現在のAIにできること/ できないことの見極め

  これまで、AI翻訳、AI画像解析、AI音声認識、AI自動応答に関する技術動向とソリューション/サービス提供事例について本レポートでお伝えしてきた。

 人間の脳の働きに似た数理モデルであるニューラルネットワークを活用して様々なデータの特徴を捉えるAI技術の進展により、現在多くの事業領域でAI関連のソリューションやサービスの活用が進んでいる。

 AI技術を実ビジネスで活用する際には、AIの分析結果や処理結果の精度が実用に足るレベルに達しているか、の見極めが必要である。汎用的な用途では精度が出ない場合でも、特定の領域に範囲を絞って利用すれば十分に実用化ができるAI技術もあり、AIにできること/できないことを見極めながら市場展開を図っていくことがビジネスの現場に求められている。

 また、AIにできること/できないことの境界線は、グローバルなAIの研究開発競争の中で日々変わっていく可能性がある。NTT Comでも、NTTの研究所で行われているAI関連の研究開発に加えて、優れたAI技術を持つ企業とのアライアンス等も通じて、AI関連のソリューションやサービスをアップデートしていく取り組みを進めている。

 以下では、AIソリューションの市場展開について、NTT Comにおける事例をもとに、個別AIソリューション提供、API等の活用によるソリューションレディ化、SaaS型サービス提供の3つのパターンでの展開状況と課題等をお伝えする。

個別AIソリューションの提供

 企業の持つ様々なデータをもとに分析や予測を行う際には、要件に応じて個別のAIアルゴリズム(ニューラルネットワークの層を重ねたDeep Learningアルゴリズムが主体)を設計し、大量のデータでチューニングする場合が多い。

 例えば、化合物を生産する化学工場で、様々な原料や、加熱温度や湿度、加熱時間といった多くのパラメータデータをインプットにして、一定時間後の生産物の品質を予測し、品質を保つための原料調整等を自動で行うようなAI導入の事例がある。 このようなAIソリューション提供はオーダーメイドの「一点もの」になることが多く、開発前にSLA的に精度の保証を行うことも困難であるため、PoCを通じて精度検証を行う進め方が一般的である。

 ソリューション案件数の拡大には、顧客の課題がAIで解けるかということを、収集・活用できるデータの内容と併せて考察し、顧客へのコンサルティングができる人材と、アルゴリズムの設計と製作を行い、そのアルゴリズムを学習データによってチューニングできるAI技術者が必要で、これらの人材の確保と育成が課題となる。

 アルゴリズムの設計やチューニングを簡易に行えるツールの開発も進んでおり、設計ツールを活用したAIソリューションの開発工程の生産性向上が期待される。

API等の活用による ソリューションレディ化

 データ分析や予測を行うAIモデルをオーダーメイドで作成する形態は、成果が確認できるまでに一定の時間がかかり、達成できる精度の予測が難しい面もあるため、既に作成済みのAIモデルを組み合わせて利用するソリューション形態が進んでいる。

 代表的な例として、Google Cloud Platform(GCP)やAmazon Web Services(AWS)、Microsoft Azure等のパブリッククラウドでは、音声認識/合成、翻訳、画像解析等の学習済みのAIモデルがAPIとして提供されており、開発者が自由にAPIを組み合わせてAIソリューションを組み上げることができる。

 オーダーメイドでAIモデルを作成する場合に比べて、用途は限定されるが、個々のAIモデルの精度があらかじめ検証されていることと、APIの組み上げは一般的なプログラミングスキルで対応が可能という大きな利点がある。

 課題としては、複数のAPIを組み合わせる際のハブとなるコントローラーのような機能の個別開発が必要な場合が多いということと、APIの組み合わせのバリエーションが多くなる中で、エンド-エンドのマネジメントサービス(正常性監視や障害時の切り分けと保守運用等)をどのように行うか、といったことが挙げられる。

 解決策としては、複数APIの組み合わせの代表的なパターンの組み上げ検証を事前に行い、そのパターンに対して保守運用を行うマネジメントサービスも確立しておいた上で、「ソリューションレディ」のパッケージとして顧客に提案・提供していく方法がある。

 NTT Comでも、コンタクトセンタ向けのソリューションレディのパッケージとして、言語解析系AIのCOTOHAシリーズの音声認識APIやAI対話機能と、Salesforce等のCRMへの接続といったコンタクトセンタに向けのAI自動応答の仕組みをソリューションレディ化する取り組みを進めている(図1)。

図1 COTOHAを活用した「ソリューションレディ」イメージ

 また、AI映像解析の個別のモデル(来客の属性分析や混雑検知、置き去り物の検知や人物の照合等)を組み合わせて、商業施設等における監視カメラ映像を活用するパッケージソリューションの提供事例もある。

SaaS型のサービス提供

 個社別のソリューション提供という形ではなく、SaaSとして定型的な形で提供するAIサービスもある。NTT Comの事例としては、世界最高精度のAI翻訳サービス(日⇔英、日⇔中)をSaaSとして提供するCOTOHA Translatorがある。申し込みをしてIDを取得すればすぐに利用できるので、販売の手離れも良く、共通のPF上で数百〜数千件というオーダーで顧客企業を増やしていけるため、単価も抑えられることが利点である。

 SaaS型サービスは、カスタマイズ無しの定型的な形で業種・業態の異なる幅広い企業の課題解決に適用できるか、というAIのバリューとユースケースの検証が重要で、NTT Comでは、AI翻訳に加えて、コンタクトセンタにおける通話録音データをテキスト化するCOTOHA Voice Insightや、AI音声認識等により会議の議事メモを自動作成するCOTOHA Meeting Assistのサービス提供を予定している。

 これらのSaaS型サービスには、ノンカスタマイズで手離れ良く導入をした後で、ユーザニーズに応じてAIモデルの個別チューニングをアップセルしていくような展開もある。

どのパターンに注力するか

 これまで述べた提供パターンは、それぞれ競争力の源泉となるものとして、AIで解ける課題のコンサル力、アルゴリズムの製作力とデータによるチューニング力、複数APIをアジャイルに組み上げるエンジニアリング力、他社と差異化できるAIサービスやAPIの開発力、といった様々なキーエレメントがある。自社がどのパターンで強みを発揮していくかの戦略設定と、それに合わせたキーエレメントの磨き上げが事業戦略として重要となる。

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