3. 屋内でも快適ナビを実現する位置情報取得技術
技術革新統括本部
企画部長 藤原 慎
GPS(Global Positioning System)を利用した地図ナビゲーションは、スマートフォンでとても便利な機能のひとつ。ところが電波が届かない屋内では別の方法で自分の位置を把握できなければ地図ナビゲーションも役に立たない。第3回目の今回は「屋内でのナビゲーション」をテーマにしてみよう。
2010年から打ち上げがスタートした準天頂衛星みちびきが本格運用期を迎えるなど、衛星からの電波により数10cm程度の誤差で位置を特定できる仕組み作りが進んでおり、それに対応した機器も徐々に登場してきている。
マスメディアでも高い精度での位置情報を使ったサービスが紹介されている。例えば、観光地での観光客向けの案内サービス、街中での個々人の好みに合わせたお店からのクーポン提供、AR(Augmented Reality:拡張現実)と組み合わせて好みのキャラクターと一緒に旅行先で記念写真が撮れるサービスなど、いろいろと楽しげなサービスが提案・実験・実用化されているのを目にされた方も多いだろう。
カーナビやスマートフォンの位置測位の精度はますます高まっていくのだが、衛星からの電波が届かない屋内、地下街などはどのような状況なのだろうか。
屋内測位技術あれこれ
屋内で位置特定するための技術は「屋内測位技術」と呼ばれているが、従前から様々な方法が提案されてきている。以下、主だったものの特徴を挙げてみよう。
(1)WiFiを利用した方法
いまは家庭でもWiFiを利用している人が多いが、複数のWiFiアクセスポイントを設置し、GPS等での位置検知と同じ三点測位により、現在の自己位置を把握する方法。WiFiアクセスポイントは既設のものも利用できることから追加設備費用を抑制できる。
(2)ビーコンを利用した方法
マウスやスマートフォンで一般的になっているBluetooth電波を発するBluetooth Low Energy仕様のBLEビーコンを設置し、前出同様の三点測位等により、現在の自己位置を把握する方法。BLEビーコンについては、2018年2月22日に国土地理院から「屋内測位のためのBLEビーコン設置に関するガイドライン」が公開されている[1]。
(3)歩行者自律航法を利用した方法
2010年頃からスマートフォンにジャイロセンサが搭載されたことにより、加速度センサから得られる情報と合わせて移動の向きや移動距離を計算して現在自己位置を把握する歩行者自律航法(PDR:Pedestrian Dead Reckoning)が身近なものになってきた。相対的な位置を把握する技術であるため、スタート地点を把握する方法と組み合わせることと、センサ蓄積誤差を補正することが必要になる。
(4)画像認識を利用した方法
屋内を撮影した参照用画像をあらかじめ用意しておき、カメラで撮影した画像と比較することにより、撮影箇所(=現在自己位置)を把握するもの。他の技術に比して画像を取り扱うことからサーバーでの計算量が大きい。
(5)IMESを利用した方法
GPSでは、GPS衛星から時刻を知らせる無線信号が送信されており、受信機がその無線信号を受信した時刻との差を計算することにより、複数のGPS衛星との距離を把握する。その情報を基に地球上での位置を把握している。
IMES(Indoor Messaging System)は、GPS衛星と同じ電波形式を用いたGPS送信機を屋内に設置し、複数のIMES送信機からは時刻情報ではなく送信機の位置情報を送信する。この複数送信機からの信号を読み取って現在自己位置把握を行う。
(6)超音波を利用した方法
人間が聞こえる音は20Hzから20KHzと云われており、これを可聴域と呼ぶが、可聴域外の音である超音波を発するスピーカーやビーコンを屋内に複数設置し、スマートフォン等のマイクで集音することにより、現在自己位置を把握する方法。
(7)地磁気を利用した方法
屋内では建物の鉄骨等構造物の影響で異なる磁気パターンが発生することから、事前に磁気パターンを測定・記録した磁気データベースとスマートフォン等の地磁気センサから得られる情報を突き合わせて現在自己位置を把握する方法。
様々なトライアル
現時点では、前出の各方法ごとに精度、コスト、導入・維持管理などについて長所・短所があり、ひとつの方法が飛び抜けてどのようなニーズに対しても対応できるわけではない。状況に応じて適切な方法を選択・組み合わせて適用していくことが望ましい状況となっているが、利用者のニーズにより応えられるものにするため、日々改善が進められている。
2018年に入ってからも、屋内測位に関連した様々なトライアルが実施されている。
2018年1月には、国土交通省が進める「高精度測位社会プロジェクト」の一環として、新横浜駅から日産スタジアムまでの間で、屋内外のシームレスなナビゲーションをするほか、高齢者や障がい者でも目的地に円滑に移動できるよう段差回避ルートをナビゲーションする実証実験を実施している[2]。
NTTデータでの取組み
NTTデータでは様々な屋内測位技術の中でも、地磁気を利用したものに着目し活用技術の熟成を図ってきている(図1)。
NTT研究所の地図関連技術、NTTデータイタリアが協業するGiPStech社[3]の地磁気を用いた屋内測位技術、NTTデータの実際の利用ニーズに合わせた先進技術活用力とサービス提供力を組み合わせ、新たな高精度屋内位置情報サービスの提供を開始している[4]。
今後に向けての期待
場所に合わせたサービスは、きめ細やかな“おもてなし”には必要不可欠なものだ。
屋内測位技術は着実に改善されてきており、今後屋内施設で訪日外国人や高齢者・障がい者のみならず、幅広いユーザーのニーズに応えられるサービスが生み出されていくことを期待したいし、我々技術者としてもその取り組みにより一層貢献していきたいと思う。
[1] 国土交通省国土地理院第9回位置情報基盤WG
http://www.gsi.go.jp/common/000198739.pdf
http://www.gsi.go.jp/sokuchikijun/ichikiban WG_9.html
[2] http://www.mlit.go.jp/common/001219507.pdf
[3] http://www.gipstech.com/
[4] 地磁気を用いた高精度屋内位置情報サービスを提供開始(2018年5月1日、NTTデータ)
http://www.nttdata.com/jp/ja/news/services_info/2018/2018050101.html
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