特集 世界をリードするNTTが考えるIOWN3 IOWNへの期待とわが社の取り組み PartⅠ (2020年8月号)

NTTテクノクロスのIOWN推進の取り組み

当社はNTT研究所の先端技術をコアテクノロジーとして、「AI、Cloud、Security、Communication、Media」の5つの領域の技術力を武器にIOWNの推進に貢献していきます。本稿では、特に当社のビジネスドメインに近いDigital Twin Computing(DTC)の技術要素の実現を目指す当社の取り組みについて紹介します。

NTTテクノクロス株式会社

取締役 IOWN推進室長 角 隆一

IOWN推進における当社の役割

2019年5月にNTTからIOWN構想の発表がありました。当社もIOWNを構成するAll-Photonics Network(APN)、 Cognitive Foundation(CF)、Digital Twin Computing(DTC)の技術要素に関わる技術開発を行っていたことから、NTTグループの一員としてIOWN構想の実現に貢献したいと考え、2020年3月にIOWN推進室を発足させました。

近年のAIの発展とともに、お客様のサービスに対する価値観も「便利さ」や「効率性」から「体験」に進化してきました。IOWN構想が実現される2030年の未来、お客様の求める価値観も進化すると予測します。当社は、IOWNのサービスはお客様に「体験の先にある新しい価値」を提供すると考えます。例えば、サービスデザインやリビングラボなどさまざまな人を巻き込んだ創発的な活動を通じて「新しい社会課題の発見」と「問題解決のヒント」を得てきました。この知見を活用し、IOWN構想に対し、まだ見ぬ「新しい価値」を創出し、その体現に取り組む考えです。

当社はNTT研究所の最先端技術の成果をコアテクノロジーとしてAIの活用を推進するAI FIRSTの取り組みを進めてきました。IOWNの技術要素のCFおよびDTCは、AI FIRSTで培った技術が活かせる領域と位置づけられます。そこで当社は、特にDTCの技術開発においてNTTグループの中で中心的な役割を果たすことを目標として活動を進めます。

DTCを支える技術

実世界の要素(ヒト、モノ、環境)をサイバー空間で表現するデジタルツイン(DT)に対し、交換・融合・複製・合成などの演算により新しい価値を見出すことがDTCの目指す世界だとすると、DTCの実現には各要素のDT化が欠かせません。図1はDTCのWhitePaperを参考に、サイバー空間におけるDT間のインタラクションの様子を記したものです。本稿では、ヒトのDTの構築に活用が期待される当社の技術を紹介します。

図1 サイバー空間におけるデジタルツインのインタラクション

(1)メディア処理技術

まず当社が得意とする音声データの処理技術について紹介します。ヒトの発話音声を理解するのが音声認識技術です。当社は、NTT研究所の技術を基に多様な環境下で利用可能な高精度音声認識システム「SpeechRec」を製品として提供し、昨今では発話内容を認識してテキストデータ化するだけではなく、声から感情を推定するレベルへの発展を見せています。

一方、与えられたテキストから発話音声を生成するのが音声合成技術です。当社は音声合成ソフトウェア「FutureVoice Crayon」を提供していますが、その新バージョンではNTT研究所の技術を活用することで、発話者の感情を表現する技術を実現しています。

ヒトとシステムのインタラクションにICT技術が深く関わる例として、IVR(音声応答自動振分:Interactive Voice Response)を紹介します。皆さんはコールセンタに電話で問い合せた経験をお持ちと思います。電話先では目的に応じた数字を選び、適切な問い合せ先に振分ける仕組みがよく使用されています。当社が新しく開発したIVRシステムは、お客様に数字を選んでいただくのではなく、お客様の発話内容を音声認識することで、適切な問い合せ先への振分けを実現します。IVRには最新の音声認識技術や音声合成技術が利用されています。IVRがお客様の用件や感情を理解し人間らしい対応ができるレベルに至れば、IVRはヒトのDTと位置付けられDT間のインタラクションの世界が広がります。

(2)データ分析技術

最新のメディア処理技術は、物事を表面的に理解するだけでなく内面的にも理解する方向に発展し、感情理解・表現の分野に広がり始めました。このメディア処理技術の発展をデータ分析技術が支えています。

ヒトのDTを構築するためには表に見える情報だけでなく、さまざまなセンシング情報を活用し、精度向上を目指す必要があります。それには、センシングデータの分析技術が重要になります。当社は牛の行動モニタリングシステム「U-motion」や、AIを用いた映像分析技術により人物検知や追跡を可能とする映像解析ソリューションを通してデータ分析力を高めてきました。

ヒトのDTと関連する分野に生体データ分析があります。東レ株式会社とNTT研究所が共同開発した機能性素材「hitoe®」を活用して取得した生体データの分析に取り組むことで、当社は、

  • 運動中の生体信号を取得するためのノイズ除去技術
  • 高精度なR波検出や筋活動評価を目的とした波形解析技術
  • さまざまな生体情報評価のための時系列データ分析技術

など、実環境で生体データを取得・分析する技術を蓄積してきました。これらの技術は、今後のDT間のインタラクションの実現に役立ちます。

(3)セキュリティ技術

ヒトのDTを構築し、ヒト同士、あるいはモノや環境とのインタラクションを実践する場において、DT構築の元となったパーソナルデータの扱いは非常にセンシティブな課題です。ヒトのDTを安全に活用するには、DT自体のデータの安全性を担保するだけでなく、DT構築の元となった個人情報を守るプライバシー保護技術が必要です。

当社は、2017年の改正個人情報保護法の施行に対応し、匿名化による個人情報活用を可能にするため、個人情報の利活用とプライバシー保護を両立させる匿名加工情報作成ソフトウェア「tasokarena」を製品化しました。9月に販売開始予定の新バージョンでは、AIによるデータ加工ルールの生成支援機能や情報共有時の安全性を高めるマスキングツールを提供します(図2)。これらはプライバシー保護が重要になる医療やヘルスケア向けの匿名加工を念頭に強化した機能です。この技術を高度化し、ヒトのDT構築や、DT間の交換・融合・複製・合成などの演算で新たな価値を創出するDTCの実現に貢献したいと考えています。

図2 匿名加工技術により個人情報の利活用を可能にするtasokarena

IOWN構想の実現に向けて

これらの技術には、IOWN構想が発表される前から技術開発に取り組み、ソリューションとして既に提供しているものもあります。

IOWN構想の実現に向けては、NTT研究所の関連技術を実用に結び付ける活動と、当社の現行ビジネスを更に発展させる活動との両輪で推進する必要があります。IOWNの中でもDTCは非常に広範囲に適用可能な技術領域ですので、その時々の技術をソリューションとして提供することで、IOWN構想の過程において生み出された最先端の技術を、ビジネスに活かす役割を果たしていきます。

連絡先

IOWN推進室 https://www.ntt-tx.co.jp/contact/sales.html