4. 5Gによる働き方改革②人型ロボットの遠隔操作
R&Dイノベーション本部長
博士(国際情報通信学) 中村 寛
様々な業界の皆様との5Gを活用した協創によるビジネス最適化、新たなサービス創造、社会課題の解決等の具体的事例の2回目として、新日鉄住金ソリューションズ様との人型ロボットの遠隔操作による働き方改革の実例を紹介する。
人型ロボットの価値
普段我々が使用している工場などの作業環境は、人に合わせた作業効率化が図られている。各種操作基盤のボタンやレバーの配置や形状、作業動線など、あらゆることは人が操作し易いように設計されている。このような現場に機械を導入するには、人型ロボットが最適な形状である。
特に、災害現場の様な危険な環境では、人の代わりにロボットを現場に投入し、現場状況確認とともにロボットを遠隔で操作して現場での作業を進めるニーズが多く存在し、現状でも多様なロボットが開発されている。
人型ロボットの遠隔操作の目的
製鉄所のような高温環境、危険性を伴う化学プラント、人の派遣に時間とコストのかかる遠隔地や僻地の現場などに人型ロボットを配置することで、人身事故の回避や、働き手不足の解消、働き方改革への寄与が期待できる。
ドコモは、人型ロボットの遠隔操作に関して、新日鉄住金ソリューションズ株式会社様(以下NS Solutions様)、と協力し、実証実験を数多く行っている。NS Solutions様は、工場内の安全や働き方改革に関する様々なソリューションを有しており、人型ロボットに関する多くの知見を有している。
そこで、高速低遅延な5Gを活用した工場内ソリューションの実証についてご興味を持って頂き、協力して機器を開発し、多くの実証デモを実施するに至った。
人型ロボットの遠隔操作に必要な技術要件
人型ロボットは工場や作業現場内を移動しながら監視や機器を操作するケースが多く想定されるため、遠隔操作するには無線通信が必須である。遠隔操作を効率的かつ実効的に実現するには、二つの技術要件が必要である。
(1) 高速無線通信
工場内のボタンやレバーなどを細やかに操作したり、刻々と状況が変化する災害現場において正確に操作するには、遠隔操作者は現場の状況を詳細に把握する必要がある。そのために、高精細な映像の遠隔伝送が必要である。また、ロボット操作には奥行きを含めた3次元の知覚が必要であり、映像も左右の目に別々の角度の映像を伝送する三次元映像が必要である。
これらの高精細映像を伝送するために、高速かつ安定的な無線通信が必要となる。
(2)低遅延無線通信
操作者が違和感なく人型ロボットを操作するためには、映像とともに人型ロボットの操作用制御信号も低遅延で伝達しなければならない。
さらに、将来的には手や指先の触覚を含めて伝送することで飛躍的に操作性が向上することが期待されている。映像の視覚に加え、触覚も用いて違和感なく操作するには、数十ミリ秒以下の往復遅延が求められる。
現在、ロボットの無線遠隔操作にはWiFiが多く用いられているが、無線干渉による品質劣化や限定的な無線エリアの制約等で、高精細映像を利用した低遅延で違和感のない遠隔操作環境を安定して実現することが困難であった。5Gは高速性と低遅延性により、人型ロボットの遠隔操作を実現する上で適した無線環境を提供できる。
人型ロボットの遠隔操作の実証実験
本年初頭より、NS Solutions様が開発した人型ロボットを5G無線伝送システムに接続し、実際に遠隔操作の実証実験を実施した。図1は人型ロボット含む実証実験の全体構成である。
人型ロボットは、モーションキャプチャ機能付きウェアラブルコントローラを装着したオペレータによって操作される。ウェアラブルコントローラは5Gの無線回線を介して人型ロボットに接続され、ロボットに装着した両眼高精細カメラの映像をオペレータのヘッドマウントディスプレイに表示し、オペレータの動作制御信号がロボットに伝えられる。
図2はオペレータに装着されたウェアラブルコントローラの複数のセンサ(オレンジ色のデバイス)である。
図3はロボットに装着された両眼の高精細カメラと、操作者がその映像を3次元映像として見るためのヘッドマウントディスプレイである。
実証実験では、有害なガスが発生した化学プラントの事故現場を想定し、遠隔オペレーションルームにいるオペレータが人型ロボットを5Gを介して遠隔操作し、ガスを止めるシーンを再現した(図4)。
本実証実験を通じて、多くの方々に5Gを活用した人型ロボットの遠隔操作の有効性と実現性をアピールすることができた。
また、本人型ロボットを用いた別の実証実験として、今年2月にバルセロナで開催されたMobile World Congress(MWC)において、「書道パフォーマンス」を行った。海外の方々には、人型ロボットが筆と墨を使って文字を書くデモンストレーションは大いに受け、非常に多くの見学者を集めた(図5)。
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