(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎
国際要求工学委員会(International Requirements Engineering Board, IREB)[1]は、要求工学専門家を認定する制度を提供している。これまでに、IREBの基礎レベルのシラバスから導入EU1、システム境界EU2、ツール支援EU9、要求抽出EU3、要求確認EU7、要求管理EU8について紹介した。今回は、EU4 要求文書化、EU5 自然言語による要求文書化、EU6モデルに基づく要求文書化について紹介する。
今回紹介する基礎レベルのシラバスの内容をまとめて表1に示す。
なお、国際的な一貫性のある教育と試験ができるように、基礎レベルのシラバスには、①一般的な教育目標、②教育目標の説明と教育内容、③必要となる参考文献が記述されている。教育目標では、[L1]知っていること(knowing)、[L2]活用できること(mastering and using)、という2つの認知レベルが割当てられている。
表1 IREB 基礎レベル 講義項目(クリックで拡大)
EU4 要求抽出
EU4には表2に示した7個の教育目標があり、それぞれに対して、13個の下位の研修単位が用意されている。
表1 IREB 基礎レベル 講義項目(クリックで拡大)
◆EU4.1 文書設計 [L1]
要求工学では、すべての重要な情報を文書化する必要がある。散文体による記述から形式的な意味を持つ図式まで、形式性のいかんにかかわらず要求表現のすべての種類が文書化技法と呼ばれる。
要求文書のライフサイクルにおける文書化に多くの人が参加する。文書化はコミュニケーションにおけるゴール指向の支援機能を演じる。次の要因がこの支援を必要とする。すなわち、要求が長く継続して法的に適切であり、すべてに対してアクセス可能となる必要があることである。要求文書が複合的であることである。
◆EU4.2 文書の型 [L1]
他の事項とともに、通常、システムの以下の3つの異なる側面を表現する機能要求を要求文書が含んでいる。
1. データ側面
2. 振舞的側面
3. 機能的側面
概念モデルの種類では、これらの側面の一つに特化しているけれども、自然言語要求によって、3つのすべての側面を文書化できる。効果的に適用できる文書化の形式は次の通りである。
- 自然言語要求文書
- ユースケース図、クラス図、アクティビティ図もしくは状態図などの概念要求モデル
- 合成された要求文書
◆EU4.3 文書構造 [L1]
要求文書の中心的な構成要素は、検討中のシステムに対する要求である。要求のほかに、文書の目的に応じて、要求文書にはシステムのコンテクスト、技術的実装の特性などの受入条件についての情報が含まれている。要求文書の管理可能性を確信するために、そのような文書はもっとも適切に構造化されているべきである。
完全性と柔軟性のいかんにかかわらず、要求文書に対する参照構造は、現場でテスト済みの内容構造を提案している。要求文書の一つの共通参照構造がIEEE std.830-1998(ソフトウェア要求仕様に対する参照構造)である。
実践的には、要求文書に対する参照構造の利用から多くの肯定的な効果があることが分かっている。たとえば、参照構造を利用することによって後続する開発活動での要求文書の使用(たとえば、テスト項目の定義)を単純化する。一般的に、要求文書に対して参照構造を1対1で採用することはできない。この理由は、分野、企業、プロジェクト固有の環境に対して詳細に内容構造を頻繁に適応すべきだからである。
◆EU4.4 要求文書の利用 [L1]
要求文書はプロジェクトライフサイクルで、以下のような多くの活動に対する基礎として役立つ。
- 計画
- 実装
- テスト
- 変更管理
- システム使用とシステム保守
- 契約管理
◆EU4.5 要求文書の品質基準 [L2]
後続する開発プロセスに対する基礎として役立つために、要求文書はある品質基準にふさわしくなければならない。具体的には、以下の品質基準が含まれる。
- 無曖昧性と一貫性
- 明快な構造
- 修正容易性と拡張性
- 完全性
- 追跡性
◆EU4.6 要求の品質基準 [L2]
さらに、個々の要求はある品質基準を満足しなければならない。具体的には、以下の品質基準が含まれる。
- 合意済みである
- 順位付けられている
- 無曖昧である
- 妥当で最新である
- 正当である
- 一貫している
- 検証できる
- 実現できる
- 追跡できる
- 完全である
- 理解できる
要求に対する品質基準のほかに、可読性を向上する自然言語による要求に対する2つの基礎的な様式規則がある。
- 短い文と段落
- 文ごとに1つだけの要求を定式化する
続きは本誌でご覧頂けます。→本誌を購入する
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- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要