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ICTソリューション総合誌 月刊ビジネスコミュニケーション

ビジネスコミュニケーション
第128回 ITモダナイゼ―ションとITイノベーションにおける要求合意国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授 山本修一郎

国立大学法人 名古屋大学 情報連携統括本部 情報戦略室 教授
(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎

5月22日に第9回の要求シンポジウムが開催される。今回の要求シンポジウムのテーマは、イノベーション領域とモダナイゼーション領域という、2領域に分けて情報システムのあり方が検討されるようになっていることから、「教科書どおりの要求合意がうまく当てはまらないという課題への取組み」だ。

イノベーション領域では、先が見えない中でビジネス価値を生む新たな情報システムを創造する。これに対して、モダナイゼーション領域では、大規模、複雑化、有識者不在の中で、既存の情報システムを現代化する。

この2領域でどのような「要求合意」が求められているのか?参考となる要求合意手法はどのようなものか?

筆者も、「IoT時代のITイノベーションとITモダナイゼーションの課題」と題して、この問いについて特別講演する予定だ。今回は、この特別講演の内容について紹介しよう。

ITモダナイゼーションのモデル

OMGでは、ITモダナイゼーションのモデルとして、アーキテクチャ駆動モダナイゼーション(Architecture Driven Modernization)[2]について、検討している(図1)。

図1 アーキテクチャ駆動モダナイゼ―ションADMの例

図1 アーキテクチャ駆動モダナイゼーションADMの例(クリックで拡大)

ADMは、ビジネスアーキテクチャ、情報システムアーキテクチャ、テクノロジーアーキテクチャからなる階層的なアーキテクチャに基づいて、現行アーキテクチャ(ベースラインアーキテクチャ)を将来アーキテクチャ(ターゲットアーキテクチャ)に移行する。階層アーキテクチャに基づいて、移行活動は、ビジネス変換、論理変換、物理変換からなる。この階層的なアーキテクチャに基づくモダナイゼーションは馬蹄モデル(Horseshoe model)と呼ばれている。

アーキテクチャをビジネスアーキテクチャ、情報システムアーキテクチャ、テクノロジーアーキテクチャから階層的に定義する方法は、オープングループのエンタープライズアーキテクチャフレームワークTOGAFで用いられている。TOGAFではベースラインアーキテクチャに基づいてターゲットアーキテクチャに移行するためのアーキテクチャ開発手法ADM(Architecture Development Method)を提供している(図2)。ADMでは再利用可能ビルディングブロックとしてアーキテクチャビルディングブロック(ABB)とソリューションビルディングブロック(SBB)を活用する。現行システムのうち、再利用できる部分はABBとSBBとしてターゲットシステムで再利用される。また、TOGAFではADMサイクル全般にわたってアーキテクチャ要件を管理している。さらに、TOGAFでは実装されたアーキテクチャが想定したビジネス価値を達成しているかを監視することにより、必要があれば新たなアーキテクチャの作成に着手する反復的なプロセスが定義されている。

図2 TOGAFアーキテクチャ開発手法の例

図2 TOGAFアーキテクチャ開発手法の例(クリックで拡大)

このように、ITモダナイゼーション手法としてTOGAFを活用できることが分かる。

ITモダナイゼーションの目的

DODによって計画されたITモダナイゼーションの例を表1に示す。DODのITモダナイゼーションでは、IT基盤の統一、プロセスの合理化、組織の強化を狙いとして10個の目的が提示されている。この表はITモダナイゼーションのゴール要求を定義していると考えることができる。したがって、合意すべきITモダナイゼーション要求の例になっている。

表1 DODによるIT モダナイゼーション計画(クリックで拡大)

表1 DODによるIT モダナイゼ―ション計画

IT基盤の統一では、①エンタープライズNWの共通化、②DODエンタープライズクラウドの展開、③ITプラットフォームの標準化が計画されている。このことから、今後、日本でも、NWの共通化とともに、基盤のクラウド化とオープン標準への移行がITモダナイゼーションで重要になることが分かる。

プロセスの合理化では、アジャイルITの実現とエンタープライズアーキテクチャが同時に計画されている点が注目される。エンタープライズアーキテクチャによって組織のIT全体を最適化することがアジャイルITを実現するのである。またIT投資整合性の強化を確認するためにも、ITの全体最適化が必要であるから、エンタープライズアーキテクチャの効果を向上する必要がある。

ITイノベーション

シュンペーターによれば、「経済活動の中で生産手段や資源、労働力などをそれまでとは異なる仕方で新結合すること」が、イノベーションである。ここで、経済活動における生産手段や資源、労働力などが構成要素であり、新結合が構成要素関係であると考えることができる。つまりイノベーションとは、既存要素を再利用して、新たに関係づけるアーキテクチャなのである。



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第59回以前は要求工学目次をご覧下さい。


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