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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第22回:ソフトシステム方法論 再考(その3)
NTTデータ 技術開発本部 副本部長 山本修一郎
NTTデータ 
技術開発本部
副本部長 
山本修一郎

具体例

「商品注文」処理システムに対する概念モデルを図3に示す。表2では、この概念モデルを構成する基本タスクごとに、入力情報、出力情報、パフォーマンス情報を抽出した例を示している。この商品注文処理システムに対して構成したマルティーズクロスを図4に示した。図5では、既存の情報システムとして在庫管理システム(Inventory control)配送管理システム(Delivery Management)、顧客管理システム(Customer management)があると想定した。この図からわかるように、マルティーズクロスの上下を比較することで、必要な活動に対するデータ処理システムの過不足が判断できるようになる。逆に既存のデータ処理システムを活用するための新たな活動も発見できるようになるのである。

図3 「商品注文」処理システムの例
図3 「商品注文」処理システムの例

表2 情報要求カテゴリと分析例
活動 情報要求(入力) 情報要求(出力) パフォーマンス尺度
顧客からの注文を受ける
  • 顧客情報
  • 注文情報
  • 顧客情報
  • 商品情報
  • 注文情報
  • 配送条件
  • 応答性
  • 信頼性
  • 売上げ
商品の在庫を調べる
  • 商品情報
  • 在庫量
  • 配送条件
  • 販売条件
  • 商品情報
  • 検索結果
  • 信頼性
  • 即時性
商品の調達を支持する
  • 商品条件
  • 注文情報
  • 配送条件
  • 商品情報
  • 納入条件
  • 信頼性
  • 経済性
顧客に決定を通知する
  • 顧客
  • 出荷内容
  • 注文依頼への回答
  • 請求書
  • 決定の正確性
  • 即時性
  • 顧客満足度

図4 「商品注文」処理システムに関するマルティーズクロスの例
図4 「商品注文」処理システムに関するマルティーズクロスの例

SSMと関連手法との比較

SSMの概念モデルでは動詞で表現される活動間の依存関係をモデル化している。またマルティーズクロスにより、データ処理手順やデータ間の関係をモデル化することもできる。このように、システム分析手法を考えると、動詞と名詞という観点と、情報モデルとデータモデル(データ構造)という観点の2つがあることが分かる。この2つの観点から、SSMの構成要素と構造化分析手法、概念データモデリング、UML、バランススコアカード、ゴール指向要求分析手法の構成要素を比較した結果を図5に示す。

図5 システム分析手法の比較
図5 システム分析手法の比較

SSM

まずSSMの概念モデルは動詞・情報型である。マルティーズクロスのデータ処理手順は、動詞・データ型である。またマルティーズクロスのデータモデルではデータ群を階層的に分析するので名詞・データ型もある。情報カテゴリーには活動の最適性を評価するためのパフォーマンス尺度がある。パフォーマンス尺度は動詞としての活動を修飾すると考えられるので、副詞的な概念ではあるが、ここでは情報と考えて名詞として扱い、名詞・情報型とした。これまでの要求工学手法ではSSMの「パフォーマンス尺度」のようなプロセスを改善するためのモニタリングの概念はあまり考慮されてきていなかったように思われる。このようにSSMは動詞・データ型と名詞・データ型の部分についてはデータ処理に関するマルティーズクロス手法によって強化されていることが分かる。

構造化分析手法

データフロー図では入力データを出力データに変換するというデータ処理プロセスを記述するので動詞・データ型である。データ辞書はデータフロー図で現れるデータの構造を記述するので名詞・データ型である。

概念データモデリング

実体関連図ではデータではなく情報の概念モデルを分析するので名詞・情報型である。

UML

ユースケースはシステムの機能をシナリオで記述するので動詞・情報型である。アクティビティ図はビジネスの流れを記述できるので分かりやすさのために動詞・情報型に分類したが、詳細なデータに関する手順も表現できるので、動詞・データ型でもある。振る舞い図として、シーケンス図、状態遷移図、コラボレーション図があるが、これらは具体的なデータ(イベント)に関するシナリオを記述することができるので、動詞・データ型である。

概念レベルのクラス図は名詞・情報型である。また具体的なオブジェクトの構造を表現するクラス図は名詞・データ型である。

バランススコアカード

バランススコアカードには、企業活動の目標を展開する「戦略マップ」とそれを具体的に実行するための「アクションプラン」とその管理のための重要成功要因やKPIからなる「業績評価指標」がある[4]。戦略マップは活動としての戦略間の依存関係を、財務、顧客、業務、人材と変革の4視点から記述するので、動詞・情報型である。これに対して業績評価指標は具体的な重要成功要因間の関係をKPIで表現して実行管理するために用いられるので、名詞・データ型と考えられる。アクションプランは具体的な活動に対応するので動詞・データ型と考えられる。


今回はチェックランドのソフトシステム方法論の情報システム分析への応用例を紹介した。またSSMの構成要素をウィルソンに従って、情報とデータならびに動詞と名詞という分類軸で関連する要求工学手法(構造化分析手法、概念データモデリング、UML、バランススコアカード、ゴール指向要求分析手法)の構成要素と比較した。図5に示した結果からも分かるようにSSMはバランスのとれた先駆的な手法であるといえよう。今後これらの手法との統合・融合に関する研究が進むことを期待したい。


参考文献

  • [1] ウィルソン著、根来龍之監訳「システム仕様の分析学」-ソフトシステム方法論-共立出版(1996)
  • [2] 第20回 要求工学(20)~ソフトシステム方法論 再考(その1)~,http://www.bcm.co.jp/site/youkyu/youkyu20.html
  • [3] 第21回 要求工学(21)~ソフトシステム方法論 再考(その2)~,http://www.bcm.co.jp/site/youkyu/youkyu21.html
  • [4] 吉川武男、バランススコアカード入門、生産性出版 2001
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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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