DX用語

DXの定義はどうなっているか、すこし調べてみただけでも、次のように様々だ。

【定義】NTT[1]

ICTにより様々なデータを集積・利活用することで、新たな仕組みを創出/既存の仕組みを変革すること。

【定義】NEC[3]

リアルとサイバーをつなぎ合わせて新たな価値を創造し、私たちの暮らしやビジネスをより良く変えていくこと。

【定義】Nifty[4]

デジタル変革とは、デジタル(ICT)技術を活用して企業のビジネスモデルやビジネスプロセスをトランスフォーメーション(変革)してイノベーションを起こすことを指す言葉。ICTソリューションによってビジネスモデルやビジネスプロセスそのものを変革することが、デジタル変革の本来の意味・目的。

【定義】Weblio[5]

情報技術の普及・浸透による「社会のデジタル化」がもたらす組織や社会の変革を指す言葉。ITが世の中をよりよい・より望ましい方向へ導くという考え方が根底にある。

【定義】IDC[6]

企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォームを利用して、新しい製品やサービス、 新しいビジネスモデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値 を創出し、競争上の優位性を確立すること。

筆者が1979年に電電公社に入社した時に、「電子交換の基礎用語」[7]という冊子(398頁)が配布されたことを思い出す。DX用語の意味がバラバラでは、取り組みの求心力が低下する。少なくともNTTグループで「DXの基礎用語」をまとめて社員が共有する必要がある。

DPBoK[8]

オープングループ(TOG, The Open Group)では、デジタル技術に対する包括的ガイダンスを提供するためにDPBoK(Digital Practitioner Body of Knowledge)を開発した。DPBoKが定義している主なDX用語は次のとおりである。

◆デジタルエンタープライズ:Digital enterprise

以下の種類に分類される企業。

1型—デジタル製品やサービスを完全にデジタルで生成

例:デジタル媒体、オンラインバンキング

2型—物理製品やサービスに組み込まれ、顧客がデジタル手段で獲得する

例:カーシェアリング

◆デジタル技術:Digital technology

ビジネスバリューを生成または可能とするために、デジタル的に消費できる製品やサービスの形をとる情報技術。

デジタル変革:Digital transformation

デジタル企業になるための根本的な変革。

◆デジタル化:Digitalization

企業の主要なバリューチェインの中で付加的なビジネス価値を生成するためにデジタル技術を用いること。

◆デジタル化:Digitization

アナログ情報をデジタル情報に変換すること。

日本語では、Digitalization とDigitizationをデジタル化と訳すので注意が必要だ。デジタルトランスフォーメーションの「デジタル化」はDigitalizationのことである。日本企業のDXをグローバル展開する場合、DPBoKのような、すでにグローバルに認知されている知識体系を活用することが望まれる。

DXのあるべき姿

DXは取り組みであって、ゴールではない。ゴールのためのプロセスだ。DXのゴールは既存企業がデジタルエンタープライズになることだ。デジタルエンタープライズが何かといえば、デジタルプロダクトやデジタルサービスを顧客に提供する企業だ。従来製品や従来サービスを提供する企業がデジタル企業へと変身を遂げる手段がDXということになる。

したがって、DXのあるべき姿は、「デジタルエンタープライズを実現する上で最適な取り組みになっていること」になる。

DXをやっているからいいのではなく、より迅速かつ深く、広く、企業のデジタル化を推進する取り組みになっていることを確認すべきである。「われわれのDXは、あるべきDXとしてふさわしいのか」を問うべきである。そうでなければ、「なんちゃってDX」「当社もやってますDX」になることは間違いない。

DX ガバナンス

DPBoKでは、以下の7つのレバーがデジタル変革のために必要であると述べている。

1)ビジネスプロセス変革

2)カスタマー参加と体験

3)製品やサービスのデジタル化

4)ITと展開変革

5)組織文化

6)戦略

7)ビジネスエコシステム

したがって、DXを着実に遂行するためには、これらのレバーについての評価指標の設定が必要だ。そうでなければ、どこまでDXが成熟したかを客観的に測定できない。測定できなければ、管理できない。「DXをやっていることになっている」という苦しい言い訳を排除して厳格かつ強力にDXを推進する体制が必要だ。

多くの日本企業がDX担当や、DX推進室などを設置している。DXのゴールはDXに着手することではなく、デジタルエンタープライズ(DE)に企業を変革することだ。DXはDX担当だけでやればいいということではない。

DE指標を定義して、客観的に進捗を測定することが重要になる。DEに向けて「前へ」進む各部署の心構えを、DE指標を用いて示すことにより、全社が一丸となってDXを推進する必要がある。そうすれば、DE指標は企業にとって重要なIRとなる。

DX人材

DXを遂行するのは誰か?DX人材である。したがって、デジタルエンタープライズにはDX人材が必要である。DX知識がなんであるかが明確になっていなければ、DX人材を育成できない。少なくとも、DXを構想する企業には、DX人材の育成計画が必要だ。

最近、SIベンダがアジャイル開発体制を整備する動きが活発になってきているようだ。では、DX要員とアジャイル要員との関係はどうなっているのか?同じなのかそうではないのか?

前述した「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」では、アジャイル開発でなければDXを遂行することは難しいという流れになっている。現行の開発プロセスをアジャイル開発プロセスに変革するだけでなく、アジャイル要員の育成と現行要員の再教育が重要だ。DXを推進する企業におけるDX人材計画の策定が求められる。

まとめ

・DXの基礎用語集が必要である

・DXによって、DEの実現を目指すべきである

・DXガバナンスによって、全社的なDXを推進すべきである

・DX人材の育成が急務である

【参考文献】

[1] NTTグループ中期経営戦略 『Your Value Partner 2025』, http://www.ntt.co.jp/news2018/1811jjqx/pdf/rxmj181106d_all.pdf

[2] 経済産業省、DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~, 2018年9月7日, http://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010.html

[3] NEC, https://jpn.nec.com/dx/index.html

[4] Nifty, https://cloud.nifty.com/navi/beginner/digital_transformation.htm

[5] Weblio, https://www.weblio.jp/content/ %E3%83%87%E3%82%B8%E3%82% BF%E3%83%AB%E5%A4%89%E9% 9D%A9

[6] Work x IT, デジタルトランスフォーメーションとは? ~その定義と事例, https://workit.vaio.com/i-digital-transformation/

[7] 電子交換機用語研究会 編、電子交換の基礎用語、電気通信協会、1971

[8] The Open Group, The Digital PractitionerBody of Knowledge, S185, 2018

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