ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

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第42回 ソフトウェア品質要求工学 NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎

(株)NTTデータ 技術開発本部 システム科学研究所 所長 工学博士 山本修一郎

IEEEソフトウェア誌の2008年March/April号では、ソフトウェア品質要求が特集されている。今回は、ISO/IEC 25030として2007年に改訂されたソフトウェア品質要求の新しい動きを紹介しよう。

ソフトウェア品質要求の標準化

表1に示すように、ソフトウェア品質モデルが1991年にISO/IEC9126として策定され、2001年に改訂されている。ソフトウェア品質モデルと対をなす、ソフトウェア製品評価プロセスについてはISO/IEC14598によって標準化されている。ソフトウェア製品品質要求評価のための新たなSQuaRE(Software Product Quality Requirements and Evaluation)シリーズでは、表2に示すように品質管理(2500n)、品質モデル(2501n)、品質測定(2502n)、品質要求(25030)、品質評価(2504n)を総合的にまとめている。ソフトウェア品質要求では、品質要求を識別し仕様化することを支援する。開発者はソフトウェア製品に対する品質要求を抽出定義し、評価プロセスの入力として用いることができる。

表1 ソフトウェア品質要求に関する標準の発展
標準 説明
ISO/IEC
9126
ソフトウェア品質モデル
1991年に策定され、2001年に改訂
ISO/IEC
14598
ソフトウェア製品評価
ISO/IEC
25000
ソフトウェア製品品質要求評価のための新たなSQuaREシリーズ25030がソフトウェア品質要求の標準
表2 SQuaRE標準の構成
分類 説明 SQuaRE標準
品質管理
SQuaREにおける共通モデル、用語、定義を記述する。
アプリケーションに応じて適切な標準を利用できるように上位レベルの実践的な示唆を提供している。
ソフトウェア製品要求仕様を管理・評価するための支援機能に対する要求とガイダンスも提供する。
ISO/IEC2500n
品質モデル
内部品質、外部品質、利用品質に対する品質属性および副属性からなりISO/IEC9126に基づく詳細な品質モデルを提供する。
データ品質モデルも提供している。
ISO/IEC2501n
品質測定
ソフトウェア製品に関する品質測定参照モデル、品質尺度の数学的定義、適用上の実践的ガイドラインを提供する。
内部品質、外部品質、利用品質に対する尺度がある。
ISO/IEC2502n
品質要求
品質要求を識別し仕様化することを支援する。
開発者はソフトウェア製品に対する品質要求を抽出定義し、評価プロセスの入力として用いることができる。
ISO/IEC25030
品質測定
ソフトウェア製品評価について要求、推奨、ガイドラインを提供して.いる。評価尺度の文書化についても記述している。 ISO/IEC2504n

ソフトウェア品質要求の基本要素は何か

以下では、ISO/IEC25030の基礎となったISO/IEC9126とISO/IEC14598の概要を説明する。

ソフトウェア品質を測定するための世界標準として定められたISO9126では、表3に示すように内部特性と外部特性について、次の6項目の品質属性とその副特性を定めている。内部特性には、ソフトウェア製品の構成要素に対する設計や、コードについての構造や複雑さなどの静的な性質がある。外部特性には、完成したソフトウェアがハードウェアと実際のデータに対して実行されるときの、平均故障時間などの動的な特性がある。利用特性は、指定されたユーザが指定されたタスクを実環境でソフトウェアによって、実行するときの業務遂行に関する生産性や有効性などの外部活動としての特性がある。

表3 ISO9126の概要
  分類 説明 副特性
内部特性
外部特性
機能性
明示的及び暗示的必要性に合致する機能を提供する特性 適切性
正確性
相互接続性
セキュリティ
適合性
信頼性
指定された達成水準を維持する特性 成熟性
耐故障性
回復性
使用性
理解、習得、利用でき、利用者にとって魅力的である特性� 理解性
習得性
操作性
魅力性
効率性
使用する資源の量に対比して適切な性能を提供する特 時間効率性
資源効率性
保守性
修正のしやすさに関する特性 変更容易性
安定性
試験容易性
移植性
ある環境から他の環境に移すための特性 適応性
インストール容易性
共存性
リプレース容易性
利用特性
ソフトウェア製品評価について要求、推奨、ガイドラインを提供して.いる。評価尺度の文書化についても記述している。 有効性
生産性
安全性
満足性

