(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎
前回、筆者が整理した実践的な要求のまとめ方であるCROS法を紹介した。今回は、要求の構造化についての従来手法ならびに要求知識体系について調べた結果に基づいて、①QFDを用いた要求整理手法、②BABOKの要求体系化、③REBOKの要求構造化、④要求整理シート、⑤USDM、⑥要求相互作用管理を説明しよう。
QFDを用いた要求整理手法
顧客の要求を整理するプロセスから始まるプロジェクト計画立案に応用するために、プロジェクト計画における品質機能展開QFD (Quality Function Deployment)の考え方をQFD 応用研究会が提案している[1-2]。この手法を提案した理由には、要求整理プロセスでは、要求の状況が不明確、内容が不十分、記述方法が不明確である、後続工程に要求が論理的に展開できないという問題がある。
◆要求整理のための展開表
QFDを用いた要求整理手法では、表1に示す7つの展開表を用いる。対応表では、項目間の対応の強度に基づいて重要度を付加できる。たとえば、Q-Q’表では、Qの重要度を対応する行の最右列に記入する。このとき、Q-Q’表の各行の要素に付与された行列要素に対する対応の強度の総和をQの要素の重要度とする。同様にしてQ’に対する重要度は列ごとの要素の強度を総和することで、Q-Q’表の各列の最下列に記入する。
表1 QFD を応用した要求整理手法(クリックで拡大)
◆要求整理プロセス
顧客要求の整理手順は、①要求項目Qの抽出、②要求項目の振り分け、③Q-Q’表の作成、④表の内容の検討である。要求項目をQとQ’に振り分ける場合、目的をQとし、手段をQ’としている。また、この過程で重複要求を排除できる。
BABOKの要求体系化[3][4]
BABOKの要求分析プロセスは、①要求の優先順位付け、②要求の体系化、③要求の仕様化とモデル化、④仮定と制約の定義、⑤要求の検証、⑥要求の妥当性確認からなる。
要求を体系化する目的は、「新しいビジネスソリューションに対する要求のビューを組み立てること」である。
体系化された要求は、包括性、完全性、一貫性を持ち、すべてのステークホルダーが理解できる必要がある。
要求の体系化の入力、活動、出力は次のようになる。
入力:組織のプロセス資産、要求、ソリューションのスコープ
活動:要求の体系化
出力:要求の構造、ステークホルダーの視点で構造化された要求
◆要求の型
組織の標準に従って定義された型を要求に付与する。要求の型は単純で一貫性がある必要がある。要求の記述では、テンプレートを用いて文書化する必要がある。
同様に、要求間の依存関係と相互関係を明らかにする必要がある。
◆要求の抽象レベル
要求の抽象レベルには、目的(What)と手段(How)、「高」「低」、などがある。また、要求の対象の観点では、ステークホルダー要求、システム要求、ソフトウェア要求がある。
ビジネス要求、アプリケーション要求、テクニカル要求などで要求水準を区別することもできる。
◆要求の構成要素
要求の構成要素には、①ユーザクラスとロール、②コンセプトと関連、③イベント、④プロセス、⑤ルールがある(表2)。
表2 要求の構成要素(クリックで拡大)
REBOKの要求構造化[5]
REBOKの要求分析プロセスは、獲得された要求項目に基づいて、①要求の分類、②要求の構造化、③要求の割当て、④要求の順位付け、⑤要求交渉からなる。したがって、REBOKの要求分析プロセスの成果物は、分類され、構造化され、割当てられ、優先順位づけられ、合意された要求である。以下では、REBOKの要求分析で中心となる要求分類と要求構造化について説明する。
◆要求の分類
REBOKでは、要求を属性に着目して、基準に基づいて分類整理することが要求分類である。したがって、要求属性とはなにか、分類基準とは何かが定義されている必要がある。要求属性には、①要求の対象(ビジネス、システム、ソフトウェア)、②機能要求と非機能要求(性能、信頼性、保守性、相互運用性などの品質特性)、③優先度、難易度、安定度、コスト、使用頻度などがある。分類基準は要求属性ごとに定義する必要がある。
REBOKで要求を分類する目的は、属性によって要求を分類するとともに、要求の重複、矛盾、抜け漏れを摘出することである。しかし、REBOKには、要求の重複、矛盾、抜け漏れを摘出する基準については明示されていないので、具体化する必要がある。分類基準の例として、挙げられているのは、
「同一分類内で要求間を吟味し、①曖昧性、②重複性、③矛盾、④網羅性、⑤一貫性をチェックする」「要求全体を見渡し、同様のチェックを実施する」
という2点だけである。この記述から、具体的で客観的なチェックを実施できる能力がある人材は限られるだろう。より具体的かつ客観的な判断基準が必要である。
なお、要求の分類法として、クラスタリング、KJ法、マインドマップを挙げている。しかし、分類の一般論として紹介しているだけで、要求分類で具体的にこれらの手法をどう用いるのかについては示していない。
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- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要