阪大・NTT・富山大学の研究グループらが、「全光」で量子中継の原理検証実験に成功

「量子インターネット」実現への第一歩

NTT 2019年1月25日

大阪大学とNTT、富山大学の研究チームが、カナダ・トロント大学と協力し、地球規模の量子ネットワークを光デバイスだけで実現する全光量子中継方式を採用し、量子中継の原理検証実験(図1)に成功した。

図1 全光量子中継の実験装置

「全光量子ネットワーク」は、現在の光ファイバネットワークの中継器を、全光量子中継器に切り替えることで実現可能で、その結果実現される「量子インターネット」は、現在のインターネットの粋を超える全く新しい数多くの応用を持つ。

この全光量子中継は、量子力学特有の性質である「量子もつれ」によって初めて可能となる「時間反転」という、全く新しい原理に基づいていたため、この原理を実証することが、全光量子中継実現の要であり、量子インターネット実現の最初の大きな一歩とされていたが、今回、世界で初めて「時間反転」の実証に成功した。

一般的に量子中継器の主な役割は、「適応ベル測定」と呼ばれる特殊な測定を実施することにある。従来の量子中継は、この測定を物質量子メモリを利用することで実装するが、全光量子中継はその測定を、グラフ状態という特殊な量子もつれによって可能な「時間反転」を利用することで実装する(図2)。

図2 全光量子中継の概念図

このような全光量子中継器は送受信者の中間に置かれ、送受信者と光ファイバで結ばれる。もし送受信者が、例えば全光量子中継器一つを使って、量子通信のリソースである量子もつれを共有することで量子通信を実行するのであれば、送受信者は自分の場所で、量子もつれ状態にある光子を含む光パルスを複数用意し、それらを光ファイバを通じて全光量子中継器に送る。それらの光パルスを受け取った中継器は、グラフ状態にある光子を準備し、それを受け取った光パルスと干渉させ、光子検出器で測定することで「時間反転型」適応ベル測定を実装する。この測定は、光ファイバの伝送損失によって失われてしまった光子の影響を一切受けずに、伝送損失に打ち勝った光子に対してのみにベル測定を施すものだ(図3)。

図3 今回の実験概要.生存した光子の量子状態が3光子グラフ状態の残りの光子に量子テレポーテーションされる。これにより損失耐性付量子テレポーテーションが実現する。

したがって、もしこの測定が実現できていれば、送信者が送った光パルスのうち、光ファイバの伝送損失に打ち勝った光子を含む光パルスの量子情報だけが、損失により光子を失った他の光パルスの影響を受けずに、忠実に受信者に転送されるはずということになる。研究グループは、実験室で3光子のグラフ状態を同時発生し、この損失耐性付量子テレポーテーションを実現したことで、史上初めて、量子中継器の主要役割である適応ベル測定の原理検証を成功させるとともに、全光量子中継の「時間反転」の原理の確認に成功した。

研究グループは、今回、全光量子中継方式を採用することで、史上初めて、量子中継の原理検証実験に成功したとしている。これは、光デバイスだけで構成され、低消費電力、高速、セキュアな地球規模の全光量子ネットワークの実現は机上の空論ではなく、量子インターネット実現の大きな第一歩だとしている。

詳細はNTTによるニュースリリースを参照

http://www.ntt.co.jp/news2019/1901/190125a.html