5G時代の到来

 NTTドコモは、2020年9月20日より「5Gプレサービス」を開始した。2020年春に開始する予定の5G商用サービスと同じネットワーク装置や同じ周波数帯を利用しており、実質的な5Gのスタートと位置付けている。

振り返るとNTTドコモが1992年に営業を開始して以来、通信方式及びモバイルNWは大きく進化を遂げてきた。また、これに併せてドコモの事業自体も変遷を遂げている。営業開始当初は音声電話の提供がメインだったが、その後ショートメールやiモード機能、決済機能やdマーケットサービスの提供など、事業領域を拡大してきた。

2020年より始まる5Gの時代は、個人のお客さま向けには映像系を中心としたサービスを、法人のお客さまには事業や社会の課題解決につながるソリューションを、それぞれ優れたアセットを持つパートナーとの「協創」で提供していく新たな時代に突入する。

図1 ドコモの事業の変遷

5Gプレサービスの開始

このようなパートナーとの協創に向け、「5Gプレサービス」では、「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」に参加頂いている3,000を超えるパートナーの方とともにフィールド検証を実施し、新たな価値創出・社会的課題解決をさまざまな産業分野で提供していく。これまでも全国4拠点(東京、大阪、沖縄、グアム)に設置していた5G技術検証環境「ドコモ5Gオープンラボ」を11拠点に拡大し、パートナーとともに5Gを活用したソリューション創出の取り組みを加速している。

また、パートナーとの協創の場として、「ドコモオープンイノベーションクラウド」の提供も開始した。「ドコモオープンイノベーションクラウド」は、ネットワークの伝送遅延の低減とセキュアなクラウド環境を実現するMEC(Multi−access Edge Computing)の特徴を持ち、ドコモのモバイルNWにクラウド基盤を直結することで実現している。更にクラウド基盤上にドコモが開発した画像認識やAIエージェント基盤などの技術や、ソリューションパートナーが提供する5Gソリューションが順次搭載される予定となっており、「ドコモオープンイノベーションクラウド」が5G時代のソリューション創出の場となることを期待している。

図2 ドコモオープンイノベーションクラウド

5G時代のR&D

このようにドコモでは5Gの新たな時代を切り拓き、パートナーとの協創により新たな付加価値の提供や社会課題の解決を目指すために、5G、AI、デバイス/IoTの3つのテーマを掲げ、研究開発を進めている。

5Gの大きな特長は「高速・大容量」「低遅延」「多数接続」である。「高速・大容量」を活かすことで、動画コンテンツにおける4K/8Kストリーミングやスタジアムソリューションとしてマルチアングル配信といった利用シーンが考えられる。続いて、「低遅延」を活かすことで遠隔治療やリアルタイム顔認証といった即時性が求めらえるサービスの展開が可能となる。また、「多数接続」を活かすことで様々な機器を同時にNWへ接続し農業ICTやスマートシティへの適用が想定される。加えてネットワーク仮想化技術やスライシング技術を適用することで、ブロードバンドサービスや、IoTサービス、低遅延サービスなど、用途に応じて最適な機能を提供することが可能となり、都市部から地方都市、農村部など、各エリアで必要とされるNW機能をカスタマイズして提供することが出来るのも、5Gの大きな特徴となっている。

次にAIについては、現在が第三次ブームと言われているが、これまでの第一次ブーム及び第二次ブームについては、AIに対する期待値と、当時の技術で出来ることの間に大きなギャップが存在したため発展することが出来なかった。現在第三次ブームが継続しているのは、AIの活用を、AIの得意な分野に限定し、AIの各産業への特化に成功したからだと考える。このAIの第三次ブームの継続により、音声認識や画像認識、自然対話といった様々なAI機能が発達してきている。ドコモもこれまで自社サービスの高度化、高機能化を目指しAIの研究開発に取り組んできたが、今後はドコモのAIをパートナーのソリューションに活用することで、ドコモ単独では実現できなかった新たな価値の創造にも寄与できるということを期待している。例えば、タクシー需要予測の情報を配信するサービスである「AIタクシー(※)」はこのような協創の一例である。

これらのAIを動作させるためには非常に大きなコンピュータリソースが必要となるが、これはクラウドサービスの発達により、誰もが容易にAI機能を動作させることが可能となっている。現在AIの利用に関してはデータを取得・収集するデバイスと、それらデータを分析するAI処理部がデプロイされたクラウドとが連携することで実現されているケースが非常に多い。今後AIが更なる発展を遂げるためには、デバイス側とクラウド側とが頻繁に情報のやり取りを行いながら、密に連携していくことが重要になってくると思われるが、そのような場面においては、デバイス側とクラウド側とをつなぐ通信部分がボトルネックになる可能性が考えられる。このボトルネックを解消する最良の解決策が5Gであると我々は考えている。5Gが持つ「高速・大容量」「低遅延」「多数接続」といった特徴を活かすことで、5GがAI技術の可能性を最大限に活かすためのキーパーツになるのではないだろうか。

続いてデバイス/IoTであるが、これまでのモバイルサービスにおけるデバイスの発展は主にスマートフォン、タブレットが中心に進んできたが、5G時代は新たなデバイスの発展が期待される。例えばxRデバイスである。xRデバイスでは、360°視点映像といった大容量のコンテンツ配信が必要となってくる。これまでの通信方式では配信が難しかったコンテンツも5Gを用いることで配信が可能となり、これまで以上にxRデバイスの利用シーンが拡大していくものと思われる。

このように、5Gの特徴を活かしてより便利で、新たな体験をユーザーに届けようとした場合に、他のウェアラブルデバイスやヒアラブルデバイスといった最新のデバイスが必要になる可能性もある。そこでドコモでは5Gスマートフォンをハブとして周辺デバイスを連携させることにより、5Gの新体感を提供できる「マイネットワーク構想」を推進している。こちらもパートナーとの協創による実現を目指し取り組みを進めている。

図3 マイネットワーク構想(※)

また、多数接続の特徴を活かせば、我々の身の回りにある様々な機器を5Gネットワークと接続することが可能となり、スマートホームといった一般の家庭での利用にとどまらず、工場の中の制御機器や、農業用のセンサ機器を5Gで接続することで、新たな産業の創出や、社会課題の解決といった形での適用が期待できると考えている。ドコモでは2016年よりドローンの実用化にも取り組んでおり、2019年3月より「ドローンプラットフォーム docomo dky」の提供も開始している。ドローンとセルラーネットワークとを常時接続することで太陽光パネル点検や無線基地局点検といった点検業務の効率化への活用が進められている。このようなケースにおいても、様々な機器がネットワークに接続されていることが前提となり、5Gの必要性が高まるものと推察している。

このようにNTTドコモでは、5G、AI、デバイス/IoTという3つのテーマがそれぞれ密接に連携しながら新たな価値を創造していくという考えの下、パートナーと共に5G時代を協創していくことにチャレンジしている。

(※)AIタクシーの詳細は下記URL参照

 URL:https://www.nttdocomo.co.jp/biz/service/aitaxi/

(※)「マイネットワーク構想」「MY NETWORK」は株式会社NTTドコモの商標