企業と社会のデジタル変革

1990年代にコンピュータのダウンサイジング化やインターネットの爆発的普及といった、いわゆる第3次産業革命により生産性の向上を目指したビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)が進展・拡大した。その後、近年は「社会の変化」と「テクノロジーの進化」が融合することにより、企業と社会のデジタルトランスフォーメーション( 以下、DX)が注目されている。「社会の変化」については、サイバー(仮想空間)とフィジカル(現実空間)を高度に融合した人間中心の社会を期待する、“Society5.0 ※ 1”が提唱され、現代社会に様々な形で表れている社会的課題を解決しつつ、経済発展に寄与することが求められている。もう一つの「テクノロジーの進化」については、IoT・AI・ビッグデータ・ロボットといった様々な技術の進化がもたらす、“第4 次産業革命”が提唱されている。

この2つの動きが融合することにより、世の中に様々なつながりを促し、従来、独立・対立関係にあったものが融合・変化し、業種の壁が限りなく低くなっている。さらに、新たなデジタルプレイヤーの登場や働き方改革などの動きが加速している。このように、DXが促進されることにより、新たな付加価値の創造や産業構造の転換につながっている動きが加速している(図1)。

図1 デジタルトランスフォーメーション(デジタル変革:DX)

一方、IT専門調査会社のIDC Japan は、国内のITユーザー企業におけるDXの活用状況の調査を行い、成熟度で表現した※ 2。これによると、2016 年から2017年の1年間ではDXの活用が大きく進んだが、2017年から2018年の1 年間では足踏み状態になっているという興味深い結果となった。このことから、企業のDXへの意識は高まっているが、展開にあたっては、全社的な導入を阻むいくつかの壁が存在し、取組みが限定されていると推測される。

IoTの推進に立ちはだかる壁

DXを促進する重要な取組みの一つが、IoTの活用である。では、IoTを活用することで、どのようにしてDXが加速されるのかを明らかにするために、IoTによる価値創出のフレームワークを説明したい(図2)。

図2 IoTによる価値創出フレームワーク

IoTは、まずは、現実空間における人・モノ・環境に関してセンシングしたデータを、ネットワークを介して仮想空間に収集するための「コネクテッド化」から始まる。そして、それらの収集したデータを活用して監視する「見える化」、さらには、AI等を活用して収集したデータを分析することによる「最適化」、そしてその結果に基づき現実空間に向けて展開する「制御・自動化」という一連のサイクルにおける各フェーズで新たな価値の創出が行われる。

しかしながら、実際に企業がIoTに取組む際には、価値創出フェーズ毎に様々な課題に直面し、プロジェクトを推進する中で壁にぶつかることが多い(図3)。例えば、モノをつなぐコネクテッド化初期においては、自社製品に無線通信機能を組み込む際の技術スキルや無線端末の認証取得、最適無線ネットワーク設計等の知識を有する人材の不足により、IoTをスタートできないという悩みを相談されることがある。IT調査会社のITRの調査によると、4割以上のIT利用企業が社員のIoTスキル不足に悩みを持っている。

図3 IoTによる価値創出の推進に立ちはだかる壁

また、「見える化」のフェーズにおいても、IoTの導入効果を経営者に訴求できずに取組みの中断を迫られる、またはIoTの導入自体が会社の中で目的化して本来のゴールを見失い迷走するといった導入後の壁もあるようだ。「最適化」「制御・自動化」のフェーズでは、特定領域の取組みから複数の社内プロジェクトの連携による全社的な取組みに昇華させる際に、社内の制度や組織の壁にぶつかりイノベーションが進めにくいといった、企業体質に関する課題も3割程度の企業が抱えている。さらに、DXが目指す企業の枠を超えたパートナーとの連携により革新的なサービスを創造したり、産業構造を変革したりするためには、業界全体が協調と競争を意識しなければならないが、取組みへの社内コンセンサスが得られにくいことや、実際に高い壁を越えて成功に導く能力を持った人材が不足しているという課題があげられる。

IoT推進上の課題解決に向けたドコモの取組み

ドコモは、これまでのIoTの導入実績からお客様のIoT推進にあたっての課題やニーズを明らかにし、企業・社会のDXによる新たな価値創造を支援するためにIoTソリューションの開発、提供に取組んできたので、次回以降順次紹介していきたい。1回目は、システム企画、構築、運用保守といった一連のIoT導入前後のプロセスをサポートするマネージドサービス(国内・グローバル)について紹介する。

[用語解説]

* 1 Society5.0日本政府が提唱する、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続くICTを最大限活用して人々に豊かさをもたらす新たな経済社会

* 2 IDCの成熟度評価手法(IDC Maturity Scape):IDCがIT環境の導入状況を客観的に評価するために開発した手法で、特定のIT環境についてまったく導入していない場合をステージ0(未導入)とし、導入後のユーザー企業の成熟度を、ステージ1(個人依存)からステージ5(継続的革新)までの5段階で評価

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