4. 建設現場の働き方改革を実現する 「建設IoTソリューション」(後編)
法人ビジネス本部 IoTビジネス部長
谷 直樹
現在、建設業界においては、建設現場での働き方改革が求められている。前回の建設業界向けIoTの取組み概要に続き、具体的な課題解決に向けた実証実験の内容や、そこから得られた成果や課題について紹介する。
はじめに
前号では、建設業が抱える課題、ICT/IoT導入に立ちはだかる壁、建設IoTソリューションで作り上げる世界観と、めざす提供価値について紹介した。
「LANDLOG」上で構築される「建設現場IoTソリューション」は、必要な情報を相互に連携させることで、データの価値をさらに向上させ、建設業界のデジタル化に貢献していくものである。本号では、それらを前提とし、さらに具体的な取組みを紹介する。
LANDLOGの取組み
LANDLOGで提供するオープンプラットフォームでは、具体的に次のような取組みを進めている。
建設現場に設置したカメラの画像を解析することにより、作業員や建設機械の稼働状況、ダンプの運行状況などを把握し、工程管理にフィードバックする。また、ドローンで日々変化する工事現場の地形を測量して、現場に設置したエッジボックスで収集データを処理し、30分程度で3Dで可視化し、毎日の工事進捗を把握する(図1)。
これらについては、株式会社ランドログのホームページを参考にされたい。(https://www.landlog.info/)
建設現場IoTソリューションのPoC※1
2017年よりNTTドコモは実際の建設現場でPoCを複数回実施してきた。それぞれテーマを決め、実際の現場から様々な知見を得ることができた(図2)。
第1回:データドリブン型の検証
現場で起こっているコトの可視化や最適化の検討のために、どのようなデータが有効であるかを検証した。
検証からは、作業員の位置情報、活動量、バイタルデータ等が現場で求められる体調管理、稼働管理に有効である可能性が見出せた。一方、現場では依然として携帯電話による音声通話中心のコミュニケーションが中心であり、ICT/IoT端末の形状や、現場でのICT機器運用面に課題があることが判明した。
第2回:進捗・安全管理の価値検証
収集するデータの種類を増やし、現場での進捗管理・安全管理にも適用できないか検証した。
職員・作業員位置情報から見える非効率さや、バイタルと位置を使った状態推定による体調管理の有用性、資機材の稼働状況からの最適数の算出等、ICT/IoTの活用が「現場の生産性向上」に有効であることが判明した一方で、工程進捗管理の難しさや、現場におけるコミュニケーションツールの重要性を認識した。
第3回:コミュニケーションの検証
躯体工程※2と設備・内装工程において、現場従事者のコミュニケーションがどのように行われているかの検証を行った。
現場所長から職人まで、現場の一日の流れにおいて、ToDoリスト(進捗に応じた推奨タスクや、現場SNSで投稿される依頼事項)や配置図の共有、作業安全書類の自動作成を実現することで、効率的な業務実施を支援できる可能性が見えてきた。
PoCの成果と見えてきた課題
今回のPoCでは、ICT/IoT機器の利用感のヒアリングにとどまらず、「取得・分析されたデータに異常値が認められた際、何をしていたか?」などの状況確認を行い、分析データが示す意味についても把握した。これにより、建設現場における様々なシーンで「効率化の余地」があることが分かった。
例えば、労務時間短縮の観点では、「現場巡視の導線をマネジメントすること」や、「現場の写真整理を伴う書類作成業務を自動化すること」などがあげられる。この他にも、「高所作業車の稼働率の把握による有効活用やレンタルコストの圧縮」、「バイタルデータの把握・分析による体調不良や精神疲労の予兆だけでなく、作業環境や作業場所のデータを組み合わせることで、労災を未然に防止する」といった、建設現場におけるICT/IoT活躍の可能性を見いだせた(図3)。
一方で、ICT/IoT機器に不慣れな現場作業員に対する操作支援など、運用面での課題も浮き彫りとなった。
特に重要な気づきは、ICT/IoTを導入する際の本社(導入判断側)と、現場(導入側)での導入効果に対する“指標”が異なる点である。
現場における重要指標は、「安全・品質・納期」であるが、本社組織の重要指標は、「コスト削減・時間外削減」である。つまり、現場では「納期遵守や品質・安全」に寄与する(効果が実感できる)仕組みでないと、利用のモチベーションが上がらないということである。このことから、いかに「現場に寄り添い支援する仕組み」を構築していくことが重要であるかを認識した。
そして建設現場IoTソリューションへ
実際に現場にドコモ社員が出向いて建設現場従事者の方々とコミュニケーションできたことで、現場オペレーションまで踏み込んだ知見やノウハウを得ることできた。
これらの経験をもとに、ドコモの建設現場IoTソリューションの提供に至った(図4※3)。本ソリューションでは、課題解決に向けた仕組みの提供だけではなく、業界の知見を持った様々なパートナーとの連携が不可欠であり、この取組みも強化していく。
5G時代に向けた取組み
ドコモが2019年9月にプレサービス開始、2020年春に商用開始をめざしている第5世代移動通信システム「5G」を活用した建設業界での実証実験をコマツ様と行っている。現場にあるコマツ様の建設機械を遠く離れたオペレーションルームから5G回線を介して遠隔操作できるシステムである。5Gの高速通信・大容量・低遅延の特徴を活かし、リアルタイムな遠隔制御を実現する(図5)。
両社の最新技術の融合により実用性が確認されれば、建設・鉱山現場におけるIoT 活用の可能性をさらに広げることになる。これまで紹介した「建設現場IoTソリューション」や「LANDLOG」等の建設業界向けのソリューションと「5G」を組み合わせることで、安全で生産性の高い未来の建設現場の実現に貢献できると考えている。
【用語解説】
※1 PoC:Proof of Conceptの略で、概念実証を指す。新しい概念や理論、原理などが実現可能であることを示すための簡易な試行を意味する
※2 躯体工程:建設工程において、柱、壁、梁、床などをつくる工程
※3 2018年10月号の再掲載
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