【機能性】明示的及び暗示的必要性に合致する機能を提供する特性

【信頼性】指定された達成水準を維持する特性

【使用性】理解、習得、利用でき、利用者にとって魅力的である特性

【効率性】使用する資源の量に対比して適切な性能を提供する特性

【保守性】修正のしやすさに関する特性

【移植性】ある環境から他の環境に移すための特性

また適合性(compliance)がすべての特性に共通する副特性となっている。


ISO/IEC14598では、表4に示すように、以下のプロセスを標準化している。

表4 ISO14598の概要
分類 説明
評価要求の確立
評価目的の確立
評価対象製品種別の識別
品質モデルの仕様化
評価の仕様化
測定法の選択
測定法のための評定水準の確立
総合評価のための基準の確立
評価の設計
評価計画の作成
評価の実施
測定値の収集
基準との比較
結果の総合評価
  • 評価要求の確立では、評価目的を確立し、評価対象製品種別を識別するとともに品質モデルを仕様化する。
  • 評価の仕様化では、測定法を選択し、測定法のために評定水準と総合評価のための基準を確立する。
  • 評価の設計では、評価計画を作成する。
  • 評価の実施では、測定値を収集し、基準と比較することにより結果を総合評価する。

ソフトウェア品要求作成の留意点

ソフトウェア品質要求は、ソフトウェア内部だけで定義できるのではなく、ソフトウェアを取り巻く外部環境にある関係者のニーズ、関係者の要求、システム要求、そしてソフトウェア要求を考慮することが必要になる(図1)。関係者ニーズの一部として関係者が求める品質ニーズがある。この関係者品質ニーズを解決するための期待として関係者の品質要求が定義される。関係者品質要求に基づいてシステム品質要求と対応するソフトウェア品質要求が定義される。このようにソフトウェア品質要求の作成では、根拠となる位置づけを明確化することが重要になる。なお図1ではシステム品質要求を省略しているが、システム品質要求の一部としてソフトウェア品質要求が含まれることはいうまでもない。

図1 ソフトウェア品質の位置づけ
図1 ソフトウェア品質の位置づけ

◆ソフトウェア品質要求作成手順

ソフトウェア品質要求は、以下の手順で定義する(表5)。

表5 ソフトウェア品質要求の定義手順
手順
品質要求定義
システム利用環境におけるユーザが必要とするサービスを提供するための要求を定義する
品質要求分析
関係者がもとめる品質要求に基づいて、ソフトウェア製品に対する品質要求を仕様化する

(1)品質要求定義

システム利用環境におけるユーザが必要とするサービスを提供するための要求を定義する。

(2)品質要求分析

関係者がもとめる品質要求に基づいて、ソフトウェア製品に対する品質要求を仕様化する。

◆ソフトウェア要求品質の定義

ソフトウェア品質要求は、品質特性、属性、尺度、目標値の4項目で定義する。たとえば、表6に示したように定義することができる。

表6 ソフトウェア品質要求の評価尺度の定義例
標準
品質特性
時間効率性
属性
応答時間
尺度
応答メッセージXを平常時に10個生成する時間を測定して平均時間を計算する
目標値
1表以内
最悪の場合3秒以内

ソフトウェア品質要求の構成

ソフトウェア品質要求の構成内容は、表7に示したようにスコープ、適合性、規範的参考文献、用語定義、ソフトウェア品質要求フレームワーク、品質要求の要求、付録である。

表7 ISO25030ソフトウェア品質要求の構成
内容
1章
スコープ
2章
適合性
3章
規範的参考文献
4章
用語定義
5章
ソフトウェア品質要求
フレームワーク
目的
ソフトウェアとシステム
関係者と関係者の要求
ソフトウェアの性質
ソフトウェア品質測定モデル
ソフトウェア品質要求
システム要求の構成
品質要求ライフサイクルモデル
6章
品質要求の要求
一般要求と仮定
関係者の要求 システム境界
関係者の品質要求
関係者の品質要求の妥当性確認
ソフトウェア要求 ソフトウェア境界
ソフトウェア品質要求
ソフトウェア品質要求の妥当性確認
付録
用語と定義
ISO/IEC 15288プロセス
文献一覧

ソフトウェア品質要求フレームワークでは、以下を記述する。

  • ソフトウェアとシステム
  • 関係者と関係者の要求
  • ソフトウェアの性質
  • ソフトウェア品質測定モデル
  • ソフトウェア品質要求
  • システム要求の構成
  • 品質要求ライフサイクルモデル

