AIを取り巻く現状

ICT業界のみならず、既に様々な業界においてAI(人工知能)が定着しつつあるが、AIという言葉の登場は意外に古く、1950年代まで遡る。その後1960年代まで続いた第一次AIブーム、1980年代から1990年代に起きた第二次AIブームを経て、現在の第三次AIブームにおいては、機械学習やディープラーニングといったキーとなるテクノロジーが実用レベルに達したこと、AIが得意な分野に特化し産業への活用に成功したことなどからブームが継続していると考えている。

ドコモにおけるAI活用

ドコモでは主にコンシューマサービスの進化がAI技術の進化を牽引してきた。2012年3月に音声エージェント機能「しゃべってコンシェル」の提供をスタート。お客様の音声による指示でサービスやスマートフォンの機能を直観的かつ直接的に利用することが出来る。この「しゃべってコンシェル」で培った技術をベースに新たなAIエージェントサービス「my daiz」の提供を2018年5月に開始した。2012年に提供を開始した「はなして翻訳」「うつして翻訳」といった翻訳系サービスもAI技術を活用したサービスの代表例である。

また、dマーケットは動画や音楽、電子書籍といった様々なコンテンツをスマートフォン向けに提供するサービスであるが、お客様が当該サービスを利用した際の情報を蓄積し、AIで分析することで、お客様がdマーケットのサイトに訪れた際に最適なコンテンツを表示するといった利便性の向上にも活用している。

図1

5G時代のAIの発展

ドコモではこれまで主に自社における新サービスの開発及びサービスの利便性向上という観点でAI技術を進化させてきたが、5G時代の到来を見据えて近年はAI技術の活用についても新たな方向性を見出している。それは外部との積極的な連携である。2017年、ドコモはAIエージェントAPIのオープン化を発表した。これは「しゃべってコンシェル」等で培った自然言語処理技術を活用した対話型エージェント機能を実現するための中核となる基盤技術である。このような中核技術をパートナーの皆様に対してオープンにすることで、ドコモ単独では開発できなかった新たな価値・サービスをパートナーの皆様と共に創り出すWin-Winのビジネス関係の構築を目指していく。特に、これからの5G時代においては、スマートフォンやタブレットだけではなく、様々なデバイスがモバイルネットワークに接続され、これまで以上にサービスとデバイスとがシームレスにつながる世界が訪れると考えている。このような世界においては、自社単独での技術開発、サービス開発に固執せず、自社の技術・サービスと他社の技術・サービスとを組み合わせて新たな価値を産み出す発想が重要となる。

dOICでの協創

2019年9月の5Gプレオープンと同時に提供を開始したドコモオープンイノベーションクラウド(以下dOIC)は伝送遅延の低減とセキュアなクラウド環境を実現するMEC(Multi-access Edge Computing)の特徴を持つが、ソリューションパートナーとの協創のプラットフォームとしての側面も持っている。dOIC上に、AIエージェント基盤や画像認識といったドコモのAI技術を搭載し、ソリューションパートナーがdOIC上でソリューション開発を行う際に、これらのドコモのAI技術を自由に利用できる環境を構築する。これによりソリューションパートナーが持つ技術やサービスと、ドコモが持つアセットとを組み合わせた新たな価値提供がよりスピーディーに行える、そんな協創の場として機能していくことを期待している。

自社内での更なるAI活用

加えて、自社内でのAIの活用による業務効率の改善にも努めてきた。ドコモ内に蓄積された顧客情報、利用情報、決済情報などをAIを用いて分析し、その結果をデジタルマーケティングに活用することで、お客様お一人おひとりに応じた商品やサービスのご提案が可能となっている。また、モバイルネットワークのオペレーション業務にAIを導入することで、ユーザ影響が出ているにも関わらずアラーム通知が行われないサイレント故障(※1)など、人手では出来ない装置故障の予兆やサービス影響の把握などが出来るようになり、保守業務の高度化を実現している。

図2

AIを活用した法人ソリューション創出

また、既に明確な課題をお持ちの法人のお客様に対して、ドコモのAIを活用したソリューションを開発し、お客様の課題を解決するという取り組みも進めている。流通・小売業界において、画像認識AIを用いて商品陳列棚の店頭陳列(棚割)をデータ化して店頭分析等を効率化する「棚SCAN−AI」や、タクシー業界において、タクシー運行データやモバイル空間統計(※2)情報、気象データなどのオープンデータをAIで分析することによりタクシーの需要予測を行う「AIタクシー」、外食産業においてモバイル空間統計や店舗ごとの売上実績データなどを用いて売上金額を予測する「リアルタイム売上予測技術」など、それぞれのお客様がお持ちの課題に対してAI技術を活用したさまざまなソリューションの創出・提供を行っている。このようなソリューション創出を行うためには、単にAI技術に関する知識を持っているだけではなく、それぞれの業界に関する深い理解が欠かせない。そのためドコモでは、AI技術を専門とする研究開発部門とお客様の課題をよく知る法人部門とで組織横断的な混成チーム「トップガン」を構成し、お客様の課題解決を図る取り組みを行っている。AI技術に詳しい技術者が自ら現場に入り、現場を理解することで業界に特化したドメイン知識を獲得し、課題に対して最適なソリューション創出を行うことが出来ると考えている。

AI人材の育成

このように価値あるソリューション創出を行うために欠かせないのが優秀なAI人材である。ドコモでは130人のデータサイエンティストを育成し、彼らが日々様々なデータを分析し、暗黙知を形式知化してインサイトを見つけ、時には現場に入って課題を理解し、データから事実を読み解くといったことを繰り返しながら新たなソリューションを創り出している。2019年、ドコモのAI技術者で構成されたチームが「KDD CUP 2019」で世界1位を受賞した。KDD CUP(Knowledge Discovery and Data mining)は世界最高峰のデータ分析協議会であり、ドコモのAI技術者が世界最高レベルの水準にあることを示した結果である。

ドコモでは引き続きAI技術を進化させていくとともに、5Gを活用したパートナーとの協創により、社会にインパクトのあるソリューションの創出及び提供を目指していく。

※1:障害検知部およびメインプロセッサ部の故障などに起因する障害が発生した場合に、通信装置自身が障害を認識できないため、故障が発生したことをオペレータが把握できない故障

※2:ドコモのモバイルネットワークの仕組みを使用して作成される人口の統計情報