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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション

これだけは知って欲しいSOA

第1回:経営とITの間に潜むねじれを解消せよ

SOA(Service Oriented Architecture)とは

(1)IT投資のジレンマ

「毎年システムには多額のお金をかけているが、本当に効果があるのか。」

「新たなサービスを出すたびに大きな改修費用がかかる。なんとかならないか。」

こうした疑問、悩みを抱える経営者は決して少なくない。企業における有効的なITの活用が必須とされる今日、その根本に関わる問いが消えないのはなぜだろうか。

IT投資の多くは、経営/オペレーション戦略に基づくシステム化のプランを策定し、設計/開発および、業務プロセスを定義・導入することで具現化される。だがシステムは当初の期待どおりにできないことが多い。システム機能の具体化は現場に委ねられるため、細かい要件を取り込みすぎたがゆえに過剰投資となったり、逆に現行業務を変えることへの抵抗感から、せっかく作ったシステムが利用されないといったことが起こる。あるいは現場主導で計画され、それが特定部門の役には立っても他部門との統一性を欠くために、経営上の新手、たとえば新サービス投入のたびに改修コストがかさむといったことが起こる。

要するに、IT化のごく初期の段階で情報システムのあるべき姿は経営層の手を離れ、当初の目的をその導入まで維持することは非常に難しい。

(2)ERPとEAI

90年代に多くの企業で導入が進んだERPは、こうした矛盾への回答として相応の効果をあげた。一企業に必要とされるシステム機能およびそれによるプロセスを、「ベストプラクティス」という名の既製品としてトップダウンに提供し、現場は必要なカスタマイズを加えて利用するという手法は、経営主導のIT化戦略として非常にわかりやすく、CRMやSCMといった他の情報化コンセプト・ソリューションとともに、企業におけるIT活用をカスタム開発からパッケージ主導へと大きく変化させた。

図1 企業システムの変遷
図1 企業システムの変遷

しかしながら、経営とITの間に潜むねじれがそれで完全に解消されたわけではなく、パッケージベースの開発においてはカスタマイズやアドオンのボリューム管理が大きなテーマとなり、その舵取りを誤ってしまう、失敗事例も少なくない。その背景には、プロジェクト管理の巧拙と別に、個々の企業の競争優位の源泉となるプロセスはそもそもパッケージ化できない(してはならない)ものであって、その部分についてはあくまで外部にアドオンするなり、現行機能を活かすなりすべきであるという判断がある。

そこで問題は、ERPやその他パッケージ、企業のコアコンピテンスを支える現行システム機能を含めて、いかにそれらを連携し、一連のプロセスとしてIT化するか、という点に移る。90年代後半に出現したEI/EAIの構想ならびにソリューションは、企業ITにおけるこの問題を解くためのひとつの鍵であった。

(3)SOAの目指すもの

こうした状況において登場したSOAは経営層から見れば、企業ITを自らへと取り戻し、再び有効な差別化のツールとする手法のひとつといえる。

SOAにおけるIT化は、情報システムを新規に開発したり改修したりするよりは、既存のリソースを組み合わせて新しいソリューションを編み出すことを目指す。たとえば新規事業を立ち上げる場合に、そのために必要となる新たな顧客対応、オーダー投入、課金決済等の業務プロセスに対して、従来のIT化とはそれらを担うひとつもしくは複数のシステムを作る(もしくは現行システムにアドオンする)ことを意味した。これに対してSOAは、既存のシステム群から必要となる機能を選び出して「サービス」化し、それを一連のプロセスに組み込んで連携させ、いわば仮想的に新システムを作り出すことを第一とする。これはEI/EAIの目指す理想でもあるが、より標準的な技術をベースとするSOAにおいて「サービス」の提供元はパッケージ、カスタム、社内外を問わず取捨選択が可能となり、そうした構成であるがゆえに将来にわたる拡張性、スピードとも高い。

SOAにより汎用化・標準化されたサービスは企業にとって再利用可能なIT資産となり、これを取捨選択し組み合わせるIT化手法は経営とIT戦略のねじれを大きく解消するであろう。

さて、どう進めるか

図2は国内企業にて「IT戦略を承認する立場」または「情報システム導入やIT化戦略を企画・検討する立場」におけるSOAの認知度を調査した結果(IDC Japan, 05/2005)である。大企業ほどSOAに対する理解度が高く、今後理解度の高まりとともにSOAに取り組む例も増えてくるであろう。

図2 SOAに対する認知度と関心
図2 SOAに対する認知度と関心

こうした状況下で、前述した経営とIT戦略のねじれを解消するためには、経営層は現場に丸投げすることなく、SOAの登場した背景、技術的特性を正しく把握し、他社との差別化へ向けたイニシアチブを取っていく必要がある。

これからSOAに本格的に取り組む場合、①社内システム機能の精査、サービス化、②それらサービスを利用しシステム横断的にシームレスな連携プロセスを確立、③プロセス上を流れるトランザクションのモニタリング基盤の確立、といった流れになると思われるが、弊社例でいうと2004年に100以上のWebサービス(①に該当)プロジェクトを手がけてきた。②の連携プロセスでは旧来のEI/EAI上で実現しているプロジェクトもあり、正確な実数は把握できないが、純粋なSOA基盤上での実現はまだ少ないのが現状である。


次回は幾つかの事例を元に、どういった課題(ビジネス上の要求)があり、それに対しどういったロードマップでSOAに取り組んでいるかをご紹介したい。

お問い合わせ先

アクセンチュア株式会社
通信・ハイテク産業本部パートナー
野本 義博
yoshihiro.nomoto@accenture.com

同シニアマネージャー
松本 晋一
shinichi.matsumoto@accenture.com

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