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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第118回 ビジネスゴールのテンプレート国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

今回は、ClementsとBassによるビジネスゴールの一般分類と、ゴールテンプレートを紹介する。このゴールテンプレートは、アーキテクチャ設計のための品質特性をビジネスゴールに基づいて抽出する手法[1][2]のために考案されたものである。そこで、はじめにビジネスゴールがアーキテクチャ設計とどのように関連するかを説明する。次に、ビジネスゴールの一般分類と、ビジネスゴールを具体的に記述する方法であるゴールテンプレートを紹介する。なお本稿では、この手法を説明するために、仮想的なビジネス事例として「電力情報流通事業を支える情報システム」を用いている。

背景

品質特性要求がアーキテクチャ設計に影響することは理解されている。しかし、ビジネスゴールについてはアーキテクチャ設計との直接的な関係が十分理解されていなかった。このため、アーキテクチャ設計に影響する品質特性に関連するビジネスゴールを系統的に獲得する手法PALMをSEIのClementsとBassが提案している。

PALM-Pedigreed Attribute eLicitation Method

PALMはSEIが開発した、モジュール性、安全性、変更容易性などのアーキテクチャ上重要となる要求を、ビジネスゴールに基づいて系統的に抽出する方法である。PALMの特徴は次のとおりである。

(1)標準的なビジネスゴールを10個のカテゴリに整理している。

(2)ビジネスゴールを表現するためのビジネスゴールシナリオ構文を定義している。

(3)ビジネスゴールシナリオには7個の構成要素(ソース、主体、対象、環境、ゴール、尺度、価値)がある。

(4)ビジネスゴールから品質特性を抽出する手順を提案している。


なお、Pedigreeには、家系、血統、経歴などの意味がある。したがって、Pedigreed Attribute eLicitation Methodとは、血統(由来)の明らかな特性を抽出するための方法、つまり、ゴールのはっきりした特性を抽出する手法ということになると思われる。

本稿では、この手法を説明するために、次のような事例を考える。

電力情報流通事業を支える情報システムの事例

「電力情報流通事業を支える情報システム」を次のように定義しよう。

【定義】

電力情報流通を電力事業者と顧客に提供することにより、安定供給と公平性が要求される電力供給を容易化する情報システムが電力情報流通システムである。

電力情報流通システム(PISS, Power Information Sharing System)は、電力情報流通ビジネスを支援するために開発・運用される。

PISSは、発電事業者、送配電事業者、小売り事業者、需要家の間で電力情報を流通するためのサービスをPISS インタフェース(I/F)を介して提供する(図1)。

PISSを実現するためには、電力情報流通ビジネスのビジネスゴールを分析する必要がある。

なお、PISSはPALMを説明するために筆者が想像した架空の情報システム事例である。

図1 電力情報流通システムの例

図1 電力情報流通システムの例(クリックで拡大)

ビジネスゴール分類

ステークホルダと合意するために、ビジネスゴールを構造化する。このため、ビジネスに関する文献を網羅的に調査することに基づいて、表1に示す10個のカテゴリをClementsとBassが提案している。なお、表1では「電力情報流通事業」に対するビジネスゴールを例として紹介している。

表1 ビジネスゴール分類(クリックで拡大)

表1 ビジネスゴール分類

PALM手順

ビジネスゴールを根拠とする品質特性を抽出するために、PALMでは以下の手順が提案されている。

以下では、ビジネスゴール抽出手順について説明する。

表2 走行状況取得機能の要求テンプレート(クリックで拡大)

表2 PALM手順

ビジネスゴール抽出手順

[手順1]ビジネスゴールが扱うステークホルダの範囲を識別する。

[手順2]ビジネスゴール10分類に従って、ビジネスゴール構文を用いて、対象システムのビジネスゴールシナリオを記述する。

[手順3]識別されたビジネスゴールごとに、技術、社会、法制度、競争、顧客、財務の影響下でどのように変化するかを検討する。

[手順4]ビジネスゴールごとに、次の情報を明確化していることを確認する。

誰が(who):ビジネス対象あるいはビジネスによって影響されるステークホルダ

何を(what):ステークホルダに対する提供物、便益、否定的な影響

いつ(when):ステークホルダに提供する契機

どこで(where):便益や影響が発生する場所

なぜ(why):ステークホルダに便益が提供される根拠

どのように(how):提供物が提供され消費される方法

どれだけを(how much):提供物の価格と必要経費



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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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