2. 会員基盤を軸とした事業革新~全社通じてのデータ活用推進の取り組み~
株式会社NTTドコモ 執行役員 デジタルマーケティング部長 白川 貴久子
前回ドコモのDX推進の3つの軸について触れた。AI、データサイエンティストによる顧客分析の高度化だけがDXではない。お客様応対や営業施策の企画・実施といった日々のオペレーション業務をデータドリブンにしていくことも重要な課題である。今回はそれを進める可視化基盤の構築と浸透活動について紹介する。
高鮮度・高精度のデータをビジネスに生かす取り組み
お客様がドコモショップなどでご契約いただいた内容を正確に、迅速に処理し、サービスを滞りなくご提供しご利用料金を正確に計算するために、情報システムは欠かせない。
リアルタイムマネジメントの思想により整備されたシステムから生まれる高鮮度、高精度のデータを、サービス改善や開発、そして営業活動のPDCAに以前から活用してきた。
現在デジタルマーケティング推進部内にある分析支援組織の前身は、約10年前に筆者が着任した情報システム部情報戦略担当である。SE集団にマーケターである筆者が1人入り、経営に資するデータ分析を掲げ、データドリブンのキー組織となるべく取り組んできた。
着任当初、各部署からの依頼のまま分析をしていたために、却って何度も手戻り、追加対応していることが気になった。依頼部署も分析に長けた人ばかりではない。
そこで、受付時に依頼の本質を徹底的にヒアリングし、目的に適う分析実施を担当全体で心がけた。
時に依頼通りの作業より時間がかかる対応であっても、それをすることで手戻りの稼働が圧倒的に減る。その分を深掘りや新たな課題に向けることができた。依頼元にも喜んでいただき、それが分析担当者のモチベーションにもつながった。そうしてチーム全体が分析請負者ではなく、共にビジネス課題を解決するパートナーとしての意識に変わっていった。
データドリブンの仲間を増やす
ビジネスに寄り添うために、分析担当のSEも確かなデータ知識、分析技術に加えて、マーケティングマインドを持ちながらビジネス課題に取り組めるよう、共に学び進めた。
その両面を持ち、データをビジネスに生かすことができる仲間を増やそう、という目的で実施したのが「分析事例発表会」である。10年前から四半期毎の開催を今も継続している。
当初は地域支社を巡回しながら、ノウハウ共有はもちろん、悩みも分かち合ってきた。現在は、Webによる遠隔参加者も含め、毎回約500名が参加するまでに規模を拡大している。
さらにデータ活用を全社に広げるべくここ3年ほど力を入れて来ているのがデータ可視化基盤の展開である。
可視化で全業務にデータ活用を広げる
ドコモには本社と8地域の支社、そして地域の営業を支える支店があり、お客様接点であるドコモショップ、インフォメーションセンターなど、全国各地で多くの人が業務に携わっている。
デジタル時代の今、業務に携わる全ての人がデータ活用できることは力だ。それを支える可視化基盤を構築し、浸透に尽力している。
可視化基盤には2つの仕組みがある。一つは誰もが簡単、迅速にデータウォッチができるダッシュボード、もう一つが気軽にデータ分析にトライできるセルフBIだ。
分析力はデータウォッチの習慣からダッシュボードで鍛える
定型化されたデータウォッチに役立つのがTableauを活用したダッシュボードだ。
定型といっても、予め用意した軸で視点変更も簡単、デザインの工夫でより直感的にデータを把握できる。
データは自動更新されるため、ダッシュボードを立ち上げるだけでよい。
よく分析力強化のためには何が必要かと問われるが、筆者はデータウォッチこそ分析の基礎だと考える。ダッシュボードで日々データウォッチの習慣をつけることが、分析の基礎力を鍛えるであろう。
速さへのこだわり 驚きが意欲を喚起する
可視化基盤構築においてこだわったことがある。表示の速さだ。
全国の現場で忙しく働く人がデータを見る気になるために、1操作での切り替わりは「3秒」までにこだわり、それを基本とした。それを実現したのが高速インメモリ基盤である。
そのこだわりは、今まで別の方法で分析をしてきた人の気持ちを動かすことに役立った。使い慣れた方法を変えることは容易ではないが、ダッシュボードの表現力と速さに「おーっ」と驚きの声が上がると進む。
感動は力を生む。
気軽にTRY & ERRORが分析力を磨く
定型のダッシュボードに対し、自由に分析したいニーズに対応したのがセルフBIだ。
Tableauの機能により、簡単に分析軸を変更したり、表現形式を変更できる。
しかし、誰もが直感的に理解できるようなグラフを最初から作成できる人はそういない。
何度もTRY&ERRORを繰り返しながら、よりわかりやすい表現方法を体得していくものだ。
操作が簡単で迅速な環境では、何度も何度も気軽に繰り返すことができる。それが、分析力磨きにつながると考える。
働き方改革に貢献 浸透のためのフォローを積極展開
どんな職場でも数値目標があり、定型化された帳票があるだろう。定期的に誰かがその帳票を作り共有する。それがたとえ毎日10分程度であっても、全国各地合わせれば莫大な稼働となる。
一方ダッシュボードは一度作成し共有すれば全国どこでも自動更新されるため、デスクのPCを起動するだけでよい。シンクライアント端末からリモートで見ることもできる。
作るのも見るのも効率化、まさしく働き方改革であり、早期の浸透、利用活性化をめざし、さまざまな研修プログラムを展開している。
2019年7月1日現在のべ5,195名が研修を受講し、リリースされたダッシュボードは350件となった。
また、地域の優良ダッシュボード事例の展開も進めている。
更なるデータドリブン化の推進に向け、地域のデータ活用をリードする人材の育成プログラムも7月に開始した。
次回は、お客様に寄り添ったマーケティングに欠かせない顧客分析の高度化をご紹介する。