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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第133回 要求整理学国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

前回、筆者が整理した実践的な要求のまとめ方であるCROS法を紹介した。今回は、要求の構造化についての従来手法ならびに要求知識体系について調べた結果に基づいて、①QFDを用いた要求整理手法、②BABOKの要求体系化、③REBOKの要求構造化、④要求整理シート、⑤USDM、⑥要求相互作用管理を説明しよう。

QFDを用いた要求整理手法

顧客の要求を整理するプロセスから始まるプロジェクト計画立案に応用するために、プロジェクト計画における品質機能展開QFD (Quality Function Deployment)の考え方をQFD 応用研究会が提案している[1-2]。この手法を提案した理由には、要求整理プロセスでは、要求の状況が不明確、内容が不十分、記述方法が不明確である、後続工程に要求が論理的に展開できないという問題がある。

要求整理のための展開表

QFDを用いた要求整理手法では、表1に示す7つの展開表を用いる。対応表では、項目間の対応の強度に基づいて重要度を付加できる。たとえば、Q-Q’表では、Qの重要度を対応する行の最右列に記入する。このとき、Q-Q’表の各行の要素に付与された行列要素に対する対応の強度の総和をQの要素の重要度とする。同様にしてQ’に対する重要度は列ごとの要素の強度を総和することで、Q-Q’表の各列の最下列に記入する。

表1 QFD を応用した要求整理手法(クリックで拡大)

表1 QFD を応用した要求整理手法

要求整理プロセス

顧客要求の整理手順は、①要求項目Qの抽出、②要求項目の振り分け、③Q-Q’表の作成、④表の内容の検討である。要求項目をQとQ’に振り分ける場合、目的をQとし、手段をQ’としている。また、この過程で重複要求を排除できる。

BABOKの要求体系化[3][4]

BABOKの要求分析プロセスは、①要求の優先順位付け、②要求の体系化、③要求の仕様化とモデル化、④仮定と制約の定義、⑤要求の検証、⑥要求の妥当性確認からなる。

要求を体系化する目的は、「新しいビジネスソリューションに対する要求のビューを組み立てること」である。

体系化された要求は、包括性、完全性、一貫性を持ち、すべてのステークホルダーが理解できる必要がある。

要求の体系化の入力、活動、出力は次のようになる。

入力:組織のプロセス資産、要求、ソリューションのスコープ

活動:要求の体系化

出力:要求の構造、ステークホルダーの視点で構造化された要求

要求の型

組織の標準に従って定義された型を要求に付与する。要求の型は単純で一貫性がある必要がある。要求の記述では、テンプレートを用いて文書化する必要がある。

同様に、要求間の依存関係と相互関係を明らかにする必要がある。

要求の抽象レベル

要求の抽象レベルには、目的(What)と手段(How)、「高」「低」、などがある。また、要求の対象の観点では、ステークホルダー要求、システム要求、ソフトウェア要求がある。

ビジネス要求、アプリケーション要求、テクニカル要求などで要求水準を区別することもできる。

要求の構成要素

要求の構成要素には、①ユーザクラスとロール、②コンセプトと関連、③イベント、④プロセス、⑤ルールがある(表2)。

表2 要求の構成要素(クリックで拡大)

表2 要求の構成要素

REBOKの要求構造化[5]

REBOKの要求分析プロセスは、獲得された要求項目に基づいて、①要求の分類、②要求の構造化、③要求の割当て、④要求の順位付け、⑤要求交渉からなる。したがって、REBOKの要求分析プロセスの成果物は、分類され、構造化され、割当てられ、優先順位づけられ、合意された要求である。以下では、REBOKの要求分析で中心となる要求分類と要求構造化について説明する。

要求の分類

REBOKでは、要求を属性に着目して、基準に基づいて分類整理することが要求分類である。したがって、要求属性とはなにか、分類基準とは何かが定義されている必要がある。要求属性には、①要求の対象(ビジネス、システム、ソフトウェア)、②機能要求と非機能要求(性能、信頼性、保守性、相互運用性などの品質特性)、③優先度、難易度、安定度、コスト、使用頻度などがある。分類基準は要求属性ごとに定義する必要がある。

REBOKで要求を分類する目的は、属性によって要求を分類するとともに、要求の重複、矛盾、抜け漏れを摘出することである。しかし、REBOKには、要求の重複、矛盾、抜け漏れを摘出する基準については明示されていないので、具体化する必要がある。分類基準の例として、挙げられているのは、

「同一分類内で要求間を吟味し、①曖昧性、②重複性、③矛盾、④網羅性、⑤一貫性をチェックする」「要求全体を見渡し、同様のチェックを実施する」

という2点だけである。この記述から、具体的で客観的なチェックを実施できる能力がある人材は限られるだろう。より具体的かつ客観的な判断基準が必要である。

なお、要求の分類法として、クラスタリング、KJ法、マインドマップを挙げている。しかし、分類の一般論として紹介しているだけで、要求分類で具体的にこれらの手法をどう用いるのかについては示していない。



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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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