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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第87回 要求文の曖昧さの摘出法国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

昨年から参加しているJSTの研究プロジェクトでは、保証ケース(Assurance case)を拡張したDepenbable caseについて研究を進めている[1]。保証ケースについては本連載[2]でも紹介した。今回は、Depenbable caseの基礎となっている保証ケースの標準化動向について紹介しよう。

まず、ISO/IEC 15026のPart2保証ケース[3]を説明する。次いでOMGのARM(ARgument Metamodel)[4]と、SAEM(Software Assurance Evidence Metamodel)[5]について述べる。

ISO/IEC 15026

ISO/IEC 15026では、この標準の対象範囲、適合性、利用法、保証ケースの構造と内容、適用成果物などについて述べている。以下では、これらについて解説する。

◆対象範囲

ISO/IEC 15026では、保証ケースの構造と内容に対する最低限の要求を規定している。

保証ケースには、システムや製品の性質に対する主張(claim)、主張に対する系統的な議論(argumentation)、この議論を裏付ける証跡(evidence)と明示的な前提(explicit assumption)が含まれる。議論の過程で、補助的な主張を用いることにより、最上位の主張に対して証跡や前提を階層的に結び付けることができる。

ISO/IEC 15026では、保証ケースが持つべき構造と内容を規定対象としており、保証ケースの品質については規定していない。また保証ケースについて、これまでに提案されている用語や図式を制限しないように、保証ケースの基本概念だけを標準化している。

◆適合性

保証ケースがISO/IEC 15026に適合しているというためには、①保証ケースの構造と内容が標準に準拠していることと、②適用成果物が標準に準拠していることの2点が求められる。これらについては後述する。

◆利用法

保証ケースの用途は、環境と相互作用するシステムや、製品が持つ不確実性やリスクに対してシステムや製品が望ましい性質を持ち、危険な状況に陥らないことを保証することにある。したがって、保証ケースを作成した結果にも、主張が持つ性質の影響度とその不確実性が反映されることになる。

このように、保証ケースで確認される主張には不確実性が含まれているけれども、それを関係者が許容できるかどうかについて、保証ケースの作成を通じて議論できる点に価値がある。つまり、保証ケースを作成することでシステムや製品に含まれるリスクを分析して、対策が十分であるかどうかを議論できるようになる。さらに、議論した結果を論証関係によって客観的に記録できることから、問題事象の発生に際して第三者によって客観的に確認できる証跡を提供できる。

ISO/IEC 15026では、保証ケースの作成がシステムや製品の開発プロセスの中に組み込まれるべきだとしている。この場合、計画や人間活動、意思決定などに対しても保証ケースを作成できると考えられる。

また、システム開発者や提供者のような専門的な知識がない関係者が参加できるようにすることも保証ケースでは重要になる。このため、どのような関係者が参加して議論するかによって、保証ケースの内容が大きく変化する可能性がある。専門家だけが参加した保証ケースの場合、非専門家が利用するシステムでは、専門家では想定できないシステム利用に起因する問題事象が発生する可能性がある。そうした時に、非専門家から保証ケースで予め問題事象の考慮が不足していたことへの批判が発生する可能性がある。このように保証ケースの作成では、システムにかかわる多様な関係者が参加することが望ましい。

表1 主張の内容

表1 主張の内容

表2 議論の特性

表2 議論の特性

表3 前提の種類

表3 前提の種類

◆保証ケースの構造と内容

保証ケースの要素には、主張、議論、証跡、正当化(justification)、前提がある。最上位の主張として何を選択するかが保証ケースの議論に大きな影響を与える。このため最上位の主張に対する選択理由として、正当化が必要になる。

主張が持つべき内容を表1に示す。

この表から、主張すべき内容には性質について値の範囲があり、値の範囲について制限があること、値が範囲の制限を満たすことについて不確実性があること、主張の適用性について持続期間とその制限ならびに不確実性があることなどが分かる。また、主張でシステムや製品の構成要素について言及する場合には、その版や実体を特定すべきであるとされている。帰結やリスクについても、主張に適合する場合には必須内容になる。

主張を立証するためには、表2に示す特徴を議論が持つ必要がある。このように、議論では下位の要素から上位の主張へ到達すべきことと、結論の不確実性について確定すべきであることが分かる。

証跡であることを示すためには情報の明白性が必要になる。したがって証跡情報には、定義、適用範囲、不確実性、情報源の信頼性、正確性が必要である。また、証跡についての前提条件を示すことも必要になる。

前提条件には、表3に示す3種類がある。最初の2種類には不確実性はないとされるが、最後の前提条件は、それ自体が主張であり、潜在的な不確実性があるとされている。

◆適用成果物

保証ケースについての成果物を表4に示す。

項番1では、保証ケースがシステムの一部であることが必要だという条件である。つまりISO/IEC 15026を用いるということが、システムの一部として保証ケースを作成することになるというわけである。マッピング表現は保証ケースを記述するための表記法による表現のことである。ISO/IEC 15026では、特定の表記法を指定していないので表記法に対する保証ケースのマッピング規定が必要になっている。

また、項番3、4は保証ケースを記述するだけでなく、標準への適合性についての情報が必要になることを示している。

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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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