●アプリケーションサーバ市場でトップを目指すオラクルの新戦略
 日本オラクル
 取締役 専務執行役員
 営業統括
 山元 賢治氏

【INTERVIEW】
アプリケーションサーバは
アーキテクチャを売る日本オラクルの背骨


データベース市場でトップシェアを誇り、常にマーケットをリードし続けているオラクルが、アプリケーションサーバ市場においてもシェアNo.1を獲得すべく、強化戦略を打ち出した。
新戦略の狙いとビジョンを中心に、Linux事業への取組みも含め、最近のビジネスの展開状況について、営業を統括する山元賢治取締役・専務執行役員に聞いた。


■不透明な状況下、H15年5月期下期の売上は対前年度10%増に

―景気低迷が続く中にあって、業績予想を上方修正するなど、最近好調のようですね。

山元 おかげさまで売上高がかなり上がってきました。昨日(6月24日)発表しましたが、このIT不況下にあって、平成15年5月期下期の売上高は、対前年比10%増を達成しました。特に第3・第4四半期での売上が大幅に伸びました。この勢いをさらにドライブするためにも、今期の第1・第2四半期の頑張りが非常に重要だと思っています。

―この時期それだけ伸びた要因は。

山元 もちろん大型案件の受注などがありますが、私は「やるべきことをやってきた成果が現れた」と思っています。その顕著な例が、アプリケーションサーバです。実は、私は一度オラクルから出て、また戻ってきた人間です。私が戻ってきたときは、Oracle DatabaseかOracle EBS(E-Business Suite)かという議論になっていて、人間で言うと背骨に相当するアプリケーションサーバの販売にはまったく注力していませんでした。私は、『日本オラクルは製品のモジュールではなくて、アーキテクチャを売る会社である。その技術を売り物にする会社で、技術者の力を一番活かせるのは、アプリケーションサーバの分野。Databaseが腰で頭がEBSとすれば、アーキテクチャの背骨であるアプリケーションサーバを売らなくてどうする』と主張し、販売を強化し始めました。おかげさまで3年間フラットであった売上げも50%近く伸びました。データベースとアプリケーションサーバがインテグレートされてトータルのインフラとして売れるという好循環が生まれてきたことに加えて、営業担当者に「Oracle9i Application Server(AS)Enterprise Edition」の優位性を徹底して訴求させた結果だと思います。

■2006年度にはアプリケーションサーバ市場で、シェアトップ獲得を目指す

―去る5月19日、先ほど日本オラクルの背骨に相当すると言われたアプリケーションサーバ製品に関する新戦略を発表されましたが、アプリケーションサーバを取り巻く環境をどのように捉えていますか。

山元 日本における基幹システム分野でのWebコンピューティング化は、意外と進んでおらず、まだまだこれからと思っています。アプリケーションサーバについては、ここ何年かはEAIとかPortal、Java/XMLなど、トピックごとにいろんなツール、機能、開発環境がバラバラに提供されてきました。しかし最近は、このようなツール、機能、開発言語がインテグレートされるフェーズに入ったと捉えています。オラクルは、インテグレートされただけでなくコンプリートでなければならないと主張しています。すなわちUnbreakable(壊れない・止まらない・安全である)Software Infrastructureです。しかも、ラリー・エリソン会長兼CEOは、『オラクルは、すべてインターネット標準に準拠した製品だけを出していく』(図1参照)と述べており、そういう会社が粛々としてやってきたデータベースとのインテグレート、すなわちいろいろな部品がバラバラになっていたものを一つに集約していくことが必要とされるちょうど良い時期に製品が整ったかなと思います。


図1 すべての層でオープンかつ標準

―そこに照準を合わせてきた…。

山元 そう思います。特に、日本はムーブメントが少しズレていますので、正に市場のニーズと製品出荷がピッタリ合ったと思います。2年前、Oracle9iを発表した時から言っている「インテグレートでコンプリートなバリューをお届けする」という日本オラクルの姿勢が、地に足が着いた形で具現化されていると言えます。

