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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第97回 要求の創造国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

本稿では創造的問題解決手法を用いて新規性のある要求を抽出するための要求工学手法の可能性について紹介する。具体的には、次の2つの仮説について考察する。

(1)要求工学プロセスは創造的問題解決プロセスである。

(2)創造的要求工学プロセスにより、有用で新規性の高い要求を発見できる可能性がある。

創造的問題解決(Creative Problem Solving, CPS)

Sternbergは、創造性を次のように定義している[1]

【定義】創造性

新規性がある適切な成果物を生みだす能力が創造性である。

この定義に基づいて、Maidenらは創造的な要求プロセスを次のように定義している[2]

【定義】創造的要求プロセス

次の3条件を満たすような要求と関連する成果物を生産することを創造的な要求プロセスという。

(条件1)新規性があること

(条件2)有用であること

(条件3)要求プロセスの制約に適合すること

◆新規性

特許の場合、発明が既知ではないとき、新規性があるという。発明内容が、公開された周知の技術と同じではないことが必要である。

これに対して個人や組織の場合、知識がその個人や組織にとって新しいことであれば新規性があることになる。公開されている知識でも、個人や組織がそれを知らなければ新規性がある。

特許のように、状況とは独立に、歴史的に新規性が判断される場合だけでなく、個人や組織の状況に依存する新規性もある。新規性には幅がある。ただし特許の場合でも、国ごとに新規性が歴史的に判断されることから、国という状況が前提にはなっている。


このように考えると、要求の新規性を次のように述べることができる。

【定義】要求の新規性

ある特定の状況や領域における既存の要求と異なるとき、要求には新規性があるという。

◆創造性

新規性を持つ有用な概念を生み出すことが創造性であることから、与えられた状況の中で新しい成果物を生産することを状況的創造性ということができる。新規性が状況に依存するから、創造性も状況に依存している。

状況的創造性に基づけば、創造的な要求プロセスもまた、特定の状況や領域における既存の要求とは異なるという意味でこの状況に依存していることになる。

既存の要求と異なることを示すためには、逆説的だが、要求間の類似性が判断できないといけない。したがって、要求の新規性を判断するためには、要求の類似性についての評価基準が必要になる。

創造的要求工学の必要性

Maidenらは創造的要求工学が必要となる背景として、次の4点を挙げている(表1)。

  • 創造性の戦略的重要性が拡大したこと
  • 新技術が急速に発展していること
  • アジャイル開発の進展
  • 要求工学研究と現実との差の拡大

表1 創造的要求工学が必要な理由

表1 創造的要求工学が必要な理由

次では、これらについて説明していく。

◆創造性の戦略的重要性が拡大

現代企業では、市場の急速な変化に伴って新しい事業を生み出すための創造性と事業や製品のデザインが、企業の競争優位性を確保する重要な手段となった。このため、要求プロセスをビジネスプロセスに整合させる必要がある。したがって、ビジネスプロセスに整合する要求を発見することは、要求プロセスがビジネスの創造プロセスと緊密な関係を持つ必要があることになる。

◆新技術の急速な発展

携帯電話、スマートフォン、タブレット、クラウドサービス、センサーデバイスなど、急増する新しい端末装置やアプリケーションサービスなどの新しい技術環境が次々に登場するため、これらを扱うための要求を創造する要求プロセスが必要になる。

◆アジャイル開発の進展

アジャイル開発の普及により、ソフトウェア開発の短期化が創造性の発揮を抑止する可能性がある。たとえば、開発サイクルが短くなれば十分な検討時間がとれなくなるため、稼働中のソフトウェアの延長線上ですぐに実現できる要求しか考案できなくなる可能性が高くなる。このため、稼働中のソフトウェアから、短期間に効率よく新しい要求を発見する創造的な手法が必要になる。

◆要求工学研究と現実との差の拡大

創造性についての要求工学の従来研究はほとんどなかった。しかし、上述した理由から、企業の製品やサービスの競争優位性を生むためのソフトウェア要求を作成する手段が産業界から必要とされている。このため製品やサービスの創造性についての要求工学の研究が必要である。

創造的問題解決プロセス

創造的問題解決プロセスは、①目的発見、②事実発見、③問題発見、④着想発見、⑤解決策発見、⑥受容性発見という6段階からなる。これらのプロセスは、問題理解(①②)、着想生成(③④)、実行計画(⑤⑥)に分類される。

目的発見では、ブレインストーミングにより、目的とゴールを列挙する。ここで、ブレインストーミングのポイントは、決して相手の意見を批判しないこと、意見を追加することだけに集中して、可能な限り多くの提案を抽出することである。

事実発見では、ブレインストーミングにより、すべての視点とステークホルダに対する目的とゴールごとに、関連するすべての事実を列挙する。

問題発見では、事実に対する問題を異なる方法で表現することによりブレインストーミングを実施する。

着想発見では、ブレインストーミングを用いて、可能な限り多くの着想を列挙することにより、適切な着想を選択する。

解決策発見では、選択した着想について解決策を考案するとともに、解決策の選択基準を作成する。

受容性発見では、解決策を実装して実世界で受容する上での具体的な問題を検討する。

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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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