特集 世界をリードするNTTが考えるIOWN1 総論

IOWN構想とその実現に向けたIOWN Global Forumの取り組み

NTTは、私たちが直面する社会課題を解決するIOWN構想を提唱すると共に、様々なパートナーと連携してその実現に向けて取り組むIOWN Global Forumを設立しました。IOWNという新しいコミュニケーションインフラによってアフターコロナ・ウィズコロナの社会に貢献していきます。

日本電信電話株式会社

常務執行役員 研究企画部門長 川添 雄彦

新型コロナウイルス(COVID-19)感染症によりお亡くなりになられた方々に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、同感染症に罹患された方々の一日も早いご快復をお祈り申し上げます。また、医療現場の方々をはじめ、治療や感染拡大防止にご尽力されている皆様に深く感謝申し上げます。

此度のパンデミック環境下では、リモートワークやオンラインマーケットの拡大など、新たな生活様式、社会活動をICTは様々な側面から支えています。今後も公共衛生や環境問題をはじめとした社会問題の解決に向けて、ICTは人類にとっての強力なパートナーとなりえると考えています。Innovative Optical and Wireless Network (IOWN)は、そのような社会問題の解決に対して、大きな貢献ができると信じています。

IOWN構想が求められる社会的背景

現在のコミュニケーション/コンピューティングインフラはデジタル技術に依拠しています。インフラの恩恵を世界あまねく・迅速に行き渡らせるために、人間の認識能力に応じたサンプリングをし、パケットに細分化して送り届け、情報処理を行う仕組みはとても効率的です。一方で、様々な価値観を持つ人々が尊重しあって共存する世界、IoTなどのデバイス同士が連携して高速にきめ細やかな情報処理をする新たな世界が見えてきています。そのような世界を支えるコミュニケーションインフラは、様々な価値観に適合可能なコミュニケーション/コンピューティング能力を提供すべきであると共に、場合によっては人間の能力を超えるような処理をも支えなくてはなりません。私たちは、このような技術で実現した結果を人間がストレスを感じることなく自然に享受できる心地よい状態を「ナチュラル」と呼び、「デジタルからナチュラルへ」というパラダイム変換が必要であると考えました。

このような世界では、コミュニケーションインフラが取り扱う情報量は指数的に増加します。世界全体のデータ量が2010年からの15年間で90倍に増加するという推計もあります(図1)。また、IoTの普及などに伴うネットワーク接続デバイスの爆発的増加は、ネットワークの負荷を高めるだけでなく、エネルギー消費の面でも大きな懸念になっています(図1)。そこで私たちは、チップの中の情報伝送まで光を活用することや、光を情報処理に直接利用する光トランジスターの技術など、様々なところに光の技術を導入することで、電力消費量や取り扱い情報量の急激な増加といった課題を解決することを考えました。私たちはこれを、「エレクトロニクスからフォトニクスへ」と呼んでいます[1]

図1 データ量の増加と電力消費量の増加

IOWN構想とは

私たちは、これら2つの考え方を元にIOWN構想を発表しました。これは、革新的な技術によりこれまでのインフラの限界を超え、あらゆる情報をもとに個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会を創るため、光を中心とした革新的技術を活用した高速大容量通信、膨大な計算リソースなどを提供可能なコミュニケーションインフラの構想です。IOWN構想では3つの技術的要素がカギになると考えています。ネットワークから端末まで、すべてにフォトニクス(光)ベースの技術を導入した「オールフォトニクス・ネットワーク」、実世界とデジタル世界の掛け合わせによる未来予測等を実現する「デジタルツインコンピューティング」、あらゆるものをつなぎ、その制御を実現する「コグニティブ・ファウンデーション」から成り立ちます(図2)。

図2 IOWN構想の構成イメージ

IOWN Global Forumの設立

IOWN構想は非常に意欲的な内容です。その実現に当たっては様々なブレークスルーが必要となり、幅広い研究・技術分野の専門家やグローバルパートナーとの連携が必須と考えました。そこでNTTは、IOWN構想に賛同してくれたインテル、ソニーと共に、IOWN構想の実現と普及を様々な分野のパートナーと一緒に目指す団体として、IOWN Global Forum(IOWN GF)を立ち上げることにしました。設立に向けた検討を開始したことを2019年10月には公表[2]して組織構成や細則、IPRポリシーなどの詳細を詰めていき、2020年1月に米国の法人として設立を行いました[3]

IOWN Global Forumの活動

IOWN GFは、2020年3月に正式にメンバーの募集を開始しました。様々な業界から意欲的な参加申し込みを頂いています。Dell TechnologiesやMicrosoft CorporationのようなIT業界からの参画や、中華電信のような電気通信業界からの参画だけでなく、トヨタ自動車のようなIOWNを積極的に活用する業界からの参画も増えてきています。そこで、IOWN GFでは、発起人3社に加え、Dell Technologies、Microsoft Corporation、中華電信の3社を新たにBoard of Directors(BoD)に指名し、新しい体制での活動をスタートしました[4]

2020年4月には、今後の活動の方向性を示すホワイトペーパーを公表してワーキンググループ(WG)のキックオフを実施するなど、具体的な活動を開始しました。2020年7月からは、メンバーから提案された内容を元に、WGで検討するワークアイテムを選定して活発な議論が始まっています。

私(川添)もPresident and Chair personとして、IOWN GFの運営に貢献しています。パンデミックの環境下ということでBoDをはじめとしたメンバーの皆様と直接会って議論する場を設けることができず、もどかしく感じることもありました。しかし活動を開始してみると、電話会議やWeb会議を活用して活発な議論・運営を行うことができています。ここにも、アフターコロナ・ウィズコロナの社会におけるITの貢献、すなわちIOWN構想の可能性を見出すことができます。

今後の展開

様々なパートナーと連携しながら具体的な成果を定期的に出し、IOWN構想が示す新しいコミュニケーションインフラの実現に向けて取り組むことで、アフターコロナ・ウィズコロナの社会に貢献していきます。

<参考資料>

[1] 澤田純[監修]、井伊基之+川添雄彦[著]、IOWN構想 インターネットの先へ、NTT出版

[2] NTT持株会社ニュースリリース「NTT、インテル、ソニーがコミュニケーションの未来をめざして国際的なフォーラム「IOWN Global Forum」を設立」(2019/10/31)

[3] IOWN Global Forum [オンライン] Available: https://iowngf.org/

[4] IOWN Global Forumニュースリリース「IOWN GF Elects Directors from Chunghwa Telecom, Dell Technologies and Microsoft to Board」(2020/6/17)