し、問題なく映像を伝送することができた。 図2に移動機を設置した船舶や海岸のパブリックビューイング等の現場の写真を示す。

図2 ウィンドサーフィンライブ中継

 

5Gデモバス

様々な場所で多くの人が観戦を楽しむためにパブリックビューイングが行われている。パブリックビューイングをより多くの場所やシチュエーションで実現するためには、映像装置の設置の機動性に加え高詳細な映像を簡便かつ柔軟に伝送できる通信が必要となる。5Gを用いれば一時的なイベントや屋外の仮設会場に容易に通信手段を提供できる。

このようなパブリックビューイングに代表される5Gサービスを体感できる機動性のあるデモ環境として、5Gデモバスを開発した(図3)。内部には正面横幅7Kのスクリーンと左右それぞれに3Kのスクリーンを配置し、合計13Kの横幅の映像と、5.1chの音響システムにより、没入感ある空間を車内で演出することができる(図4)。これにより、あたかもその場にいるような体感や、将来的に実現される高精細なARグラスやヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いたサービスを体感することができる。今回、実際にスタジアムで収録したラグビー観戦環境を紹介する。13Kの横幅の映像でスタジアム全景を上映し、現地で録音した歓声や選手のプレー中の声を5.1chの音響システムで流すことで、実際にスタジアムで観戦しているような没入感を体験できる。これは高性能なHMDでのスポーツ観戦、仮設や移動パブリックビューイングでの高精細映像配信のような、5Gの高速下り回線を用いた将来サービスの試行試験としても活用できる。さらにスタジアムで観戦している状況でのARグラスもしくはスマホを用いた補足情報配信サービスも車内で体感できる。

図3 5Gデモバス外観

<ドコモの5Gのことなら下記へ>

https://www.nttdocomo.co.jp/corporate/technology/rd/tech/5g/index.html