はじめに

秘密計算システム 算師®は、データを暗号化したまま、実用的な速度で安全に集計・統計処理できるシステムである。元データを開示せず分析結果が得られる特徴を生かすことで、複数組織のデータを統合分析する等の新たなデータ利活用ビジネスの創出が期待できる。

本稿では、連携するデータ保有者・利用目的が異なる3つの実証実験事例を紹介し、秘密計算の適用可能性について述べる。

1.同業他社データ⇒販売戦略策定

2.系列会社データ⇒セキュリティ対策

3.公的統計データ⇒統計的研究

1.複数社データに基づく戦略策定

購買履歴等、企業の蓄積データをターゲット抽出やPR施策等のビジネス戦略に生かす営みは、代表的なデータ利活用シーンのひとつである。その際、自社データのみならず同業他社のデータも活用できれば、分析の幅が広がると期待できる。以下では、札幌市が市内の企業と連携して実施したインバウンド観光に関する実証実験にて、複数企業の購買データの統合分析に秘密計算を活用した事例を紹介する。

本実証実験では、札幌市内の複数の商業施設が外国人観光客の購買情報等を持ち寄り、全体と自社の購買傾向を比較した。購買データ分析用のWebGUIを追加した算師®を札幌市のデータ活用プラットフォームと連携させ、4つの参加施設の購買データについて統合分析を実施した(図1)。

図1 複数企業の購買データの統合分析例

その結果、個社のデータだけでは気付かなかった購買傾向が明らかとなり、自社のマーケティング戦略策定や市場の発見に生かせることがわかった。また、今回は実験上の制約から、各社の購買データをある程度統計化したデータを入力としたが、実験参加施設からは、日毎/商品毎のより詳細な分析がほしい等の意見が得られた。

このような複数の同業他社がデータを持ち寄り新たな価値を創出しようとする場合、詳細度の高いデータを持ち寄った方が分析の精度は上がる。一方で、営業秘密である購買データを競合関係のデータ保有者同士が詳細な粒度で提供しあうことは難しい。元データを開示せず分析結果が得られる秘密計算の特徴は、データ提供の障壁を低減し、付加価値の高い統合分析実現の一助になると考えられる。

2.系列会社横断のデータ分析

企業が有する同種のデータを統合分析する2つ目の事例として、ある企業の系列会社が参加したセキュリティナレッジ共有の事例を紹介する。

本実証実験では、アンケート回答・分析用のWebGUIを追加した算師Rをクラウド上に構築し、参加企業14社にご利用頂いた。参加各社が自社のセキュリティ対策やインシデント等に関するデータを登録し、一定数のデータが集まってから、算師®を用いて集約・統合分析し、全体傾向のみを各社にフィードバックした。更に、各社が独自の視点で集計できる項目別集計機能も提供した。

その結果、参加各社は、通常では他社に聞くことが難しいセキュリティに関する状況や取り組み(例えば投資額や導入製品)の傾向を、互いのデータを開示することなく知ることができ、自社の最適なセキュリティ投資を検討するための判断材料として活用することができた。

このように、秘密計算による複数社の集約情報の共有は、業務の効率化や改善等、販売拡大とは異なる効果をもたらすことも期待できる。

3.公的統計調査データの利活用

利活用が期待されるデータには、国や公共団体等の行政機関が有するものもある。各府省等が実施している統計調査に関する公的統計ミクロデータ(以下、調査票情報)は、EBPMの推進への活用の他、研究者等の第三者による二次的利用も推進されている。以下では、調査票情報の二次的利用への秘密計算の適用可能性について検討・検証した事例を紹介する。

一橋大学経済研究所、総務省統計研究研修所、(独)統計センターおよびNTTは、秘密計算の利用により、安全性は確保しながらより利便性の高い調査票情報の利活用環境の実現を目指し、実証研究を行ってきた。秘密計算適用による調査票情報の利活用促進の可能性は、扱うデータやその受領形態、提供先等、様々な方向性で考えられる(図2)。例えば、研究者等がリモートサイトから調査票情報を集計・統計分析できる環境の実現(図2③)、行政記録情報や民間の情報等と調査票情報との安全な統合分析(図2④)等がその例である。

図2 政府調査の調査票情報および関連データの利活用促進の可能性

本研究ではこれまでに、公的統計分野の研究者が用いる分析手法の算師R上での実装・動作検証等の機能検証や、国勢調査の調査票情報を模したダミーデータでの作表といった実利用を想定した検証を行った。また、複数のEDINET(有価証券報告書等の電子開示システム)データを結合した統合分析も同システム上で実施した。

その結果、秘密計算を用いてデータを秘匿したまま、国勢調査のような大規模データでの作表や、複数のデータの統合分析が可能なことを実証的に示すことができた。ただし、リモートサイトからの調査票情報利用の実現に向けては、分析結果の安全性確認のしくみの確立や、法制度面の整備等の課題も並行して解決していく必要がある。

おわりに

本稿では、秘密計算技術に関する3つの実証実験事例を紹介し、各目的に即した適用の可能性とその効果について解説した。次回は一般に広く算師®を公開しご利用頂いた施策の紹介と共に、今後期待される算師の利活用方法を紹介する予定である。

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