ドコモがSDGsになぜ取組むか

2015年9月、国連では発展途上国だけでなく先進国を含めた世界全体がめざすべき目標として、「持続可能な開発目標(以下SDGs※1)」を採択した。SDGsには17の目標・169のターゲットがあるが、これらの目標は長らく未解決である社会課題が多く、取組む意義の多いものばかりである(図1)。また、貧困問題やエネルギー問題を目標としているので、CSR的な要素が強いと感じられるが、これらの問題を解決するソリューションの提供は、2030年までに国内で約70兆円のマーケットに成長する見立てもある。SDGsに早期に向き合うことは、イノベーションを推進し、関連する事業やサービス開発のマーケットリーダーとして新たな価値、収益を生み出すチャンスでもあり、大いに取組む意義があると考える。

図1 SDGsが掲げる「世界を変えるための17の目標」(出典:国連広報センター)

新たな協創パートナーシップ

しかしながら、SDGsで取り上げる社会課題は非常に大きく、個社での市場の立ち上げは困難と考える。そこで、ドコモは2018年12月に5GやIoT・AIといった革新的な技術によりパラダイムシフトを起こし、「企業間をつなぐ力」を活かして異業種間のアライアンスを積極的に仕掛け、新たな市場を率先して創出する「IoT×5G×SDGsパートナー協創プロジェクト」を立ち上げた。

具体的には、パートナー企業とワーキンググループ(以下、WG)を立ち上げ、SDGsの各目標の達成に向けて、WG内で新たな事業創出やWG間での情報共有のためのワークショップなどを行っていく。WGの運営にあたっては中心的に活動いただく企業をドコモとの共同幹事とし、従来のようなテクノロジーを有するソリューションパートナーのみならず、課題と検証の場を有するフィールドパートナーなどにも参画いただくことで実効性のある協創スキームとした。

なお、SDGsの掲げる目標はすべて重要なものばかりであるが、「少子高齢化に伴う医療費増加・介護負担の増加」に対する「目標3:すべての人に健康と福祉を」、「製造業における労働者不足や技能承継の難しさ」に対する「目標9:産業と技術革新の基盤をつくろう」、「核家族化、共働き家族による安心安全の確保」に対する「目標11:住み続けられるまちづくりを」の達成をめざし、3つのWGを最初に立ち上げた(図2)。この中で、「目標3:すべての人に健康と福祉を」の達成に向けた、ヘルスケア分野での取組みについて紹介する。

100年健康ライフを支えるヘルスケア

日本の総人口は2010年の1億2800万人をピークに減少傾向にあり、65歳以上の高齢化率は28%を超える。今後更に総人口は減少し、2025年の高齢化率は30%を超えると予想されている。一方、それを支える介護従事者の人手不足は深刻で、経営難に陥る中小の介護事業者も増えてきている。こうした介護需給のギャップ等の課題を解決すべく、目標3のWGでは富士通株式会社を幹事企業にソリューションの創出を図っていくこととした。

まずは介護従事者の業務効率化により、質の高い介護サービスを生み出せるようなサポートをしていく。実際、介護施設に話を聞いてみたが、要介護者のケアを行いながら体温、血圧、脈拍などのバイタル情報計測し、報告書を作成するなど単純、反復業務に時間を取られているという。また、その記録や担当引継ぎの「申し送り」も手書きで行っている施設がまだまだ多く、デジタル化が進んでいない。ドコモは、バイタル情報(体温)の自動記録・入力や施設入居者に関する状態、申し送り事項をデジタル化する「ケアマネジメントプラットフォーム」を開発し、業務効率化の実証実験を行ったが、業務の大幅な時間短縮が図れ、有効性が確認できた(図3)。今後、センサーの拡張によるデータ取得範囲を広げるとともに、各種業務の自動化により、介護従事者の更なる業務効率に繋がるよう検討を進めていく。

図2 ケアマネジメントプラットフォーム概要(開発中)

 

図3 ケアマネジメントプラットフォーム概要(開発中)

また、介護施設における要介護者の送迎業務も大きな課題となっている。身体的に制約のある要介護者の送迎をどうやってスムーズに行うか、また、直前のキャンセルが頻繁に発生することなどから効率的な送迎ルートを立てるのに毎日苦労している。こうした課題についても、ドコモのAI運行バス※2の配車技術が活かせると考えて検討を始めており、2019年度内に実証実験を行う予定である。

さらに今後は5Gの商用サービス開始に向け、AIやロボット技術を用いた介護業務の軽減も目指していく。現在の制度の中では制約も多いが、ウェラブル端末やセンサーなどのIoT技術を使って収集した健康データの活用も進めていきたい。介護や医療に関連する企業や機関、食品や保険業界などとも健康データの共有を図り、人々の暮らしの更なる向上に役立てる。この循環こそが人生100年時代において、ただ寿命を延ばすのではなく「活き活きと楽しみを感じられる人生」のサポートにつながっていくものと信じている。個人と家族、医療・介護従事者が安心して「つながり」暮らせる社会の実現に貢献したい(図4)。

図4 WG3:ヘルスケア領域で2030年にめざす姿(富士通、ドコモ共作)

なお、このWGの他、「産業界における人手不足や技能継承問題に対するソリューション」と「住みやすい街づくりをめざすソリューション」についても幹事企業を中心に新たなビジネスモデル創出に向け進めているが、いずれのWGでも今後さまざまなパートナーが集い、SDGsの目標達成、社会課題の克服を実現するプロジェクトに発展させていきたい。

【用語解説】

※1 SDGs(Sustainable Development Goals):2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標

※2 AI運行バス:ドコモが提供する移動の需要と供給を最適化したオンデマンド交通

 https://www.nttdocomo.co.jp/biz/service/ai_bus/

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