はじめに

「IoTデザインガールプロジェクト」は、2017年7月に発足した、総務省の「地域IoT官民ネット」の1つのプロジェクトである。このプロジェクトは、NTTドコモ(以下、ドコモ)内で誕生した、「NTTドコモアグリガール(以下、アグリガール)」が派生、拡大した取組みである。本稿では、アグリガールがドコモ内に収まることなく、日本各地の企業、自治体の女性たちが参加する一大プロジェクトに発展するまでの経緯を紹介する。

「NTTドコモアグリガール」とは?

もともと「アグリガール」というのは、ドコモの法人営業部門でスタートとした、農業現場のICT化を推進する女性営業メンバーのことだ。2014年11月に女性社員2名での農業ICTプロジェクトチームとしてスタートした。

ドコモが農業分野への取組みを強化しようとしたきっかけは、国にとって重要な産業であるにもかかわらず、ICT化が進んでおらず、貢献できる余地が大きいと判断したからである。農業従事者にメリットがある付加価値サービスを提供することで、多くの人にスマートフォンやタブレットを利用してもらいたいと考えた。活動当初は、先行するITベンダーが多数存在したため、後発であるドコモは、自らソリューションを開発するよりも他社が持つソリューションが集まる「場」を提供すればよいのではないかと考えた。

アグリガールが取組む農業IoT

2名の立ち上げメンバーがはじめに展開したのは、畜産農家と母牛を支援する、「モバイル牛温恵(ぎゅうおんけい)」という畜産IoTソリューションである。大分県別府市のベンチャー企業・株式会社リモート(以下、リモート)が開発したソリューションで、母牛が分娩する24時間前に畜産農家にメールで知らせるものだ。これまで、出産待機で連日寝泊まりすることから解放され、かつ一定頻度で発生していた分娩事故が減少するなど、農家がこれまで抱えていた問題を解決することができた。そして、「モバイル牛温恵」の販売・運用にあたっては、JAグループ・リモート・ドコモの3者でのエコシステムも構築した。

その後、稲作IoT、水産IoT(図1)、そして観光IoTなど、畜産から対象分野を拡げて、全国の支社・支店のメンバーが加わり、3年足らずでアグリガールは130名に拡大した。ちなみにアグリガールは、正式な社内組織ではなく、挙手方式になっており、前向きで熱意のあるメンバーが集まってくる。アグリガールは、多くのお客さまやパートナーに出会い、持ち前の共感力で知識や体験を得て、一緒にビジネスエコシステムを創る力を発揮する。また、かつてのアイドルグループの「おニャン子クラブ」を参考に、ナンバー制となっており、おニャン子世代が多いお客さまからの受けもよい(写真1)。

図1 1次産業向けIoTソリューション
写真1 『農業からあらゆる産業をIoTでつなぎまくる、NTTドコモアグリガールの突破力』(2017年12月 日経BP社刊)

「アグリガール」から「IoTデザインガール」へ

アグリガールによる農業ICTプロジェクト活動は、これまで1次産業においてICTに関心のなかった人々に広く理解されることになった。そしてこの活動は、1次産業の枠を超えて地域が抱えるさまざまな課題に関する相談も受けるようになり、ドコモ内ではR&D部門も連携し、2017年度から「IoTデザインガール」としての活動を始めた。

ドコモを超えた「IoTデザインガール」

IoTデザインガールは、新たな展開を始めた。アグリガールのこれまでの活動内容が総務省の目に留まり、2017年7月11日に設立された、「地域IoT官民ネット」の1つのプロジェクトとして連携することになった。この「IoTデザインガールプロジェクト」は、企業や団体の枠を超えて日本でIoTの普及促進に取組む女性を育成する取組みである。設立総会には、IoTデザインガールの活動に賛同した、通信事業者、生命保険、流通、旅行などのさまざまな企業、そして自治体など約40の企業・団体から選出された第1期メンバーが集まった(写真2、図2)。

写真2 IoTデザインガールたち
図2 IoTデザインガールイメージ

IoTデザインガールがめざすもの

「IoTデザインガールプロジェクト」は、「“社会課題に対して、IoTやAI等の先進技術を活用して、どんなことができるか?”をデザインし、ストーリーを組み上げてわかりやすくつたえる女子!」「企業や自治体をつなげて、新たな価値を創出する女子!」をめざしている(図3)。

図3 IoTデザインガール宣言

2017年9月から始まった第1期メンバーの活動では、2018年2月までに計5回のワークショップが開催された。このワークショップには、メンバーの他に、各メンバーの上司も応援団として参加し、活動への理解や課題の共有を図っている。ワークショップでは、IoT/AIなどの最新技術動向や、社会課題への関心を深めるためのインプットとして、ICT、経済、デザイン思考などの第一線で活躍する有識者、IoTによる新たな価値を提供している事業者、そして先進的な取組みを行っている自治体の代表者などが講演を行った。これを受けたアウトプットとして、メンバーがグループワークを行い、地域の課題解決に向けたソリューションについて最終回にコンペティション形式で発表した。

IoTデザインガールのこれから

IoTデザインガールプロジェクトは、今年9月から第2期メンバー(45名)の活動を開始している。今期は、東京だけでなく、広島でもワークショップが継続的に開催され、かつスポット開催として北海道や鹿児島での開催も予定されるなど、全国に活動の輪が広まっている。

以上のように、わずか2名でスタートしたドコモのアグリガールは、突破力で次々と周囲の人を巻き込み、連携しながらIoTデザインガールに発展した。将来、国・自治体や他企業も巻き込んで地域の課題解決に大きく貢献する「場」となる日はそう遠くないはずだ。

<IoT活用のことなら下記へ>

https://www.nttdocomo.co.jp/biz/special/iot/