特集 世界をリードするNTTが考えるIOWN

3 IOWNへの期待とわが社の取り組み PartⅠ (2020年8月号)

NECの考えるDigital Inclusionな社会の実現とIOWN構想への取り組み

日本電気株式会社(以下、NEC)はデジタル技術が浸透した社会において様々な社会価値を創りだすプロセスを提供すべく研究開発を進めており、この成果はIOWN構想の実現に大きく貢献できると考えています。今回は代表的な取り組みについてご紹介します。

日本電気株式会社

IOWN推進室 室長 塚越 努

NECの考える将来社会

「人」と「社会」の変化に対応するために、今まで以上にデジタルのチカラが求められています。NECは、デジタル技術が隅々まで浸透した社会を“Digital Inclusion” と捉えています。Digital inclusionの「社会」の観点からは、実世界を「見える化/分析/対処」することで様々な無駄を省くことなどを通じ、社会のあらゆるものを高度化させます。「人」の観点からは、性別・年齢・人種・障害の有無などに関係なく全ての人がデジタルのチカラによって、個々人が保有する多様な能力が発揮できると共にそれを活かせる機会や場が得られるようになります。これがNECの考える未来社会です。

IOWN構想について

IOWN構想を形作るAPN(オールフォトニクス・ネットワーク)・DTC(デジタルツインコンピューティング)・CF(コグニティブ・ファンデーション)は、NECが考える未来社会およびそれを支えるための社会価値創造プロセスと非常に多くの共通点がありこれからの社会で必要不可欠だと考えています。DTCによって現実世界の「見える化/分析/対処」がサイバー空間で高度に実現され、それを支える通信インフラには大容量・低遅延・高信頼を実現できるAPNが重要なカギになると理解します。より複雑になるシステムを制御するためには高度な運用管理・自動化が欠かせないものでありCFがそれを解決すると期待できます。

図1

NECのDigital Inclusion/社会価値創造プロセスに関連する技術を、IOWN構想と対応させて図1に示します。DTCには、現実世界を認識・分析する各種AIと、現実世界からの情報収集およびサイバー空間からのフィードバックを実現するデバイス、両者を柔軟で安心につなぐデジタルデータ流通サービスが対応します。APNには、光通信技術、次世代無線技術といったネットワーク技術や、量子コンピュータなどIT技術が対応します。CFにはオーケストレーションや、すべてのレイヤーに関連するセキュリティーが対応します。NECはITとネットワーク、ソフトウェアとハードウェアを共に提供できるメーカーとして、ネットワーク技術、デジタルツイン技術、オーケストレーションやAIを通じて、IOWN構想の実現に貢献します。以下、NECの代表的な取り組みを3つご紹介します。

次世代光ネットワーク

NECは超省電力で大容量低遅延な次世代ネットワークを実現するため光ネットワーク技術の高度化を推進し、超分散コンピューティング、光メッシュネットワーク化を推進していきます。陸上ネットワークのみならず、大陸間を結ぶ海底ケーブルネットワークの大容量化、高機能化を推進し、さらに衛星通信にも技術を発展させ、高度なグローバルネットワークの構築を目指していきます。

大容量化に向けて、次世代DSP(Digital Signal Processor)、次世代空間多重や海底中継器の高効率化など多方面の向上により、ペタビット級光伝送を実現していきます。これまでNTTとNECは共にDSPの共同開発を行ってきました。今後、NTTの保有する先端的光技術とNECの保有する長距離大容量光システム技術を組み合わせることで、テラビット級の次世代DSPの開発を進めていきます。

また、光ネットワークのグローバル化や光メッシュネットワーク化に向けて、波長多重・波長変換の向上によるCDC(Colorless Directionless Contentionless)機能の高度化によりスケーラビリティのある波長制御を提供するとともに、海底分岐装置への光ルーティング技術の適用により、グローバルネットワークでの耐障害性向上や回線需要変動への柔軟性向上も図っていきます。そして高度な光伝送を支える物理ネットワークに対して、シリコンフォトニクス技術を中心とした光トランシーバの高集積化も進めていきます。省電力化、高速化、小型化により、次世代光ネットワークの実現を後押ししていきます。

次世代無線アクセス

IOWN構想が必要とする大容量・低遅延な通信のために、無線ネットワークの大容量化が必須であり、100GHz以上の高周波・ミリ波帯の活用に取り組んでいます。ミリ波帯を用いるためには、広帯域、高効率、低位相雑音、低損失なデバイスの開発及び実装技術の開発が必要です。 実現に向けた課題としては、デバイスの動作帯域幅及び電力効率の向上、位相雑音増加/Noise Figure上昇への対策があります。NECは150GHz帯送受信モジュールの試作など研究開発を進めています。 100GHz以上のミリ波帯はLOS(Line Of Sight)環境で使用されることが前提となりmMIMO(Massive Multiple Input Multiple Output)による高い空間多重の実現が困難であると考えています。そこで更なる周波数利用効率向上/空間多重技術として、OAM(Orbital Angular Momentum)、軌道角運動量による空間多重技術の研究開発を行っています。写真1は試作した150GHz帯のOAMモード多重無線伝送用アレーアンテナで、これを対向させて、16空間多重、14.8Gbpsの大容量伝送を実現しました。100Gbps級の広帯域実現を目指します。

写真1

デジタルツインとデータ流通

デジタルツインの実現にはヒト・モノを高精度に認証し、実世界における様々なデータを収集し、サイバー上で適切に連携させることが重要です。ヒトに関して、NECでは世界No.1*の顔認証をはじめとする生体認証技術を活用した共通IDにより、様々な事業者が個人にあわせてきめ細やかなサービスをリアルタイムに提供する“NEC I:Delight”を推進しています。また、ヒアラブルデバイスを活用すると耳音響認証技術と組み合わせた本人確認が可能であり、9軸センサーや騒音環境下でのクリアな音声コミュニケーションによりヒトのリアルタイムな状況に合わせた臨場感のあるサービス(音響AR等)が可能です。ヒトに関するセンシティブなデータは個人の同意を基に安心してつなぐことが重要であり、NECは「パーソナルデータ流通サービス」を提供しています。モノに関して、NECは光ファイバを活用した最大100km以上にわたって約50cmごとの振動・温度・音などをリアルタイムに検知する技術を有しています。AIを活用することで膨大なセンシングデータから価値や意味を見い出すことが可能です。このようなリアルタイムかつ大量のデータを「デジタルデータ流通サービス」によりデータ権限管理しながら異業種のデータをイベントドリブンで繋げデータを効率的に流通させます。

今後の抱負

NECは2020年6月25日にNTTとの間で革新的光・無線技術を活用したICT製品の共同研究開発に関する提携を発表しました。今後、IOWN構想の実現と日本の産業競争力強化および通信インフラの安全性・信頼性の確保に向けて一層貢献していきます。

*2019年、米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証技術の性能評価で5回目の第1位を獲得

 

連絡先

ネットワークサービス企画本部 contact@nwsbu.jp.nec.com