移動の社会課題解決とMaaS

日本は人口減少や超高齢化社会に直面し、地方部のみならず都市部や、生活利用から観光利用まで、ドライバー不足や交通空白地、渋滞など、さまざまな移動に関する社会課題が深刻化している。

こうした中、日本版MaaS(Mobility as a Service)に関する議論が産学官で活発化し、各地で実証実験の取組みが進められている。なぜ現在、MaaSが注目されているかというと、MaaSが「移動に関する社会課題を解決するもの」だからである。

日本版MaaSは大きく3つの要素で構成される。複数の交通モードを束ねる「交通統合型MaaS」、移動手段を高度化する「高度化型MaaS」、そして移動と移動の先にある目的と連携させる「サービス連携型MaaS」である(図1)。

図1 日本版MaaS 3つの構成要素■国交省「都市と地方の新たなモビリティサービス懇談会」資料を参考にドコモ加筆

ドコモは2015年から移動に関する社会課題解決に向けた検討を進めてきた。そこから、ラストワンマイル/ファーストワンマイルといった2次交通に課題が存在し、その解決に向けたポイントは、2点あるとの考えに至った。1点目は移動の需要と移動手段の供給の最適マッチングで、高度化型MaaSが解決につながる。2点目は交通と非交通を連携させた新たなビジネスモデルの創出で、サービス連携型MaaSが解決につながる。この2点を実現する次世代モビリティの取組みを進め、2019年4月1日に「AI運行バス®」システムの提供を開始し、九州大学様がファーストユーザとして伊都キャンパス内で商用運行を開始した※1。

未来の移動需要を予測

ドコモは約7,800万のお客さまにご利用いただいている携帯電話ネットワークの仕組みから得られる、10分ごとの性別・年齢層別の人数分布情報と外部データを連携させ、AIを活用して近未来の移動需要を高精度で予測する「リアルタイム移動需要予測技術」を開発した。この技術は、2018年2月15日から始まった、「AIタクシー®」サービス※2に実装されており、東京、名古屋、大阪、熊本他、全国のタクシー事業者への利用が拡大している。

この移動需要予測技術が交通最適化のキーとなる技術と言える。未来の移動需要があらかじめ分かっていれば、それにあわせた形で移動手段を供給することが可能となる。

移動手段の最適供給

ドコモはオンデマンド型乗合交通システム「AI運行バス®」を株式会社未来シェアと共同開発した(図2)。

図2 AI運行バス<高度化型MaaS>

路線や運行ダイヤは存在せず、利用者が乗りたいときに、行きたい場所までダイレクトに運んでくれる新たな公共交通システムの実現をめざしている。

実際に利用者がスマートフォンのアプリや電話から乗車予約をすると、リアルタイムにAIが効率的な車両・ルート・乗り合わせの組合せを算出し、AIが車両配車を行い、お客さまにとって効率的な移動を実現する。

さらにAIタクシーで実用化した「リアルタイム移動需要予測技術」を適用することで、顕在化した乗車需要のみならず、未来の乗車需要を加味した移動手段の供給を実現でき、さらなる効率化につなげられる。

10地域で約10万人超の輸送実績

これまで、AI運行バスは東京都副都心地区、九州大学伊都キャンパス、兵庫県神戸市、鹿児島県肝付町、神奈川県横浜市、群馬県前橋市など10地域における実証実験を通して、AI配車機能の確立に取組み、実用化レベルの品質・性能を実現することができた。

10地域では都市部/地方部、有償運行/無償運行、生活での移動/観光での移動といったさまざまなバリエーションで実証を進め、延べ10万人超※3の輸送実績を得た(図3)。

図3 AI運行バスの活用シーンと事例

交通×非交通で新ビジネス創出

AI運行バスは単なる交通システムではなく、移動の先にある目的・サービスと連携した送客サポート機能も有しており、運行エリア内の商業施設の情報から行きたい施設を選択し乗車予約をすることが可能である。また、施設情報だけでなく、お得なクーポン情報も掲載できる(図4)。

図4 ドコモのAI運行バスの行先設定例

それら情報は、施設関係者が専用ツールを使い、リアルタイムに運行エリア内にいるAI運行バス利用者に発信することができる機能も具備している。

過去の実証実験でも、移動と移動した先のサービスとの連携により、地域経済活性化と利用者の利便性向上による周遊性向上が確認できている。

このAI運行バスの仕組みにより、移動先の商業施設や店舗からの協賛金獲得の可能性が高まり、これまで運賃収入と補助金で運行されてきた地域交通が、協賛金収入も加えることで、より持続可能性を高められる新たなビジネスモデルを創出することが可能となる。

データ/システム連携の将来構想

将来構想として、病院や商業施設、観光施設のもつ各システムと、AI運行バスのシステムを連携することも計画中である。

たとえば、病院システムとAI運行バスのシステムが連携すれば、病院で会計が終了したタイミングで帰宅するためのAI運行バスの乗車予約が自動的に行われることや、帰宅後に次回通院時の乗車予約ができるようになる。

このように、モビリティを中心としてさまざまなデータとシステムが連携することで、より利便性の高い移動の実現や、さらに蓄積されたデータをAIで処理することで、新しい未来予測という価値を見いだすことが可能になる。

スマートシティー実現に向けて

人間が生活していく上で、「移動」は絶対に切り離せない要素であり、日本全国のさまざまな地域で移動に関する課題が表面化してきている。ドコモは交通事業者や自治体、さまざまなパートナー企業と連携し、移動に関する社会課題の解決に取組み、住みよい「まちづくり」に貢献していきたいと考えている。

【用語解説】

※1 2019年3月26日報道発表

https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2019/03/26_00.html

※2 AIタクシー:詳細は本誌2018年5月号掲載

※3 2019年4月末現在

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