ドコモが地方創生に取組む意義

2020年以降も続く長期トレンドとして、「少子高齢化」が進行している。2020年には、2017年度比で総人口が約140万人も減少し、生産年齢人口も190万人減少する見込みとされる※1。また、2025年までの経済状況の中期的なトレンドとして、オリンピック特需後も緩やかな成長との見立てが出ているが、エコノミストの間では、マイナス成長となる見方も示されている。

こうした中、日本全体の活力を高め、地方の人口減少に歯止めをかけ、東京への一極集中化を回避する地方創生の取組みの重要性が増している。

ドコモでも地方創生の取組みを中期戦略の大きな柱として掲げており、2017年4月に発表した中期戦略2020「beyond宣言」の6つある中の宣言5として『社会課題を解決する「ソリューション協創宣言」』として、パートナーとの協創をさらに進め、日本の成長と豊かな社会の実現に向けた取組みを推進している(図1)。

図1 ドコモの中期取組み

また、同じタイミングで地域協創・ICT推進室が発足し、本社に約60名、全国の8支社にも地方創生に係る総勢160名の担当組織が作られ、全社で連携して活動している。他の企業にも地方創生の組織はあるが、これだけの規模は珍しいのではないかと思う。

地方創生の取組み事例

出生率低下にともなう人口減少や、地方からの人口流出、いわゆる東京への一極集中が日本の抱える課題として挙げられるが、特に東京への一極集中に着目し、地方の「産業振興」や「暮らしやすいまちづくり」に貢献したいと考えている。

「産業振興」では、地方の稼ぐ力の強化、「暮らしやすいまちづくり」では、地方と都市部の利便性の格差解消を行うことをめざしている。また、これらの実現に向け、行政内で検討するリソースをこれらにシフトしてもらうために、ICTを活用した行政サービスの効率化・スマート化のお手伝いもしていきたいと考えている。

ドコモの重点分野として、「一次産業」、「教育」、「スポーツ」、「モビリティ」、「ヘルスケア」、「働き方改革」、「観光・まちづくり」、「高齢者」、「Fintech」の9つの領域に取組んでいるが、「観光・まちづくり」の取組みを以下に紹介する。

日本には豊かな自然や多様な文化等の世界に誇る観光資源があり、観光大国フランスに肩を並べるほど訪日外国人が増えれば、GDPを数%押し上げるとも言われているが、観光コンテンツの情報発信、外国人の受入環境整備等、まだまだ改善の余地があると考えられる。

ドコモの携帯電話ネットワークのビッグデータを活用した「モバイル空間統計※2」は、「いつ、どんな人が、どこから、どこへ」動いたか把握できる新たな人口統計サービスである。このサービスを利用すれば、訪日外国人の行動把握、観光プロモーションの立案、企業のマーケティング、自治体の防災計画まで、幅広い分野に活用できる。例えば、外国人の受入環境整備を行うにも、やみくもに実施するのではなく、ビッグデータの活用により、効果的な展開が行えると考えており、既に多くの自治体、DMO※3などで利用いただいている。また、地域経済分析システム「RESAS」(提供:内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部)にも採用されている。

さらに、日本政府による外国人の受入環境整備の重要な目標の1つとして、2020年までに主な商業施設や宿泊施設、観光スポットにおけるキャッシュレス化が挙げられる。近年、急増している東アジアの観光客、中でも中国のキャッシュレス決済比率は55%で、日本の18%に比べ約3倍も高くなっており※4、キャッシュレス決済が利用できないことによる機会損失は是非避けたいところだ。日本国内の各施設がキャッシュレス決済に対応してない理由として、①高額な決済手数料、②決済端末の導入費用、③入金サイクルが長いなどが挙げられる。

ドコモの「Any Where※5」は、屋内外で簡単に決済できるモバイル決済サービスで、宮古島では急増する訪日外国人への対応が不十分であったことから、宮古島市、宮古島商工会議所、沖縄銀行、琉球銀行、宮古タクシー事業協同組合などの地元プレーヤーと連携し、本サービスを用いて島内のタクシーや商業施設のキャッシュレス化の実証実験を行っている。地元にキャッシュレスのメリットを理解してもらい、観光産業の更なる強化に向けた取組みを進めている(図2)。

図2 宮古島訪日外国人送客およびキャッシュレス化実証(2018年7月から)

地域のさらなる活性化に向けて

地域のさらなる活性化に向け、これまでの経験から、以下の3点が課題だと考えている。

1.補助金だけでは事業の継続性を担保することは難しいため、地域のプレーヤーと連携し、継続的に事業運営を行える座組みが必要

2.地域の課題は単一ではなく、複合的であり、解決に向けた総合的なプランの策定が必要

3.ICT化は、トップとの合意形成、リーダーシップの発揮が必要

ドコモでは、こうした課題に対し、前号で紹介した、アグリガールやIoTデザインガールによる自治体のお客さまやパートナーと一体となって課題解決を図るとともに、日本全国の自治体と連携協定を締結し、地域の複合的な社会課題を解決していく取組みを行ってきた。今年度(平成30年11月現在)に入って新たに9つの連携協定を締結し、現在では16の協定を締結している(図3)。さらに、自治体だけでなく地元の企業や団体等多くのパートナーとも連携し、引き続き地方創生に取組んでいきたい。

図3 自治体との地域協創に向けた取組み

【用語解説】

※1 内閣府 平成30年版高齢社会白書を参考

※2 モバイル空間統計

https://www.nttdocomo.co.jp/biz/service/spatial_statistics/

※3 DMO:Destination Management Organizationの略。当該地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと

※4 経済産業省 「キャッシュレスの現状と推進」 2017年8月を参考

※5 Any Where

https://www.nttdocomo.co.jp/biz/service/anywhere/

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https://www.nttdocomo.co.jp/biz/special/iot/