データからお客様により近づく時代に

お客様の心に響くアクションを打つためには、お客様のことをより深く知る努力が必要である。ITの進展でデータからお客様のお好みや、行動の特性などに近づくことも可能になってきた。デジタルの時代、この可能性はさらに広がっていくだろう。筆者が機械学習を活用して「〇〇しそうな人」を見つけ出す「予兆モデル」に取り組んだのはiモードリリース前の1998年、「データマイニング」という言葉が出始めた頃だ。解約しそうな人を見つけ出す「解約予兆モデル」を作成、DM施策を展開し解約抑止効果を得た。当時は、かかる手間に対して成果が出るなら使えばいい、程度に考えていたが、特にここ10年程でデータの量・種類、そしてITの処理性能、分析技術、かかるコスト、どれをとっても飛躍的に進化した。AIを有効活用しないのはもったいない時代となり、当社でも今や予兆モデルの活用は当たり前になってきている。しかし、その浸透には時間がかかった。

新しいことに対する不安が浸透を阻む

AIを活用した予兆モデル、と聞いただけで、「なんだか難しそう」と不安に感じられる方は多いだろう。新しいものへの挑戦には勇気がいる。

また、AIが選び出した高解約予兆者が「なぜ選ばれた」のか、ブラックボックスでわからないため、施策を具体的に検討しにくいという問題も大きい。それならば、比較的解約が高めな例えば「若年層」をターゲットにし、若者に受けそうな施策を考えよう、となるのも頷ける。

 

「よくわからない」新しいことの浸透には、まず明確な成果を積み重ねることが大事だ。適切に検証するために施策実施の折には一部施策実施をしないコントロール層を残し、施策実施層との比較検証を行い、予兆モデル活用の成果を可視化した。しかしそれでも予兆モデルの成果に対する疑問を払拭しきれなかった理由には、各施策主管で実施されている施策検証そのものの目線が合っていなかったことがある。

高度な技術技術を生かすにはまず適切な検証から

各施策主管での検証をより適切に行うと共に、お客様がそれぞれどのような施策に反応されたかを蓄積し次の施策に生かすために構築したのが施策反応DBである(図1)。

図1

ビジネス主管が「誰にどんな施策を打つか」を、このDB主管の分析支援担当に登録依頼するだけ、あとは自席PCから施策結果が日々確認できる仕組みだ。支援担当は適切な検証ためのコントロール層設定も担う。従来施策毎に各部が担っていた検証稼働がなくなるため、一度活用されると必ずリピートされた。活用と共に徐々に検証の目線が揃い、蓄積された施策結果の比較可視化で予兆モデル活用の効果が明らかになった(図2)。現在はビジネス課題から想定される約500の予兆モデルを作成、精度チェック含め予兆スコア計算を毎月自動化し、施策等に活用している(図3)。

図2
図3

気を付けたいのは、予兆モデルでターゲティングと提案内容の精度を上げても、お客様接点でのUXが悪ければ良い結果は生まれないことだ。20年前の解約抑止DMの成果が急転した時、iモード導入でモデルが変わったのではと筆者自身もまず疑った。が、精度に変わりなく、施策内容が受容されなくなったのだ。予兆モデルが広がりにくい理由はここにもあった。この反省の下、施策反応DBでは、施策内容と反応結果に合わせて、施策のビジュアルも蓄積した。同じ予兆モデルを使った施策でもビジュアルによる効果の良否を把握することで、次へのノウハウとして活用している。

広がるコミュニケーションの可能性とプライバシーへの配慮

お客様お一人おひとりに応じたご提案を、タイムリーかつ継続的に展開する上でMAの技術は可能性を広げる。当社ではお客様の状況に応じて、いつ、どのメディアで、何をご提案するかの出し分けを自動化するMA基盤を2019年7月運用開始した。予兆スコアなどデータから得られたお客様の今にぴったりなご提案の展開と共に、季節の気分なども踏まえてマーケターが考えた新しいご提案を継続的にお届けしたい。進化するAI・MAの活用によりTry&Errorを繰り返しながら、お客様によりたくさんのHAPPYをお届けできればと願う。

図4

データ活用で豊かな暮らしに貢献するためにも、当社は2018年5月に会員基盤を軸とした事業へ転換し従来の取り組みを明文化した「パーソナルデータ憲章」を制定した(図4)。法令遵守はもちろんのこと、お客様のご不安やお気持ちに配慮した活用となっているかを確認する仕組み(PIA : Privacy Impact Assessment)を運用している。12月にはデータ活用の透明性を高めることを目的としたWebコンテンツを提供予定であり、より良いサービスに向けたデータ活用をお客様にご理解いたけるように努力を続けていく。

軽やかにAIを使いこなし、HAPPYな未来を拓こう

AIは人間のように疲れることも、うっかり間違うこともなく、過去の莫大なデータを学習して迅速に最適解を選び出す力は抜群だ。しかし、AIに解く問題を与えるのは人間である。ロジックがブラックボックスだから不安だ、などと言わず、解きたい問題があるならば気軽にトライしたい。AIにできることは任せ、人間はお客様に新しい驚き、感動をお届けしたり、想像できなかったハプニング対応のためにもっと力を注ぐことができるだろう。お客様に喜んでいただきたい、社会貢献しうるデータ活用をしたいという人の情熱、意志、感性をフルに巡らせながら、軽やかにデジタルのチカラを活用して、社会全体でHAPPYな未来を拓いていきたい、それをめざして、これからも尽力していく。