昨今記事に登場する「デザイン」の意味

今さらと思う方には申し訳ないが、皆さんはデザインと聞いて何を
思い浮かべるだろうか。ファッションや洒落た建物の内装が頭に浮かぶ人もまだ多いかもしれない。

しかし、ICTの世界に限らずビジネスの世界での「デザイン」という言葉の意味は、日本においてもこの数年で大きく変わりつつある。

今日のビジネスシーンでの「デザイン」は、「デザイン思考を活用して、ユーザーに感動をもたらす目的で行っている活動全体」を指すことが多くなってきている。ここはぜひ理解しておきたいポイントだ。

嗜好・生活スタイルの多様化により、企業が供給側の論理でサービスや製品を提供してももはや受け入れられない時代になり、ユーザー側の潜在的なものも含めたニーズを的確に捉え、ユーザーにフィットするサービスや製品を提供していかなくてはいけなくなっている。

このような課題を持つ企業は、どのようなアクションが必要だろうか。

ユーザーニーズを的確に把握し、どんなサービスが最適かを考える

2010 年代に入り、様々な企業で注目されるようになったのがユーザーエクスペリエンスデザインである。ユーザーエクスペリエンスとは、「サービスや製品を使用する際の、ユーザーの印象や体験」であり、それをデザインするということは、その際に感じる「嬉しさ」「好ましさ」「次も使ってみたいという気持ち」などを向上させるにはどうするか、ということだ。

ユーザーエクスペリエンスは、与えられた条件によって異なる評価結果を生むことも理解できるだろう。例えば、遊園地のサービスを考えてみると良い。

招待されて無料で遊園地に来たのか/それとも割引もない正規料金を支払って遊びに来たのか、初めて来たのか/ 3 回目なのか、友達と来たのか/恋人と来たのか、などでもユーザーが感じる満足度は違う。

より具体的なユーザー像(ペルソナ=図1 参照)を定めて、ユーザーがどのような行動をし、どのように感じ・考えるのか、それを改善しようとするとどうすれば良いのかをまとめていく(カスタマージャーニーマップ=図2 参照)。

図1 ペルソナ記述例

基本的にはこのような作業を繰り返し改善していくことで、より良いサービスや製品はどのようなものか、を考えていくことになる。
サービスや製品をどのようなものにしていくかを考える主体は、あくまでもそれらを提供する企業であるが、この過程で社内外のビジネス、ICT、デザイン、調査、等の専門家が関わることにより、より魅力的な改善策を作り上げることもできる。

図2 カスタマージャーニーマップの記述例

見えるようにする、訴求力を上げる、理解してもらえるようにする

ひと昔前であれば、提案といえば、文字・図・絵・写真の組み合わせで
スライド化し、説明したい内容を上司や顧客に説明していた。

現在は、ICT が以前よりも活用できるようになり、ムービー、R(Virtual
Reality:仮想現実)/ AR(Augmented Reality:拡張現実)などを活用した説明により、想定しているユーザー行動が視覚的に表現され、関係者の認識相違の解消や上司・顧客への訴求力向上が図れるようになってきている。

他者の協力を得て、より良い策を練る

この数年は、ユーザー志向で考え、早くユーザーにとって価値のあるサービス・製品を提供するために他社との協業・連携を行う「オープンイノベーション」に積極的に取り組む企業も多い。

特にスタートアップ企業は、俊敏さを強みとして得意技術・サービスに注力した取組みを進めているため、新たなサービス・製品を生み出すにはとても良いパートナーとなってくれることが期待される。

また、グローバルへの展開が視野に入る企業では、日本以外での知恵、技術、サービスも大いに参考にすべきだろう。欧州での取り組みはさることながら、中国・APACでの先進的な取り組みも参考になると思う。

作り育てる

前述までの作業等を経て、実際に「使いものになるサービス・製品が果たしてできるのか」を確かめる段階となる。

「デジタル」の時代であり、求められるものが短期間で変化するの当たり前という認識のもとでのシステム・サービス開発が求められるため、アジャイル手法での開発を行うことが重要だ。

試す

システム・サービスの確認すべき部分が完成すると、狙った改善が図れているかを試す段階になる。

例えば、店舗網を持つ企業の場合は、実験店舗を設定し、店舗とシステム・サービスを組み合わせたフィールドテストを実施、あるいは仮想的な実験店舗環境を構築したうえでのテストを実施する。

このテストには、できるだけ対象となるユーザーに近い属性の人に協力してもらい、ユーザーエクスペリエンスを評価することになる。

ユーザーからの評価は、以前からマーケティングで行われているグループインタビュー、アンケートのほか、ICT を活用した客観情報・事実情報(SNS、生体情報等)を取得し、より精度の高い分析評価を行おうとする企業も現れている。

集約してさらに環境変化に合わせる動き

 ここまで書いてきたデザインに関するアクションを、一企業が実施するのはなかなか難しいものだ。

 このため、大手コンサルティングファームや大手情報サービス事業者が、ラボやスタジオといった施設を開設し、そこでのアイディア創出、プランニング、実装、検証、協業などを演出する動きがこの数年活発となっている。

 また、大手企業では自ら新たな事業を創り出そうとする動きを推進している企業もあり、これから様々な形態の協業が生まれ、より魅力的なサービスや製品が生み出されていくことになるだろう。
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