 一方で、我々は従来のクライアント/サーバシステムから、JavaをベースとしたWebコンピューティングへの移行を視野に、90年代半ばから「すべての製品をJava対応します」と言っておきながら、申し訳ないことに、アプリケーションサーバ製品については、少し停滞した時期がありました。それがここにきてすべて完了しました。私流の表現で言いますと、『家を建て替え中のため、一時アパートを借りて住んでいただいているお客様が沢山います。そういう皆様に、家が完成しましたので帰ってきてくださいと言えるフェーズになりました』ということです。

―データベースはOracleだがWebアプリケーションサーバは他社製品というユーザーがたくさんおり、マーケットシェアも3位となっている。

山元 確かに先ほど述べたように途中にわずかな停滞期があり、3位からの再出発ですが、実は01年4月〜02年5月の1年間でもっとも成長したアプリケーションサーバは、Oracle9iASです。(図2参照)成長率という観点からみれば、Oracle9iASがすでにナンバーワンの地位を獲得しているとも言えます。今回発表の一連の新戦略は、オラクルのアプリケーションサーバ製品の良さを改めて認識してもらい、より多くの技術者の方々に利用していただく、オラクルファンに戻ってきていただくことが最大の狙いであり、目的です。


図2 CAGR56%を達成したOracle9iAS

―強化戦略発表の際、新宅社長は『アプリケーションサーバ製品のCAGR(年間平均成長率)50%以上を目指し、2006年度にはアプリケーションサーバ市場でシェアトップを獲得する』と意気込みを語っていました。発表から1カ月強を経て、手応えはいかがですか。

山元 建て替えの際に意外と近くにアパートを借りていてくれた方が多いという好感触を得ています。端的な例が「Oracle Direct」でのセミナーの集客度が強烈に上がってきていることで、それくらい皆さん興味をお持ちです。なお、Oracle Directは、お客様からの様々な問い合わせにワンストップで対応するほか、営業・提案活動のすべてを提供する顧客コミュニケーションの窓口です。Oracle Directへの問合わせ内容、アクセスログ、結果はすべて「Oracle9i Database 」と、「Oracle TeleSales」によって管理し、的確な対応を行うと同時に市場のニーズをきめ細かく分析しています。その威力は絶大で、究極のCRMといっても過言ではありません。

―メッセージが届く範囲にいてくれた…。

山元 そう思います。パートナーも含めて想像以上に大きな反響で、充分過ぎるほどの手応えを感じています。2006年度にシェア1位という目標は、今後舵のきり方さえ誤らなければ、間違いなく達成可能です。

■3つのキーアクションプラン

―新戦略の柱である3 つのキーアクションプラン−@低価格で高いクオリティのアプリケーションサーバの投入、Aアプリケーションサーバをすべてのユーザーへ提供、BJava技術者の育成−の具体的な戦略をお聞かせください。

●Oracle9iAS Java Editionの投入
山元 まず、新製品につきましては、J2EE1.3対応のアプリケーションサーバとクラスタ機能、IDE(統合開発環境)をパッケージした「Oracle9iAS Java Edition」を62万5,000円という低価格で提供開始しました。これは、図3に示すように、同等機能では他社製品の約3分の1、エントリーレベルの製品との比較では約2分の1。しかも、他社製品には開発環境が含まれていませんが、オラクルの製品には「Oracle9i JDeveloper」が含まれています。


図3 Oracle9iAS J.E.の他社製品との比較

―アプリケーションサーバの価格破壊とも言える価格設定ですね。

山元 競合2社を追いかける立場ですから、極めて戦略的な価格設定を行いました。しかし今回市場投入した低価格のOracle9iAS Java Editionの一番の狙いは、Javaの統合開発環境が含まれているという点です。最大限、技術者がオラクルファンとして戻りやすくするための価格とファンクションだけに集約しました。

―Enterprise Edition 、Standard Editionに続くOracle9iASの3番目の製品ですが、技術者にとって魅力ある機能を最大公約数的に集めて、しかも低価格で提供開始したということですね。

