ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第16回:要求インタビュー
NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎
NTTデータ 
技術開発本部
副本部長 
山本修一郎

概要

連載の第5回の要求抽出手法で要求インタビューについて簡単に紹介した[1]。システム開発の最上流では顧客からの要求抽出が必要であり、顧客からのインタビューが欠かせない。要求インタビューは、一般的なコミュニケーションの技法のひとつであるインタビューを用いてシステムに求められる顧客の要求を抽出する方法である[2][3]。しかしシステム分析の実務家の皆さんもインタビューについてはなんとなく知っていて日ごろ実践していても、それがどんな技術であるかについて具体的に考えることは以外に少ないのではないだろうか。要求抽出の基本となるインタビューを工学的に取り扱えるようにしていくことは、要求工学にとっても重要な課題である。

本稿では、このようなインタビューについて要求インタビューだけでなく、ノンフィクションなどで用いられるインタビュー[4][5][6][7]などにも触れながら、インタビューとは何かについて考察してみたい。

インタビューとは

筆者も取材などでインタビューを受けることがよくある。この場合のインタビューとは、新聞・雑誌や放送の記者などが取材のために人に会って話をきくこと(三省堂国語辞典)である。このようなインタビューでは、事前に広報などに取材申し込みがあり、雑誌などの記事の例と主な質問事項やインタビュー時間がたとえば50分という具合に指定されてくる。こちらは、その質問事項にあわせて情報を用意して、取材に臨むことになる。実際のインタビューでは、挨拶、自己紹介などから始まって、インタビューの目的などの説明を聞き手から受けながら、具体的な質問に自然に移っていくというわけだ。話し手側としては、聞かれるままに回答していけばいいので、比較的気が楽なものである。中には、回答しにくい質問もあるけれども、技術的な内容であれば、できることとできないことが合理的に説明できる。取材が終わると、雑誌の場合は記事原稿を事前にこちらに提示して問題がないかどうか確認することもある。放送や新聞の場合には、確認なしでそのまま記事になることが多い。

しかし、新聞の場合は大体1時間程度話したとしても、せいぜい数行になるかならないかなので、インタビュー内容のほとんどは記事になる前に削除されるということだ。例えば、ユビキタス技術についてたくさん話したのに、最後の課題のところだけが採用されたことがある。このときの記事では、「ユビキタス技術が社会にどんどん浸透していくと、ワープロの出現で漢字がかけなくなり、携帯電話の出現で電話番号を覚えなくなったように、これからはモノがどこにあるかなどということも、コンピュータに聞けば教えてくれるようになると、自分だけでは何がどこにあるか分からなくなるかもしれない」というような話だけが載っていて、ちょっと微妙な気分になったものである。逆に言えば、記事の読者にとって、本当に興味のあることは何か、あるいは記者にとって読者が興味を持ちそうな話題は何かという切り口で見たときに、このときのインタビューの最後の話が残ったということになるのであろう。

また筆者も何回か入社面接をしたことがある。面接では応募者の合否を判定するために面談により応募者の話を聞くというインタビューである。面接では、予めどのようなことを聞くかという数個の質問項目と評価のポイントが用意されている。入社面接などでは、これまでの人生の中で一番つらかったことは何かとか、一生懸命取り組んだことは何かといったようなテーマで自由に語ってもらい、具体的な内容に段階的に絞り込んだ質問をしていく。たとえば、論理的な議論展開ができるかどうか、厳しい状況に追い込まれたときにも自然に対応でき、強引になることがないかどうか、思考の柔軟性などについて応募者の能力を面接で評価する。わざと対立するような論点を出してそれに対する反応をみたりすることもある。複数の面接官が対応することが多い。短い時間でインタビューするので、人物評価は難しいと思われるかもしれないが、人物の評価は意外に一致する場合が多いものである。

ノンフィクションでもインタビューが重要な情報収集の手段となる。ノンフィクションの場合は、世間に流布するイメージに疑いを持つところから取材が始まるといわれる[4]。したがってインタビューに先立つ資料批判やインタビューで入手した情報と資料との突合せによる課題の把握も重要だ。ノンフィクションの持つ最大の武器はインタビューにより獲得した「事実」を提示することで「批評」とする方法だ。「事実」によって思い込みや憶測を覆していく瞬間はまさにノンフィクションの醍醐味といえよう。そのためには当事者情報の収集が大切であり、適切なキーパーソンを探し出してきて「生の証言」を引き出すことが重要だ。この意味で「ノンフィクションの言語とは、いかにもっともらしい言葉の殻を食い破り、誰の胸にも破壊力をもって伝わる血肉を備えた言葉でなければならない」[4]という主張はすごい。表層的な言葉ではなく、人物や社会の内面にある具体的で深層をつく言葉が見つけることがノンフィクションにおけるインタビューの目的だ。

要求分析工程のインタビューについて筆者が最初の研究に着手したのはかれこれ10年前だ。そのときの着想は、インタビューの進め方が要求抽出の品質に影響を与えるというものだ。このとき作成したインタビューガイドでは、インタビューの流れ、インタビューの心得、留意点などをまとめた。またモデル[2]は、「インタビューはシステム分析フェーズでの、情報収集のための主要な技術である。」「アナリストのインタビュー技術によって、集められる情報の種類、品質、深さなどが決まる」と述べている。

顧客にインタビューすることにより、システムに求められる顧客の要求を抽出する方法に構造型インタビューと非構造型(オープン)インタビューがあることは前にも述べた[1]。復習しておくと、オープン型インタビューでは、顧客から自分の業務について自由に話をさせ自然に業務情報を獲得していくことで、対象領域に関する分野知識を包括的な視点から獲得することにより要求を抽出する。しかし個別的な要求の詳細を具体化するためには、構造型インタビューを用いる必要がある。構造型インタビューでは、要求分析者が予め想定した質問への回答を顧客から抽出することを目的とする。半構造型インタビューは、両者の折衷型で、予め想定した質問と回答に基づくオープンな質問とを組み合わせたインタビュー形態である。

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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。



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