(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎
今回は、本連載第72回で紹介したインターアクターモデル(Inter-Actor Model, IAM)を用いた運用要求の定義方法をITIL(IT Infrastructure Library)v3のインシデント管理を例題にして具体的に紹介するとともに、適用事例による有効性の評価結果についても述べる。
運用要求モデル
インターアクターモデルを用いることにより、図1に示すように、①運用主体、②事前状況、③運用対象(となるシステム)、④事後状況、⑤契機(イベント)、⑥応答(レスポンス)、⑦運用手順、⑧入力、⑨出力、⑩運用規則、⑪運用関係者、⑫運用関係者の役割分担に基づいて運用知識を記述できる[1]。このようにインターアクターモデルでは、運用主体と運用対象を運用手順と対応付けて管理できる。また運用手順の内容を、運用契機、応答、入出力、運用規則、運用関係者とその役割分担まで含めて記述できるようにしたことで、従来は曖昧になりがちだった運用規則や役割分担を明確化できる。なお図では、事前状況と事後状況を運用対象に対してしか明示していないが、運用主体と運用関係者についても事前状況と事後状況がある。
運用要求定義
以下ではIAMの記述項目を運用活動の視点から説明する。
(1)運用主体
運用手順を実施するアクターが運用主体である。運用主体は運用対象システムに対して運用活動を実施した結果について、その内容を記録するとともに、必要に応じて、顧客や他の運用主体、会議体に対して報告する。顧客や会議体は運用手順を実施しないが、運用契機や運用上の判断を下す外部的な運用関係者である。
(2)事前状況
運用手順が開始される前に成立していなくてはならない条件を、事前状況として記述する。たとえば、運用手順の中で使用される運用記録簿などがそろっていることなどは、事前状況として明記する必要がある。運用主体としての、担当者に求められるスキルも事前状況である。免許証がないと自動車を運転できないように、専門資格が必要になる運用手順もある。システムの起動手順の事前状況は、システムが停止していることと、起動するための環境が用意されていることである。もし運用対象システムが起動済みであれば、あらためてシステムの起動手順を実施する必要はない。
続きは本誌でご覧頂けます。→本誌を購入する
ご購入のお申込みは電話(03-3507-0560)でも承っております。
- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要