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第105回 SEMATと保証ケース国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

これまで、2回にわたってJacobsonらによる理論に裏打ちされた実践的なソフトウェア開発方式SEMAT(Software Engineering Method and Theory)について紹介した。今回は、SEMAT[1][2][3]と保証ケース[4][5][6]の関係について考察しよう。

SEMATと保証ケース

SEMATと保証ケースには、SEMATによるソフトウェア開発を保証ケースが支援するという関係と、保証ケースを開発するためのプラクティスをSEMATによって表現し、活用するという関係がある。この両者の関係をまとめると、図1に示すようになる。

図1 SEMATと保証ケースの関係

図1 SEMATと保証ケースの関係

保証ケースによるSEMATの支援

SEMATでは、αカーネルの属性によってソフトウェア開発状況を適切に確認することが基本である。たとえば要求αでは、着想、限定、首尾一貫、受容可能、対処、充足という要求の7つの状態と、要求がその状態であることを確認するためのチェックリストが状態ごとに提示されている。

一方、保証ケースでは、対象に対する主張についての証拠を確認することによって主張の妥当性を保証することができる。

したがって、保証ケースでαカーネル属性状態についての主張を確認することができれば、保証ケースによってSEMAT活動を支援できることになる。以下ではその方法を考える。

カーネルαの基本的な考え方を整理すると、次のようになる。

カーネルαが事後状態Qであるためには、カーネルαが事前状態Pにあることと、チェックリストCが満たされることが必要である。

図2に示すような保証ケースを用いることにより、この考え方を確認することができる。

図2 アルファから保証ケースを作成する考え方

図2 アルファから保証ケースを作成する考え方

カーネルαには、開発活動の進行に従った複数の状態があって、開始状態から終了状態に遷移する。図2(a)では、カーネルアルファにPとQという状態があり、状態PでチェックリストCが満たされれば、状態Qに遷移することを示している。このとき図2(b)に示したように、状態Qに対して上位主張「αが状態Qである」を作成する。この主張が成立することを示すためには、「αが状態Pである」ことと「チェックリストCが満たされていること」が必要であることから、「条件を確認する」という説明ノードを用いて上位主張を、これらの下位主張に分解している。

アルファ状態が3個以上あるときも、同様にしてこの分解を多段階に適用することができる。このとき、カーネルアルファの最終状態から開始状態に向って逆方向に遡りながら、保証ケースを最上位ノードから最下位ノードに向って分解していく。

たとえば表1に示したように、要求アルファの状態は着想状態から始まり、限定状態、首尾一貫状態、受容可能状態、対処状態を経て、充足状態で終了する。したがって、「要求アルファが充足状態である」を最上位の主張として、状態遷移とは逆に、「要求が対処状態である」、「要求が受容可能状態である」、「要求が首尾一貫状態である」、「要求が限定状態である」と分解していき、最後に、「要求が着想状態である」という主張の証拠を確認するように、保証ケースを作成することになる。要求アルファに対する保証ケースの例を図3に示す。他のカーネルアルファに対しても、同様にして保証ケースを作成できることは明らかである。

以下では、保証ケース開発メソッドをSEMATで定義する方法について考えよう。

図3 要求アルファに対する保証ケース

図3 要求アルファに対する保証ケース(クリックで拡大)

SEMATによる保証ケース開発プラクティスの表現

SEMATでは、プラクティスの意味を「何について作業するか」という作業対象(Things to work with)と、「何をするか」という作業内容(Things to do)によって明確に定義することができる。プラクティスでは、作業対象と作業内容を、それぞれアルファと成果物、活動空間と活動で定義する。

表1 要求アルファ状態とチェックリスト(クリックで拡大)

表1 要求アルファ状態とチェックリスト


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