(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎
本連載第69回「ビジネスゴールと要求工学」の中で、バランス・スコアカード(BSC, Balanced Scorecard)のアプローチを簡単に紹介した。バランス スコアカード研究会(http: //www.nikkeipr.co.jp/nbsc/)を見てみると、日本におけるバランス・スコアカードの啓蒙活動が一段落して、次の目標として「BSCによる価値創造経営」の強化を図るようだ。この一方で、日本ではBSCに取り組んだものの、それ後必ずしも定着していない組織もあると聞く。
今回は、BSCを上手に活用するための留意点を、BSCの根本に立ち返って具体的に考えよう。そこでまず、BSCが持つ本質的な特性に基づく適用上の留意点と、BSCを導入する組織の特性に由来する適用上の留意点を考える。さらに、これらの考察の結果に基づいて、活動プロセスに基づくBSCの適用法を紹介する。とくに「研究活動」を例に具体的に説明する。
バランス・スコアカードとは
はじめに、バランス・スコアカード(BSC)の概要を復習しておこう。BSCは企業の経営戦略を財務、顧客、業務プロセス、学習と成長という4つの視点から多面的に立案、実行、評価していくためのフレームワークである。
BSCでは、財務の視点から見た戦略目標を最上位のゴールとして、このゴールを達成するための顧客視点のゴール、顧客視点のゴールを達成するための業務プロセスのアクションとしてのゴール、業務プロセスのゴールを達成するための学習と成長のためのゴールに戦略マップを用いて段階的に分解していく。また、これらのゴールを達成するための活動の重要成功要因(CSF, Critical Success Factor)が対応付けられている。さらに、ゴールの最終的な達成状況を監視するためにKPI(Key Performance Indicator)を設定する。
BSCの本質
BSCの根本はバランス・スコアカードとあるように、組織活動をバランスさせることにある。何をバランスさせるのかといえば、短期目標を達成するための活動と、長期目標を達成するための活動の間のバランスである。つまり、現在の業務の効率化を目標にするのか、それとも将来のイノベーションに向けた業務の創造を目標にするのか、あるいはこの両者の組み合わせをどうするのか、そういうことを戦略的に思考し判断する手段がBSCの本質である。つまり、組織活動の妥当性を説明する合理的な根拠を提供するのがBSCということになる。
活動には、当然のことだが過去、現在、未来という歴史としての活動史がある。つまり、すでに起きた結果としての活動、いま現在遂行中の活動と、これからやるべき未来の活動である。そうすると、もし活動を管理しようとすると、この順序が逆になって未来を計画し、現在を遂行し、結果を総括することになる。
BSCをこの活動史の観点から評価すると、財務の視点は活動の結果であるから、活動史としては「過去」である。顧客の視点では、将来の顧客を獲得する活動と、現在の顧客へのサービスを提供する活動の2つがある。業務プロセスの視点では、現在の顧客へのサービスを提供する活動がある。
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- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要