品質要求の要求では、一般要求と仮定、関係者の要求、ソフトウェア要求を記述する。

関係者の要求では、システム境界、関係者の品質要求、関係者の品質要求の妥当性確認を記述する。

ソフトウェア要求では、ソフトウェア境界、ソフトウェア品質要求、ソフトウェア品質要求の妥当性確認を記述する。

IEEE std-830のソフトウェア機能属性

IEEE std-830では、望ましいソフトウェア要求仕様の構成を第5章で示している。表8では、その記述内容をソフトウェアの機能とその属性、ならびにソフトウェアの外部活動とその属性に分類して説明している。このうち、ソフトウェア品質属性に係る記述は以下の3つのソフトウェア機能属性と外部活動属性である。

表8 IEEE std 830-1998における機能要求と非機能要求
分類 ソフトウェア要求仕様の構成要素
機能
ソフトウェアが受理する入力、その処理、結果として生成する出力
a)入力の妥当性チェック
b)操作系列
c)例外時の出力
d)パラメータの影響
e)入力と出力の関係
5.3.2
機能属性
狙い、スコープ(利益、目的、目標) 5.1
実現時期の配分 5.2.6
性能 5.3.3
論理データベース(使用頻度。アクセス性能、一貫性制約、保持条件) 5.3.4
ソフトウェア属性(信頼性、可用性、セキュリティ、保守性、移植性) 5.3.6
外部活動
製品の位置付け(システムインタフェース、ユーザインタフェース、ハードウェアインタフェース、ソフトウェアインタフェース、通信インタフェース、メモリ、運用、サイト適応要求) 5.2.1
外部インタフェースAPインタフェース、並列操作、監査機能、制御機能) 5.3.1
制約(制度、ハード制限、他) 5.2.4
標準化(書式、命名規約、会計手続き、監査証跡) 5.3.5
付録(コード、媒体の梱包に関する指示事項 5.4.2d
外部活動属性
ユーザ特性(教育レベル、経験、専門技能)とその必要性の根拠 5.2.3
要求に重要な影響を与える前提条件、依存関係 5.2.5
制約(上位言語、信号プロトコル、信頼性、臨界性、安全性、セキュリティ) 5.2.4
付録(費用分析、背景情報、解決すべき課題) 5.4.2abc

◆性能

ソフトウェア性能について、静的数値要求と動的数値要求とを記述する。静的数値要求には、端末数、同時接続利用者数、処理対象とする情報量と種別などがある。動的数値要求には、正常時やピーク負荷時に対して一定時間内に処理可能なトランザクション数、タスク数、処理データ量などがある。

◆論理データベース

データベースに関連する非機能要求には、使用頻度、アクセス性能、一貫性制約、保持条件などがある。

◆ソフトウェア属性

  • 信頼性:サービス提供時に必要とされる信頼性を記述する。
  • 可用性:同期点やリカバリ条件、再起動条件などシステムに対して要求される可用性の条件を記述する。
  • セキュリティ:不慮や悪意によるアクセス、使用、変更、破壊、情報漏えいからソフトウェアを保護する要因を記述する。たとえば使用する暗号技術、保存対象ログやデータ履歴、異なるモジュールへの指定された機能の割当て、 プログラムの特定領域間での通信制限、重要データの一貫性検査などがある。
  • 保守性:モジュール性などソフトウェアの保守を容易化するための属性を記述する。
  • 移植性:他のホストマシンやOSなどへのソフトウェアの移植性を容易化するために、ハードウェア独立性や移植性の高い言語の利用などについて記述する。

IEEE std-830と比較すると、ISO/IEC25030ソフトウェア品質要求の特徴はソフトウェア機能属性だけでなく、関係者のニーズや要求も含む外部活動属性とともに系統的に品質要求を記述する点であると思われる。

まとめ

今回はソフトウェア品要求について、ISO/IEC25030を中心として関連するISO/IEC9126とISO/IEC14598ならびにIEEE std-830について紹介した。今後もソフトウェア品質要求を取り入れた実践的な要求工学手法が活発に研究開発されることを期待したい。


■参考文献
  • [1] Jorgen Boegh, A New Standard for Quality Requirements, IEEE Software, pp.20-27, January/ February, 2008.
  • [2] ISO/IEC 25030:2007, Software Enginee ring Software Product Quality Require ments and Evaluation(SQuaRE)Quality Requirements, Int’l Organi zation for Standardization, 2007.
  • [3]IEEE Std. 830-1998, Recommended Practice for Software Requirements Specification, IEEE Computer Society, 1998.
  • [4]山本修一郎,NFRとゴール指向要求定義,情報処理学会誌,2008年4月号
第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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