(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎
国際要求工学委員会(International Requirements Engineering Board, IREB)[1]が、要求工学専門家を認定する制度を提供している。これまで要求工学に関連する知識体系として、BABOKとREBOKを紹介している。この2つの知識体系について日本では、よく知られるようになったが、IREBについては、まだ日本語化されていないこともあり、日本ではあまり知られていないようである。しかし、IREBによって認定された要求工学技術者の数は、世界的にみるとBABOKよりも多いようである。
今回はIREBの概要と、提供されている要求工学知識に関する9個の教育単位のうち3個について紹介する。
IREBの概要
IREB(The International Re- quirements Engineering Board)は2006年にドイツで設立され、「要求エンジニアプロフェッショナル」認定制度が策定された。この認定制度はISO標準(ISO/IEC 17024)に基づいて開発されている。現在「ファウンデーション(基礎)レベル」[2]の認定が英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語(ブラジル)で受験できるようである。また、ポーランド語とスウェーデン語、日本語についても準備中ということだ。
IREB認定制度によって、これまで全世界で13,500人以上が認定されており、この認定者数の多さが、IREBの品質の高さを証明していると思われる。ちなみに、BABOKの認定数は、2013年6月で約3000名だそうである[3]。
また、基礎レベルに続いて、「アドバンス(発展)レベル」の認定も現在開発中で、欧州では既に使われているようだ。たとえば、発展レベルの1つである、「Requirements Elicitation and Consolidation」が2012年末に英語で公開されている。欧州以外にも、何人かの専門家がこの試験に合格しているとのことである。発展レベルは、まだこれからも開発されていくようだが、「要求工学には、まだやるべきことがたくさん残っている」というIREBの指摘に、筆者も同感である。
IREBのホームページを図1に示す。このページの日章旗をクリックすると、図2のような日本語ページが提示される。
図1 IREBのホームページ
図2 IREBの日本語ページ
シラバスの目的
IREB認定のための研修教材を作成できるように、基礎資料を提供することがシラバスの目的である。また受講者が試験に備えるために、シラバスを利用することができる。
基礎レベルのシラバスでは、組み込みシステム、重要安全システム、従来型情報システムなどのすべての領域で共通的に通用する知識を提供している。逆に言えば、特定領域のための要求工学知識を提示することが基礎レベルのシラバスの目的ではない。したがって、基礎レベルのシラバスは、個別領域に対する領域特性を考慮したシラバスではない。
基礎レベルには、要求抽出、要求文書化、要求確認、要求管理についての共通知識が含まれている。さらに、基礎レベルには、導入、システム境界、ツール支援についての共通知識がある。これらの知識に対するシラバスは、教育単位(Education Unit, EU)として整理されている。基礎レベルのシラバスの構成を図3に示す。
図3 IREB基礎レベル シラバスの構成
基礎レベル認定要求工学専門家(Certified Professional for Require ments Engineering ― Foundation Level, CPRE FL)は、次の能力を持つことが保証される。
①要求工学とビジネス分析、要求管理についての用語をよく知っている。
②要求工学の基礎技術と技法とその適用法を理解している。
③確立された要求の表記法をよく知っている。
現在の基礎レベルのシラバスは2010年に作成されたV2.1に基づいて改訂されている。
国際的な一貫性のある教育と試験ができるように、基礎レベルのシラバスには、①一般的な教育目標、②教育目標の説明と教育内容、③必要となる参考文献が記述されている。
教育目標では、[L1]知っていること(knowing)、[L2]活用できること(mastering and using)、という2つの認知レベルが割当てられている。認知レベルを表す動詞を表1に示した。
表1 認知レベルを表す動詞(クリックで拡大)
基礎レベルのシラバスの教育単位と、講義内容、講義時間を表2に示す。
表2 IREB 基礎レベル 講義項目(クリックで拡大)
基礎レベルのシラバスの研修時間は18時間なので、90分授業に換算すると、12回になる。大学や大学院の要求工学の授業のシラバスとして、そのまま使えそうである。
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- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要