G空間情報(地図・位置情報)が新たな社会基盤を支えるキーに

2018年11月より日本版のGPS(Global Positioning System)である準天頂衛星システム「みちびき」のサービスが開始された。「みちびき」がもたらす高精度な位置情報の活用により、自動車、農機、ドローン等の自動運転といった革新的なサービスが創出されつつある。政府では、「みちびき」の活用や、地理空間情報のオープン化・流通を促進する「G空間情報センター」を中心に具体的な利活用の高度化の工程を示した「第3期地理空間情報活用推進基本計画」が策定されている。

また、「みちびき」のような宇宙技術の利用は、測位衛星のみならず、地球観測衛星の小型化技術やAI等を活用した画像解析技術により、全球レベルの3次元地図や資源開発・農業等の分野におけるコンサルティングサービスなど、これまでにない新たなサービスが登場してきている。政府においても、宇宙ベンチャーの育成に向け、官民合わせて5年で約1000億円のリスクマネーを供給するとされており、本分野における技術開発の著しい進展が期待される。

2020年には、オリンピック・パラリンピック東京大会が開催されることから、2020をマイルストンとして、自動運転技術をはじめG空間情報や宇宙技術を活用した様々な魅力的で革新的なサービスが創出されることが期待できる。

本レポートでは4回にわたり、NTTデータにおける取り組みを中心に、G空間情報に関する技術動向や空間・交通分野における活用領域について解説する。

「みちびき」の運用開始を契機に高精度測位社会が到来

2018年11月よりサービス開始された「みちびき」は、GPS等の衛星システムだけでは、これまで数mから10m程度であった測位(位置情報)の精度が1mを下回り数cmのレベルまで向上することとなる。このことは、自動車分野においては車線レベルを判定できる位置情報を獲得することができ、より高度な交通情報によるきめ細かなナビゲーションサービスや自動運転の進展に寄与するものとなるであろう。農業分野においても、トラクター等の農機の自動運転化に向けた取り組みが進められており、熟練者の高齢化といった社会課題を解決するツールとして期待される。

「みちびき」には高精度化だけでなく、災害危機管理通報等のメッセージサービスが提供されており、当社もいち早くこの機能の社会実装に向けた実証など取り組みを推進してきた。これは、昨今深刻化している様々な災害時において、停電や故障等により通常の通信網が使用できなくなった場合でも、GPS受信機さえ保有していれば、災害に関わる情報を受け取れるようにするもので、広く国民に安心・安全をもたらすものと期待される。

図1:準天頂衛星システム「みちびき」が提供するサービス(引用元:内閣府 宇宙開発戦略推進事務局)

高精度測位は屋内にも屋外とシームレスにつなぐ

屋外のみならず屋内にも位置情報サービスの技術開発や導入が進められている。国土交通省では「高精度測位社会プロジェクト」を立ち上げ、オリパラに向けて、ターミナル駅や空港、競技場など、広大な屋内空間を外国人や障害者の方でもストレスなく移動ができるよう高精度屋内地図の作成や位置情報サービスの実証などを進めている。

弊社においても地磁気を活用した高精度な測位技術をコアとする位置情報サービス基盤の提供を開始しており、成田国際空港様への導入・サービス開始したところである。

地図は宇宙利用技術により3次元、高精度、グローバルに

位置情報サービスを支える地図についても高度化が図られている。車載のLiDAR、カメラのセンサ情報と衛星測位による高精度な車両位置情報とを組合せ、数cm精度の地図情報の提供を可能とする仕組みであるMMS(Mobile Mapping System)による高精度3次元道路周辺情報は、自動運転やインフラ管理の効率化などの活用が見込まれている。

また、グローバルに展開できる強みを発揮するのが、衛星画像を活用した地図情報提供サービスである。地球観測衛星は、高解像度化が進み、現在は航空写真に匹敵する30cmレベルとなっている。また、小型衛星の製作技術も進み、数機単位で運用されていたものが、100機単位での運用が始まっている。こうした宇宙インフラの進展とAI等の画像処理技術を活用することで、様々な情報が新たに生み出されることが期待されている。弊社ではAIを含む自動化処理技術により「AW3D」という、グローバルに均質かつ高精度、高頻度で提供できる3次元地図情報サービス提供を実施しており、資源開発、設備計画、災害対策等に活用できる地図基盤として活用されている。

ダイナミックマップは多用途での活用がキーに

自動運転を支える地図基盤としてダイナミックマップがある。ダイナミックマップは、高精度な道路地図基盤をベースに、渋滞情報や規制情報といった交通情報、ヒト、クルマなどの位置情報、雨量・気温等の気象情報といった、動的な情報を紐付けて活用するものである。

図2:ダイナミックマップの概念(引用元:SIP 自動走行システム推進委員会)

ダイナミックマップは、内閣府のSIP(戦略イノベーションプログラム)の自動走行システムにおいて官民連携のもと推進されており、その用途は自動走行における活用はもとより、道路等のインフラ管理、エリアマネジメント、物流、救急・消防など、多用途での活用も見込まれている。弊社では車両の位置情報を把握・予測することで渋滞を軽減・解消するためのダイナミックな信号制御(交通管制)にかかる取り組みや、オリパラでの競技会場周辺での混雑解消、誘導といったことを目的に、交通流に加え人流を把握・予測する技術開発や実証プロジェクトを推進している。

オリパラをショーケース次世代の社会インフラに

高精度な地図情報や位置情報を活用したサービスは、オリパラ時のみならず、オリパラ後にも活用可能なものとして、次世代の社会インフラを形成し、さらに発展していくものと期待できる。

次回以降は、これらの技術や仕組みを活用し、空間・交通分野において、NTTデータが提供しているサービスや取り組みを中心に紹介していく。

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清水 邦彦 shimizuknh@nttdata.co.jp

礒 尚樹 ison@nttdata.co.jp