ブロックチェーン技術に注目が集まる理由

  ブロックチェーン=仮想通貨というイメージが世の中にはまだまだ強いようだ。ひょっとしたら本稿をお読みの方の中にもそのような方がいるかもしれないが、これを読んでいただくことで認識を新たにしていただければと思う。

 ブロックチェーン技術は今から10年ほど前にビットコインという仮想通貨を実装するために生み出された技術である。だが、技術の汎用性・有用性から金融・公共・産業等各分野でのユースケースへの挑戦が行われている状況だ。2015年頃からそうした活動が顕著になり、一時期は「ブロックチェーンを使えばシステムコストが10分の1になる」というような極論まで出て、猫も杓子もブロックチェーンというようなこともあった。

 しかし、もちろん万能の技術などあり得ず、技術の相性を無視した取り組みが長続きするわけもない。ここ数年はまさに死屍累々といった状況でもあった。この状況をとらえ、ガートナー社はそのレポートの中で「ブロックチェーン技術は現在幻滅期に入った」としている(図1)。

図1 幻滅期入りしたブロックチェーン

 これは仮想通貨界隈で様々なトラブルが相次ぎ、バブルが弾けたことで技術への印象にも悪影響が出たことも一因だが、やはり数多くの実証実験の結果、技術への無責任な幻想が消えて正気を取り戻し、「では何に使える技術なのか」と改めて考え直す時期にきたということを意味していると私は考える。

 ではそれでもなおこの幻滅期を超えてブロックチェーンを使おうとする試みが続く原動力とは何なのであろうか。それはネットワークインフラがグローバルに成熟しつつあることを受けて、システムを作る考え方やさらには社会のあり方自体が変わりつつあるという、時代の背景が大きな要因になっているからであろう。

専有から共有へ

 それは一言で表現するなら「専有から共有へ」という変化である。従来の企業システム、特に基幹系システムは、極めて高い信頼性とセキュリティの壁の中に全てのアプリケーションとデータを閉じ込め、全て自前で保有・管理する「モノリシック(一枚岩)なシステム」が当たり前だった。一方現代ではAPI連携やクラウド等、システム間の有機的な連携が当たり前になり、そもそもクラウド化することで自前では持たないことも浸透してきている(図2)。

図2 専有から共有へ

 その流れの先に、データそのものも全てを専有するのではなく関係する企業と共有するという考え方が出てきている。従来もファイル転送やネットワーク上での共有フォルダといった様々なツールはあったが、原本はあくまでも各社のシステムに格納されていてその写しを相手に送り合うようなものである。当然そこにはタイムラグや齟齬の入り込む余地があり、効率の面でも課題のある状態だった。

 ブロックチェーンでは、原本が記録された台帳そのものをネットワーク上で共有することでこうした課題を一掃することを目指している。

 もちろん自分だけが管理していればよい台帳まで共有する必要はない。企業間で同期の取れていないと困る情報、共有することに意味のある情報などがその対象となる。

 例えば製品のカタログ情報や証券の銘柄情報といったリファレンス情報があげられるし、企業間の契約や取引書類といった複数の組織間で情報が一致していないと困る情報、商流や物流等トレーサビリティに関わる情報、さらにはお薬手帳や医療情報といった様々な個人情報が考えられる。

 これまでは各組織で独立して情報を管理していたので、例えば引っ越しの際には関係する企業に対して全て同じ情報を繰り返し申請する手間が必要となっていた。従来のシステムの考え方であれば、例えばワンストップで管理できるシステムを政府が整備し、中央集権的に管理するというようなやり方が検討されていた。これがすんなりと実現すればよいのだが、例えば、どのような組織がその責任を担うのかといった問題や、そうした“ワンストップ”なシステムが省庁ごとに、あるいは民間から複数出てくるといった結局元の木阿弥のような問題が起きることも想定される。「誰かが全ての情報を管理する」中央集権型の考え方では難しいシチュエーションが往々にして発生することはご理解いただけることと思う。

 よく「なぜブロックチェーンで作るのか。従来技術では作れないのか」という質問をいただく。これに対しては「技術的に可能ではあってもビジネス的、政治的に難しい局面でこそ生きる技術である」とお答えしている。例えば、国をまたいで様々な業界が連携する貿易の世界は最たるユースケースとなる。特定の企業や国家が世界の貿易情報を中央集権的に管理することは非現実的であるといえるだろう。

ブロックチェーン技術とその未来

 ブロックチェーン技術は誰か一つの組織が全ての情報を保有・管理するのではなく、複数の組織がお互いに同じ台帳を共有し、管理する仕組みである。全員が同じ台帳を共有することで相互検証を可能とし、極めて高い耐改竄性を実現している。参加者全員から見て同じように見えていることが担保されている情報共有技術なのである。このことから、分散型台帳技術(DLT : Distributed Ledger Technology)と呼ばれるようになってきている。

 こうした中央集権的なシステムとは異なるアプローチをとることでこれまでの課題を解決することが期待される技術なのである。 もちろん、まだ出たての技術ということもあって未成熟なところがあるし、非常に急激に成長を続けている分野なので変化が大きく、短期のサイクルで回るベンチャービジネスならともかく、社会インフラのようなユースケースでは長期にわたるシステムのライフサイクルを考えると導入にはまだまだ数多くの課題が残されているのが現状と言えるだろう。

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