山元 そうですね。導入時のハードルを低くし、できるだけ多くの方々に使っていただきたい。実はオラクルのアプリケーションサーバ製品の売上の内71%はEnterprise Editionです。つまり、大規模システム開発に活用して、それがUnbreakableな環境で本番に移行する際には、WebCacheも必要、オンライン分析を実現するビジネスインテリジェンス・ツールであるDiscovererも欲しいということで、Enterprise Editionが売れ筋になっています。そこで、できる限り入り口の敷居を低くして、普及拡大を図りたいということです。

 また、普及拡大に向けた重要施策の一つとして、パッケージソフトウェアを開発する独立系ソフトウェアベンダ(ISV)様に向けて、Oracle9iAS Java Editionの組込み開発者向けライセンス「Embedded License」の無償提供を開始しました。これは、私どもの営業支援プログラムである「OPN(Oracle Partner Network)」に登録し、Embedded特約を締結していただいたパートナー様は、ライセンスおよびサポートの費用が無償になるという特別プログラムです。

●バンドル提供プログラムと競合製品からの無償移行キャンペーン
―2 番目のアクションプランのバンドルプログラムとSwitch &Saveについては…。

山元 バンドルプログラムは、ハードウェアやOSの出荷時に、Oracle9iASを同梱するというものです。すでに日本HPが「Oracle9iASHP-UX 11i bundling program」の中で、Oracle9iASの機能限定版を、CTCがSolaris系マシン、ProLiant系マシンに試用版を、またミラクル・リナックス社がすべての出荷OSに試用版を添付することを表明しています。これによりユーザーは、Oracle9iASによる高性能なJava実行環境を体験し、納得していただいたうえで購入することが可能になります。

 また、「Switch&Save」は、競合他社製品のユーザーをターゲットにした、8月末までの期間限定の乗換えキャンペーンです。すでに競合他社製品を利用しているユーザーに対して、購入したCPUライセンスと同数のOracle9iAS Java Editionライセンスを無償で提供するというものです。移行のための技術資料もOTN(Oracle Technology Network)ですべて提供しています。

―競合製品とはBEAのWebLogicですね。

山元 当面のターゲットはそうです。強敵二人を相手に、同時に殴りかかるわけにはいきませんからね(笑い)。もう一つの競合製品をターゲットにしたキャンペーンも今後考えていきたいと思います。

●2日間のハンズオントレーニング「Oracle9i TOPGun」の無償提供
―3番目のJava技術者育成は、技術者のマインドシェア向上が狙い…。

山元 今回の戦略で一番重要なのは、Java技術者の育成です。すでにお話したように、マーケットシェア3番手ということを認識し、マーケットシェアを上げるためには技術者のファンを取り戻さなくてはいけないという謙虚な気持ちに基づき、帰ってきてもらいたい最大公約数と値段を考えたのが今回の戦略です。その具体的な取組みがOracle9iAS技術者育成セミナー「Oracle9i TOPGun」の実施と、アプリケーションサーバ技術者向けの新資格「Oracle Master Gold 9iAS」の導入です。

 Oracle9i TOPGunは、Oracle9iASとOracle9i JDeveloperに関する2日間のハンズオントレーニングを“無償”で提供しようというものです。他社製品を使って開発した経験のあるJ2EE エンジニアを我々のデータベース力をもってして探し出して、無償で教育します。すでに1,000名を超えましたが、8月までに3 ,000名を教育する方針です。またOracle Master Gold 9iASは、Oracle9iApplication Serverのインストールをはじめ、アーキテクチャ、各コンポーネントの設定方法、基本操作に関する知識を認定する格です。第1回目の試験が、5月24日に行われ、予想を上回る6割以上の合格率で、48名の方々が合格されました。

―OTN(Oracle Technology Network)Japanを開設するなど、積極的に技術者支援を行っていますね。

山元 技術者からの根強い支持を得るためにはOTN Japanのような技術者向けコミュニティサイトの運営は極めて重要です。同サイトは非常に好評で、この6月18日には、会員数20万名を突破しました。今後とも技術者支援により一層力を入れていきたいと思いますし、またそれができる会社であると自負しています。

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